パイロット訓練でつまづく学生

PPLのフライト訓練の技術的なことに絞って考えてみると、大きく分けて2種類あると思う。

一つ目は、お馴染みのAttitude Flightができないというもの。姿勢を止めることができない。止めるということがどういうことかわからない、頭ではわかっていても、他のことを学ぶうちに姿勢から目を外してしまう、姿勢は放っておくとずれるものだという危機感がない、、、

とくに、サーキット訓練に入るまでのAb-initio(上昇やターン、水平飛行などの基本のこと)段階で、姿勢を止めることを曖昧にし、「姿勢管理に対する危機感」を身に付けなかった学生に多い。スケジュール通りに進めることを優先し、評価を緩くして基本訓練をただ消化してしまうのだ。これは、それを許した教官が悪いとも言える。

対処法は、短期的には姿勢を見ること以外をさせないこと。無線も、チェックも、そして計器も全て隠す。え?レベルオフの高度?そんなもん10時間も飛べばいいかげんわかるだろう。同じところを飛んで滑走路が同じ角度で見えればそれは同じ高度だってことだ。(実際今日隠して飛んだ学生に勘でレベルオフさせたらぴったりだった。)え?ファイナルのスピード?そんなもんコクピットの騒音と姿勢でわかるだろう。失速するかも?なんのために失速警報がついてんだ。鳴ったら下げればいいだろう。

そうやって計器を見ず、無線を入れず、チェックもせずに黙って外を見て飛ぶと、だいたい計器がある時より飛行が落ち着き、ファイナルが安定し、あんなにバルーニングだのバウンスだのでお祭り騒ぎになっていたランディングが、予想以上にスムースに決まってしまってハニワ顔になる学生が多い。

ただ、もちろん計器を見ず、無線を入れず、チェックをせずに飛ぶわけにはいかないので、長期的な対処も必要だ。徹底的に「姿勢管理への危機感」を植え付けた後は、その他の仕事を増やすために時間をかけて姿勢管理を運動神経に組み込ませる。今は100ktそこそこで飛ぶ飛行機だから、ピッチを3度変えたってせいぜい500fpmちょいの上下で済む。これを300kt近い速度で飛ぶ飛行機でやったらどうなるんだと。50ftのズレを1500fpmで直すことになるんだぞ、2秒目を離したら終わりだろう、と。この先ずーっとトマホーク乗っているならいいんだけど。

二つ目は、フライトの全体像が見えなくなるというもの。Situational Awareness(SA)がなくなるともいう。

これはもっとフェイズが進んだ後、例えばフライトテスト直前などに突然やってくる。それまでよくやっていた学生が、急に変なジャッジメントをしだしたり、考えられないミスをしたりする。そういう意味で、一つ目よりタチが悪いかもしれない。初期でピックアップできない可能性があるからだ。

こいつの原因は、ブレインキャパシティだと考えている。つまり、フライト中のワークロードが、頭の容量を超えてしまうのだ。「姿勢管理への危機感」を持っている学生は、ここで飛行機を飛ばすことを諦めず、従ってフライトそのものは割と綺麗だったりする。(だから分かりづらい)

例えば、普段のコンディションでフライトをする場合、頭の30%くらいで飛行機を飛ばしているとしよう。(PPLで30%ならすごくうまい人だと思う)残りの70%のうち、50%を他のことやジャッジメントに使い、残りの20%をエマージェンシーのための余剰としておく、みたいなのが理想だろう。ところが、天気が少し悪くて前が見づらかったり、揺れる日だったりすると、飛行機を飛ばす作業だけで頭の70%を取られてしまったりするのだ。当然、残りの50%の状況コントロールのうち、こぼれ出した20%ファクターがフライト全体に影響して「いきなり」変なジャッジメントをしたように見える。まして、エマージェンシーがこようものならてんやわんやどころの騒ぎでは済まないかもしれない。

いいニュースとしては、この手のタイプは飛行機を飛ばすことを犠牲にしないということだ。(実際には程度の問題でフライトの精度が乱れることは多々あるが)だから、飛行機が飛ばなくて箸にも棒にも、というわけではない。

ただ、ちゃんと飛ばしているからこそ、教官からは分かりづらい。もしこれをピックアップされないまま、たまたまいいコンディションの日にPPLのフライトテストを受けて受かっちゃったりなんかすると、クロスカントリーで遠くに行った後、取り返しのつかないミスをしたりすることになる。怖すぎる。

対策は、短期的にはやはり仕事の優先順位だ。限られたキャパの中で、仕事があふれ出ないように優先順位をつけ、逐次処理していく。そして、長期的にはキャパそのものを大きくする必要がある。コンディションが悪い時にあえて山につれていったりするのがいい。わざとグチャグチャにするのだ。フライト中も常にプレッシャーを掛け続けて、ことあるごとにPICとしてのディシジョンを迫る。飛んだ後は学生は疲労困憊して「何を学んだのかわかりません、全然ダメなフライトでした。」みたいなコメントになることも多い。

で、次の日飛ぶと、なぜかあれほどダメだったフライトが、ソロで余裕で飛ばせるようになっている。それは昨日のプレッシャーで自分の枠が膨らんだから。そうやってキャパ自体を広げていくことが大事。


と、偉そうに書いてきたけど、何を隠そう、その昔、私自身が上のような学生だったのだ。下手くそだったのでよくわかるんです。学生は大変ですね。



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