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学芸大学附属高校の合格者数と辞退率

 東京学芸大学附属高校(学附高)は首都圏の高校受験における有名校である。今の中高生の親世代にとっては難関名門校というイメージが強い。しかし近年、劇的に様子が変わっているようだ。

 この記事は、「学芸大学附属高は繰り上げ合格を含め何人に合格を出しているか」「学芸大附属高の合格者の何%が辞退して他校に進学しているか」について考察する。

 まず結論を図に示す。2019年から2024年まで6年間の推移を示す。図1・合格者数では、募集人数と、正規合格人数、および繰り上げ合格を含めた最終合格者の推定人数を示している。図2・合格者辞退率では、2つの方法で推定した辞退率を示している。

図1 学芸大学附属高の各年度の募集人数・正規合格人数公表値と最終合格人数推定値
図2 学芸大学附属高の各年度の合格者辞退率推定値

 結論から言うと、学芸大附属高の直近3年間の最終合格人数は約400人、合格者辞退率は約70%と考えられる。特徴的なのは、正規合格者数が2019年から一貫して増加し続け、近年では募集人数120人の2倍以上となっていること、および繰り上げ合格者数が、2019年の約200名からは減ったものの、約120~150名で募集人数を上回っていることである。

 同校の繰り上げ合格は、公立高(都立高・県立高)の合格発表後に行われる。公立校の合格発表前に学附高に正規合格し入学手続きをした生徒が、さらに公立高に合格して進学先に公立高を選ぶか、またはこの時点で私立高から合格通知を受けてそこへの進学を選んだ場合、学附高には入学辞退届を提出することとなり、その欠員分を補充するために行われる。

 繰り上げ合格の120~150名には、当然だが公立高合格者も含まれ、公立高合格者以外もすでに私立高の入学手続きを済ませている。したがって繰り上げ合格通知を受けた生徒がみな学附高を選択するわけはなく、学附高の繰り上げ合格通知を受け取っても入学手続きをせず、いわば「無視」する場合が多い。このため学附高としては、募集定員120名を充足するまで何回も繰り上げ合格を出さなければならない事態となっている。事実、ある塾の2024年度合格実績は3月7日時点でも学附高の合格者数が増え続けている。繰り上げ合格人数120~150は、何回も繰り上げ合格を出した末の最終的な合計人数である。

 なお都立高や神奈川県立高では繰り上げ合格や補欠合格は制度として存在せず、仮に入学手続者から大量の辞退者が出た場合には二次募集が行われる。一方、私立高は繰り上げまたは補欠を実施している。繰り上げ合格では合格発表で不合格となった受験生に後日合格通知が来るのに対し、補欠合格は合格発表の時点で「不合格。ただし補欠グループA」等として補欠順位が通知されるもので、人数を公開している場合もある。例えば慶應義塾高の2024年一般入試では入学予定者283名に対し、正規合格306名、補欠通知199名中118名の計424名が合格しており、辞退率は33%である。

 他方、学附高を含め、繰り上げ合格実施校は繰り上げ合格数を公表していない場合がほとんどで、最終的な合格人数は周辺の情報から推定するしかない。学附高が公表しているのは募集数と正規合格数だけで、「表向きの辞退率」は実態よりもずっと小さい。受験者側の我々が各高校を判断する一助として知りたいのは実際の辞退率であって、この記事の意図はそこにある。

 これは完全な推測だが、学附高の正規合格者約270名のうち、入学手続きをしない者が70名程度、公立高合格発表後に公立や私立(繰り上げ・補欠)進学を決めて辞退するのが130名程度で、この時点の充足数は70人程度ではないか。残りの50人を補充するのに120~150名に繰り上げ合格を通知しているとすると、繰り上げ合格の「無視率」は60~70%程度ということになる。

 ここで正規合格者のうち入学手続きをしない者とは、正規合格したものの、公立高の合否にかかわらず学附高には入学しない意思を示した生徒で、はっきり言えば「はじめから学附高に入学するつもりはないが記念に受験した」人たちである。普通に考えれば迷惑な存在だが、人気の低下に歯止めがかからない同校には貴重な存在となっているようで、「入学する意思はほとんどない」大量の受験生を組織的に送り込む一部の塾の存在は、むしろ同校の入学者のレベル低下を食い止める一種の生命線となっている感すらある。この件は、2016年の校内いじめ隠蔽事件以降に同校が引き起こし、首都圏高校入試界に未曽有の大混乱をもたらした同校の「他校への迷惑を無視した利己的制度変更」「入試ルールを無視した受験生・中学校への不当強要」事案とも密接に関係するもので、別途詳しく取り上げたいと考えている。


 本記事で行った最終合格人数と辞退率の推定方法は以下のとおりである。
 まず、合格者数の推定を以下の3段階で行った。

  1. 高受ナビ掲示板において、各年度の各塾の合格発表数を合計して、定数を120人とした場合の辞退者数を集計されている方がいるので、その数値に120を加えて推定合格数(1)とした。 

  2. ある年度の合格者に占めるSTEP出身者の比率が正規合格・繰り上げ合格ともに同じと仮定し、公表されている正規合格数に対する、STEP出身者の正規合格数と繰り上げ合格後の最終合格数の比率から、正規合格数に対する最終合格数を算出し、推定合格数(2)とした。なお過去のSTEP出身者の正規/最終合格数は同社のIR資料に記載されている。

  3. 2021~24年の推定合格数(1)と推定合格数(2)について有意水準0.05のχ2乗検定を行い、有意差がないことを確認したうえで2019~24年の推定合格数(2)を各年度の合格者数とした。

 次に、各年度の合格者数から定数120を減じた値を辞退者数とし、辞退者数を合格者数で除して辞退率を求めた。辞退率については、推定合格数(1)(2)の双方を記載し、図中では各々「高受ナビBBS」「STEP線形」と称した。



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