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マンチェスターUの落日 バルセロナvsマンチェスターU 2010/11 CL決勝

プレミアリーグの王者が完膚なきに敗れこの後欧州でしばらく勝てなくなる切っ掛けとなった試合だった。
ファーガソンの40年近いキャリアの集大成が目前で粉々に打ち砕かれた
しかしよく観ればこれでよくまあマンチェスターUは決勝までたどり着けたものだし、今観ればプレミアリーグのレベルもしれたものだと思う。

ユナイテッドの敗因は実質まともにディフェンスをしているのが6人程度だからだ

バイタルエリアを制圧されるユナイテッド

4-4-2の泣き所の最終ラインと中盤のライン間で間受けを狙うバルサの選手達を押さえられない

その理由は中盤の数的不利
下のシーンはバルセロナが5人の選手達(画像の下に隠れているアウベスも含む)でピッチの横幅を埋めているのに対してユナイテッドの中盤は4人でカバーしているので必然的に1人で2人を見る事になる。

このシーンはブスケツのフェイントにギグスが釣られイニエスタの方に体重が移動した瞬間にメッシに通される一番許してはならない崩され方をされたが
中盤の数的不利がこの試合を通してユナイテッドの首を絞め続けた

更に何故ユナイテッドの中盤と最終ラインはこれだけ間延びしているのか
ペドロとビジャの2トップがユナイテッドのSBと対峙する事で最終ラインを押し上げられなくしているからで故に中盤がメッシにパスを通されるとCBの1人が単独で詰めざるを得ずそれも交わされると

間延びしたバイタルエリアでメッシの恐怖のドリブルを許してしまう
メッシの偽CFと呼ばれる戦術の最大の意味はここにある

先制点のシーン

はユナイテッドの構造の問題がモロに出た
前がかりになったマンUが中盤でボールを奪われ2対3の数的不利となったところから始まりシャビにCHの裏を取られた

左右のカバーが届かない中間でパスを受ける事でシャビはバイタルエリアでドリブルを仕掛けられメッシは前線に残っている

一度左右に広がってからこのようにボールロストすれば最早バイタルのカバーは追い付かない

オフサイドライン上の駆け引き

エブラはメッシに釣られペドロはその空いたスペースに流れCBビディッチの裏を取るのに成功
ビディッチとしてはペドロに釣られると空いた中央のスペースをメッシに使われるのでペドロを視野の外に逃してしまうのは無理もない
しかもシャビはオフサイドぎりぎりのタイミングでパスを出すし

歩幅を変えずにアウトサイドパスを活用するのでタイミングが読みづらく

反応した時にはすでに遅かった

ボールを奪う術の無いユナイテッド

故にバイタルエリアの封鎖も当然だがそれ以上に如何にメッシに渡る前にボールを奪うかがカギなのだが

最終ラインのビルドアップを阻止できない2トップ

CBの間に下りてくるシャビに対する前線のプレッシャーがこの通り甘いのでまず攻撃の起点が潰せれない

しかもFWの自陣へのプレスバックの意識も試合を通して殆ど見られず中盤がバイタルエリアを埋めようとすれば
前線と中盤がこれだけ間延びしてしまいそのスペースをバルサに使われてしまう

数的優位の仕組み

メッシとイニエスタに左右のSBが同じ高さに構えればユナイテッドの中盤が全員マンツーマンとなり後方のシャビとブスケツに対しては2トップが当たらなければ1人はフリーとなってしまう
2人とも押さえたとしても今度はCBが2人とも浮いてしまう

再び下がってビルドアップするシャビに対してルーニーはプレスバックの意識が無いために
パク・チソンがメッシのマークを外してまで間合いを詰めようとするがこんな距離からでは無謀過ぎる       

ノープレッシャーのアビダルに一旦振りシャビはそのまま前進すると

サイドに釣られやすいギグス

逆サイドのギグスがアウベスに引っ張っられているのでパクはシャビとメッシの2人を見る羽目になった

CBが前に出て詰めるのかそうでないならSHがサイドを捨てて圧縮するのか、そうでなければFWがプレスバックするのかをはっきりしなければこうしてバルサに好き放題にやられて全てが後手に回ってしまうのだ

ギグスをセンターで起用するとリスクが増大する

右サイドのバレンシアもディフェンスのインテリジェンスが低い選手だ
例えばこのシーン
ルーニーが棒立ちしているのでギグスがイニエスタに詰めるがキャリックはシャビに引っ張っられ2人のCHの間隔が開いてしまっている
しかもバレンシアのSBとの連携がおかしいのでアビダルがどフリー状態だ

ボールはそのアビダルを経由してシャビに渡るが
ギグスは急いでこの位置に戻るでもなくシャビにプレッシャーをかけるでもなくむざむざとメッシにパスを通されてしまう

全くギグスが中央でボランチをやるとバルサ相手だとリスクが倍増だな

パクはギグスと違って中央のカバーに回れるがメッシにいなされキャリックがそのカバーに入るとまたシャビがフリーになってしまう

パクがそのままメッシに付いて行ってしまえば右サイドのアウベスはどフリーとなり
しかも最終ラインは押し下げられバイタルエリアも奪われてしまう
しかもギグスはこの状況でも傍観している

ユナイテッドの中盤でチャレンジ&カバーの意識を持っているのはキャリックとパク・チソンだけだ
実質6人だけでディフェンスをしているのがよく分かる

そのバレンシアとギグスとの連携ではシャビとイニエスタを押さえられないのでパクもカバーリングの過剰労働を強いられる

2人とも脚が止まりやすくシャビには簡単に裏を取られキャリックはボールに詰めざるを得ないが
ここも突破されるとパクが反応した時にはシャビもメッシもアウベスもフリーだ
もうこうなるとCBが前に出るしかないがかなりのリスクを覚悟しないとな

アンカー役がいなければとても守れない

ではギグスがサイドなら守れているかといえばそうではない
後半のこのシーンはイニエスタがメッシの落としを受けるタイミングでアウベスがビジャの空けるスペースに走り込もうとしているがギグスは

簡単に裏に抜けられてやがる

メッシのゴラッソ決勝ゴール

はそんなギグスが結局ディフェンスに穴を作って生まれた
メッシに付くべきだがまたしてもサイドに気を取られているのが分かる
左SBのエブラはビジャに押さえられているのでここでギグスがハーフスペースを埋めなければ一番危険な選手に前を向かせてしまうのだが

こんな深い位置まで引いているギグスの頭の中にはつい先ほどアウベスに裏を取られたのが気になって仕方ないので、それをさせないという考えしか無いのがよく分かる
しかしメッシの恐ろしさをこの3秒後に思い知らされる
ビディッチは今さらエブラに前に出ろと指示をしても遅かった

しかし目の前にDFがいようとお構い無しにシュートをぶち込むのはこれはバルセロナではなくかつてJリーグの得点王にもなったラモン·ディアスもそうだったように明らかにアルゼンチンのストライカーとしてのDNAだと思う。
これではGKもどこから抜けてくるか読めるはずがない
だからこそユナイテッドのディフェンスがいかに間違っているか分かる

偉大なスコールズのラストファイナル

最後にだめ押しゴールを決められたユナイテッドはこの男が投入されたラスト15分ほどでフットボールが出来た点に触れたい

ポール・スコールズ

ヨハン·クライフにバルサのDNAを持った選手と評されたフットボールセンスに溢れるチーム1のコンダクターが入った事でボールが回り出した

シャビのようにCB からパスをもらえる位置に顔を出すスコールズが入ってそれまで前線に蹴るだけだったのがビルドアップが可能となった

その効果でCBがピケのようにボールを運ぶシーンも生まれ

バイタルエリアでルーニーにつながりドリブルを仕掛けるシーンが初めて生まれた

この形どこかで見覚えがないか

バルサのメッシシステムと同じ形じゃないか
しかしファーガソンがこういう形も作れると今さら気付いても遅い

おそらくスコールズをフルで使う戦略は無く膠着状態を打破する為のカードだったと思うが、予想を遥かに越える守勢に陥り反撃が後手に回ったのはファーガソンの迷走を表している
ギグスを最後まで引っ張ったのも疑問だ

少なくともディフェンスの際は4-5-1にして中盤を分厚くしなければバルサの波状攻撃を防げるはずがない
にも関わらずファーガソンは態勢が決まるまで2トップをカウンター要員として前線に残し続けた
ルーニーの1トップ(偽9番)あるいは中盤に組み込むという選択も用いればもっとバルサ相手にも張り合えたはずだがそこまでの引き出しを持つほどの経験がファーガソンにはなかったと思う

試合後、ユナイテッドの選手達が茫然自失している中1人だけユニフォーム交換に応じたのはスコールズだけのようだった
恐らく他の選手達を何を言えば言いのかわからない中で冷静に振り返られるのは彼だけだろうな

ファーガソンの表情を見ると悔いなしのように見え今、握手している監督にこれからのフットボールを引っ張っていく役を託しているようにも見える

しかしフットボールの進化のスピードは凄まじく彼ほどの百戦錬磨もあっさりと頂点から落とされた

グアルディオラもいつかそうなってもおかしくない

イングランドの伝統のスタイルはこの後ヨーロッパで勝てなくなりこのペップバルサによって引き上げられたスタンダードに追い付いてくるのはグアルディオラがマンチェスターシティの監督に就任してからである

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