はじっこ頂戴

日比谷に、思い入れのあるパン屋さんがひとつ。

2022年の夏、憧れの銀座エリアで初仕事を終えてお昼ご飯兼ご褒美に買ったのがそこのしらすフォカッチャだった。日比谷でバイトしていた期間は、退勤後にパンとコーヒーを買って日比谷公園でもぐもぐするのがわたしだけの贅沢だったなぁ懐かしい。

そのパン屋さんでは平日のお昼すぎに自家製食パンをひと切れサービスしてくれることがあった。小麦がまろやかでかなり好みの味。不定期開催なので、出会えると幸福が心にまで沁みて3割増しでうまい。そして無料、さいこ〜。お店には足繁く通っていたけど、食パンが手に入ったのは5〜6回に1回くらいの割合だったかな。全盛期のイチローの打率には及ばず。

でここからが本題。
ある日、受け取った食パンがなんと全面茶色かった。本来数十cmの長さで焼き上がる食パンの、両端のどっちか。「ぜんぶ耳かぁ」と思いながら頬張ったら想像以上に美味しくて。そういや筍の穂先とかタコの足のクルンとしたところとか、食材の端ってなんかうまいよなぁとか思いながらわたしは、食べ物の「はじっこ」に価値を見出していた。

玉子焼き、

板のかまぼこ、

手巻き寿司、

伊達巻、

ロールケーキ、

カステヰラ、

鯛焼き。

どれもはじっこ(鯛焼きの場合は型からはみ出たホヨホヨ生地)が ムギョッ っとしていて尊い。ちょっと不細工だけど、なんとなく、生きた人間がその手で作ってくれた感じがする。

そして他の部分とは違う味わいに特別感を抱く。特に炊飯釜のお焦げとかメロンパンの皮とか、そういう火の入ったはじっこたちは香ばしさと食感が格別に良い。反対に冷たいもの、例えばアイス類はソフトクリームのカールの先とかハーゲンダッツの縁がとろんとしてて好き。パピコのフタ部分も何でかわかんないけど美味しいから「はじっこ」認定してあげよう。

味わいに関しては恐らく、その希少性に惹かれているところもある。時々「切り落とし◯◯」なんて言ってはじっこの寄せ集めを売っているのを見かける。絶対美味しいし食品ロス削減の観点でも超魅力的だけど、毎度買ってたらはじっこの有り難みが薄れて価値がわからなくなってしまいそう。だから寄せ集めなくていい。代わりに袋入りの食パンにも1枚、全面耳のやつを入れてやってほしいんですPascoさん。

愛しさを表現したくて敢えて平仮名で書いてるけど、もう字面からしていじらしい。声にも出して言いたい「はじっこ」。ここまで愛を募らせているのは変態チックだけどとにかく好きってこと。

だから皆、とりあえずこちらに寄越してください。あとついでに言うと、わたしがはじっこ取った時に「遠慮しないで」とか言わないで。君らにとって彼らはボリュームの少ない残念な部位かもしれないけどね、わたしは好きで選んでるのよ。

滅多に賛同を得られない、はじっこ美味しい論。唯一「わかる、ウインナー食べる時に思った」って具体的な例を挙げて説得力ある共感をしてくれたのは魚を捌ける料理上手な元彼だったな。わたしお肉食べないからその例えに限っては渋い顔をせざるを得なかったけど。皮肉だね。肉だけに。

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