まとうことと脱ぐこと

※筆者はまだ#94「仮装」を聞いていません。


 テラさまがブレイクしたと聞いている。

 
じゃあテラさまのことを考えようかな。先週から割とずっとテラさまのことで頭いっぱいだが……


 テラさま。美しい人だ。衣装持ちでもあるらしい。#36「僕はテラ」で猿ちゃんの部屋から荷物を全部出して代わりに自分の服で埋めてたらしい。同じ回で自分チョイスの明るい服を大量に大瀬の部屋に勝手に運び込んでいたらしい。テラさまは無欠だから似合わない服なんかないんだろうが、それにしたって自分と髪の色も顔の系統も雰囲気も体格も違う人に似合いそうって服がパッとたくさん出てくるって相当だ。
 そう言えば、爬虫類が超絶苦手だな。#15 「オバケの部屋」では大瀬が部屋でトカゲを飼ってるのに驚いて「バカじゃないの気持ち悪い!」と言っていた。#8「海へ」での猿ちゃん相手の「クールすぎて惚れるぜ」を聞いて、テラさまは「自分が超絶好きで興味関心の第一位に据えられているが、その分自分の裁量で人の好きなものや行動指針に口出しすることもないんだな〜」と思っていたので、この発言が配信当時かなり意外だった。ちなみに今コミカライズを確認したらなくなってたので、まぁなかったことになったのかもしれないが、それはさておき。

 テラさまの、何となく珍しい印象すらあるこのセリフのことを、今更別の場面と合わせて思い出したりしている。
 「夏祭り」のワンシーンだ。

「お面をよく買ってもらった。僕お面が大好きでさ。家に帰ってもずっとつけてた。次の日も、その次の日もずっと。そしたらすごく怒られて、そういうことは気味が悪いからやめてって。しばらくして、捨てられちゃった。」

『カリスマ』#72「夏祭り」より

 在りし日のテラさまがお面をつけ続けていたら「気味が悪い」と言って捨てられてしまった過去を、至ってなんでもなかった思い出のように平坦に、しかし最後の方では思う所あることを隠しきれないように切れ切れに語ったこのシーンである。
 在りし日のテラさまのことは、オタクにはわからない。オタクは今のテラさましか知らない。テラさまはテラさまが見せてくれる部分しか、テラさまとして知らせてくれない。僕はテラ、とあけっぴろげに語ってくれる、その線の領域の中しか見せてくれていなかった。
それ自体は悪いことではない。それが証拠に、自身に対しこのようなスタンスを取るテラさまは、あまり人の内側に踏み込まない。(天堂家で勝手に天堂天彦さんの隠していたことを開陳したことはあるにせよ……ていうかこの辺を思い返すと本当に天堂家でのテラさまってダブスタすぎでキュートすぎる)
 そしてそれはおそらく、一緒に暮らしているカリスマたちもそう思っている。だからこそ2ndシーズン後半始まってからというものキービジュアルの背景色に従うかのように全体モノローグを担当する依央利も、部屋で食事を取ると言われ心配そうな天彦も、その天彦に気づいた理解も、ハロウィンパーティーに出ないと言われてかなりショックだったりフテた声を出したふみやも、いつものように取っ組み合って喧嘩した猿ちゃんも、そしてテラさまの人知らず流した涙という、誰よりも核心に近いところに勇気を出して迫った大瀬も。誰も踏み込みきれない。だって見せてくれてないものだから。仲間を案じれば案じるほど踏み込めなくなる。前回更新で一番シンプルな言葉を投げられられたのが、あの家の客人である虎姫なのが良い証拠だ。
 もちろん見せたくないもんは見せなくてもいいのであるが、そうやってテラさまが誰にも見つけられないように夜闇に隠した顔は泣いていたのである。だからハウスの皆さんもずっとその身を案じているし、その向こうに迫りたいのだ。
一人で泣いているなら、できることをしてあげたいのだ。
 
 爬虫類の特徴のひとつとして、脱皮することが挙げられるだろう。テラさまご自身が誰かの部屋に勝手に置きに行けるワードローブの中身とは違う、服を取り払ったテラさまそのものにも、すっかり隠してしまった成長過程の抜け殻のようなものがあるのかもしれない。抜け殻。自分の形をして、そこに自分は居ないものだ。たしかに自分であったと同時に、もう自分ではないものだ。
 テラさま。色鮮やかなクローゼットのどこかにかつての自分を隠してはいないだろうか。それを思い出すたびに苦しかったり悲しかったりするのだろうか。ならば燃やしてしまえば良いのか、抜け殻も部屋に飾れるようになれば良いのだろうか。モチーフとして考えておきながらオタクもよくわからなくなってしまった。

 今回何ブレイクなのかも知らないし、テラさまがどんな服を着ているのかも知らない。どんな顔しているのかも何も知らない。何も知らないからオタクはあなたに、無責任に「幸せでいてくれ」と祈ることしかできない。

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