トランプが勝って、日本が買ったは、本当か。

トランプ米大統領が国賓として来日し、天皇陛下に謁見、宮中晩餐会での接遇を受けた。安倍総理大臣は、ゴルフ場でトランプ大統領との自撮り写真をSNSに公開したり、国技館の升席に特別な座席を用意したり、空母型護衛艦の艦上に自衛隊員と米国の兵士を招いて同時に訓示をしたりと、トランプ大統領を手厚くもてなした。

現代では便利なことに、海外から日本のテレビ番組をリアルタイムで視聴できるサービスがある。ところが、ニュージーランドからニュースやワイドショーを見ていて、今回のこの一連の「マツリゴト」をどう評価していいのか、一向にわからなかった。日本にとって、よかったのか、悪かったのか、得をしたのか、損をしたのか。メディアの情報を見ていても、本当に、まったく、わからなかった。他の人はどう考えているのかと、ツイッターで「トランプ」と検索してみたら、日本語では概ね

「安倍は異常な接待の結果、トランプにF35を100機も購入する旨約束させられただけ。やられっぱなしじゃないか、全く何やってんだ」

というような評価が多いと感じた。ということは、日本は損をしたのか。この「日本だけ損してアメリカにいいように巻き上げられてる」という感覚は、正しいのだろうか。テレビを見ていても、わからない。埒があかないので、一次情報に当たることにした。

トランプは、本当に勝ったのか

トランプ大統領は、本人がツイッターをやっていて、一次情報が世界にいきなりばら撒かれる。稀有な政治家だ。

安倍首相にしてみれば、何でオフレコで話したことをバラすんだ!というところだろうが、私は、なぜトランプがこのツイートをしたのか、という視点が大事なんじゃないかと思った。

このツイートについたコメントを見ると、具体的な成果とはなんなのか、説明してみろ!と、辛辣なコメントが続く。つまり、トランプ大統領にしてみれば、日本にいって、もてなしを受けて帰るだけでは不十分で、何かしらの成果を持ち帰らなければいけない、という危機感があるのではないだろうか(当たり前だが)。

ところが、安倍首相には「譲歩はするが、選挙の後にしてくれ」と言われて公式に合意を宣言するには至らなかった、よって、このツイートが、トランプ大統領にとってギリギリの譲歩だったのではないだろうか。敵の多い彼にとって、「具体的な成果」は、自転車操業のキャッシュフローのようなもので、要するに、トランプも必死だったのだ。

トランプ大統領にすれば、個人的なメンツ以外何の保証もない口約束で、仮に衆参ダブル選で与党が交代し、次の日本の戦闘機はグリペンにします!って言われる可能性だって、0ではないのだ。(半分冗談、半分本気)。

記者の質問に「全く」答えない首相

その後、両首脳は、共同会見を開いた。冒頭演説でトランプ大統領が、8月の通商交渉の妥結について言及し、日本テレビの記者が安倍首相にこれに関連する質問をした。日経新聞の以下の記事には、会見の書き起こしがあるが、起こされていないやりとりもあり、その記者の質問も省略されていた。この質問については、あとで触れる。

ということで、ここでも、編集されたメディアの情報ではなく、一次情報に当たってみよう。首相官邸のホームページに、会見の全内容が上げられている。

例えば、23:30からのウォール・ストリートジャーナルの記者の首相への質問、

「今後6ヶ月間、自動車や自動車部品への関税をかけない旨の確認を、トランプ大統領から引き出せましたか」

に対する答えは、

「9月の共同声明に基づき、実務レベルで話し合いが行われていて、その議論を加速するという認識で一致した。」

である。質問に全く答えていない。事実、直後にその記者から、もう一度聞いていいですか?通訳がうまくいっていないのかも、、と食い下がられ、トランプ大統領が「そのための通訳なんだろう、そのへんにしてくれないか」と言っている。つまり、曖昧な答えを通訳のせいということにして、納めてくれということだ。

また、24:40からの日本テレビの記者の質問は、以下の5点だった。ちなみに、二つ目の質問が、例の「8月発言」に対する質問で、日本語によってされた質問である。

「米国との関税交渉について、譲歩できる最大レベルはTPPのそれを基準にするのか」
「交渉の具体的な日程として、大統領の8月に成果発表という発言に同意するのか」
「具体的な日程について、今日、大統領と話し合ったのか」
「米中の貿易摩擦の今後の展望について、今日、どのような話し合いがあったのか」
「米中の貿易摩擦緩和のための、日本の役割とは」

ところが、安倍首相は開口一番、

「質問は2つあったと思います」

と言ってのけた。動画を見ながら、うぉい!と突っ込んでしまった。質問を把握した上で、答えたくないので意図的に無視したのか、質問をそもそも理解しようとする気がないのか、判別がつかなかった。そして、当然のように、それぞれの質問には答えなかった。最後の質問に至っては、「米中両国が対話を通じて建設的に問題解決を図ることを期待している」と、日本の役割への言及は皆無だった。

記者の質問も悪い

ただ、1回の発言に質問を5個も盛り込むのは、このように質問を全部覚えていないことを、具体的な回答をしていない言い訳にされかねないという意味で、記者の質問のしかたも悪手だった。

米国側の記者は基本的に(すべてではないが)一度に一つの質問しかしないし、その回答を得てから次の質問に進む。質問にフォーカスして、具体的な答えを引き出そうとする。

それに対し、日本の記者と安倍首相の間でなされる質疑応答は、予定調和的で、両者にまったく危機感が感じられない。安倍首相は、まさか具体的な数字について聞かれるなんて考えていないし、記者も、首相がまさか自らコミットメントをぽろっと言うなんて考えていないので、よく見ると全く成立していないこの質疑応答が進行しても、米国の記者のようにもう一度確かめもしない。何より救いようがないのが、これで両者が仕事をした空気になってしまっていることだ。記者会見なのに質疑応答が成立していないというこの奇妙な状態は、安倍首相と日本の記者のいわば無意識の共謀の結果ということになる。

対立が存在することに恐れをなす首相

だから、安倍首相は、最初のウォール・ストリートジャーナルの記者の質問のように具体的に回答できる質問(そもそも、それが質問の目的なので当たり前だが)をされると、びっくりしてしまうのだ。えっ、そんなの聞いてないよ、と。

おそらく、安倍首相にとって記者会見とは台風のようなものなのだろう。具体的なことを何か言えば、それを揚げ足に取られて直ちに過去の発言との矛盾を突かれる。いかに失点をしないか、が大事なのだ。政治家にとってそのような防衛本能が働くのは理解できる。だが、それにしても度を越している。なにしろ、具体的なことを「何一つ」言わないのだから。

特に、米国と対立点となりうる質問を受けた時の狼狽えようには、目を覆うものがある。再び動画を見てみよう。35:50のロイターの記者の質問に注目して欲しい。

「大統領の、北朝鮮のミサイル発射に関する楽観的な見方に賛同するのか。」

この質問を受けて、明らかにしどろもどろになっている安倍首相を見て、あなたはどう思うだろうか。

いったい、何をそんなに恐れているんだ、と言いたくならないだろうか。

「北朝鮮のミサイル発射については、私は大変遺憾に思っています。」と、まず結論を述べればいいのに。「その点では、大統領と認識が異なるかもしれませんが、これは日米の地政学的な立場の違いによるもので、米国と協力して北朝鮮の非核化と拉致問題の解決にあたることに、差し障りはありません。」でいいじゃないか。

通商問題にしても、ここまで交渉が続いていて、ここまでは一致しているけれど、この点については立場が少し異なる、と、堂々と言えばいいじゃないか。ましてや、実務レベルの交渉が継続していると自分で言っているのだ。ペンディングの話であれば、たとえ、今決定的な対立があったとしても、最終的に妥結すればいいだけだ。それを言えばいいじゃないか。

実は、この記者は、質問を二つしていて、「ご自身のイラン訪問で何を達成したいか」ということも聞いたが、一つ目の質問をクリアするのに必死で質問が二つあったことを忘れていたようだ。39:03に、司会者に「イランは、、よろしいですか」と促されて、青息吐息で答えている。

翻って、トランプ大統領は記者の質問に対し、まさに持論を「その場で展開」している。冒頭の演説では、透明な板越しにひどく退屈そうな顔をみせるのに、するどい質問になればなるほど、自分の考えをぶつけている。その根底にあるのは、「今は敵だけど、あいつらもバカじゃないからそのうち取引に応じるだろうし、それをまとめる自信がある」という根拠はないが圧倒的な自信で、賛否はあれど、少なくともトランプ大統領としては論理展開の確たる軸としてこれを据え、記者の質問には何回も「GOOD DEAL」をキーワードにして答えている。質問に答えるという記者会見の趣旨に照らして、どちらが誠実な態度といえるだろうか。

安倍首相の姿は、今の日本を正確に反映している

しどろもどろになる安倍首相の姿を見ていてこう思った。

あんたは日本国民を代表してそこにいるんだろう、もっと堂々と、冷静に、論理的なやりとりをしてくれ。あんたのその姿は、国民が世界からどう見られるのかに直結するんだぞ、、、

と、ここに至って、ある絶望的な考えに思い至った。

つまり、私はこの安倍首相の映像をみて、これこそが日本人の、正直な姿なのかもしれないと思ったのだ。つまり、

・接待によって、忖度を期待する
・対立の存在は、悪である
・同盟国同士では、立場の「完全な」一致が正義である。
・具体的な情報は、命取りになる。
・「仲良くなること」自体が外交の目的であり、成果である。
・具体的な成果は、こちらがこれだけ接待したのだから向こうも相応のお返しをしてくれるだろうから一つ一つ確約を取る必要はない。

というような態度だ。外国の記者とのやりとりではしどろもどろになるが、日本の記者とのやりとりでは全く答えていないにもかかわらず何となく答えたようになっていることからも、これは日本のカルチャーで直しようがないのかもしれない、と考えて、ほとんど絶望的な気分になった。

上記が正しいとすれば、安倍首相の「外交」では、誰かと「仲良くしたこと」自体を成果としてしまうことや、両首脳が会った後に具体的な日本の利益が、何一つ国民に見えないことにも納得がいく。一方、トランプは支持率を維持するために自転車操業のように具体的な成果を取りに来る。トランプのカード(欲しいもの)が判ってるのなら、そこにつけこんで交換条件を出せばいいが、そうはしない。

相手がほしいものが判ってるなら、それを交換条件に日米地位協定の見直しとか、横田空域の返還とか、日本が攻撃されたときに米軍が自衛隊を支援することを義務付ける条約改訂とか、普通の大統領なら首を縦に振らないディールができるかもしれないチャンスなのに。せっかく接待をして「仲良く」なった相手に、そんな「失礼な」ことはできないと、こういうわけだ。

政治を「お上」に丸投げする文化

これは、安倍首相だけではないはずだ。日本の歴代の首相を見ても、揚げ足取りに恐れをなして本当の考えを隠す。誰に対して?記者に対して、つまり、国民に対してだ。

国民側も、政府を新聞の川柳やツイッターという手軽なツールで批判するのが関の山で、政治家を人格攻撃してそれでおしまい。これでは将軍綱吉を「犬公方」と呼んだメンタリティと変わらないのではないか。政治は「身分」の高い「上級国民」の専売事項で、「庶民」は丸投げするしかなく、自分自身が政治に関与できるという実感が薄い。だから、仕事があるから、投票したい政党がないから、投票してもどうせ何も変わらないだろうから、というような理由で選挙にも行かない。特に若い世代の国政の低い選挙率にもそれが現れているように感じる。

安倍首相は、国益について国民と真剣に話し合ってないから、何が国益なのか国民も合意を作れてないし、もちろん首相はそれを代表できない。日本国民は、米国から何を得たいのか。この合意形成をないがしろにしていれば、首相もそれを代表できないのは自明で、結果として、ただ選挙に勝つことのみを目的に全ての政治活動を行うようになる。書かれたことしか答えない首相の態度は、予めの質問しかしない記者、選挙に行かない国民と三位一体なのだ。

外国に住むとわかるが、自分がどうしたいのか、はっきりと言えないやつは、そのうち無視される。自立してない人間は、内省しないので無視されると、恨んで、関係が改善されないと、自律も失い突然、暴発する。

そうならないためには、自分が本当は何が欲しくて、何を妥協できるのか、知らなくてはならないし、知るための継続的な努力が不可欠だ。そういうことを考えたり、考えて実際に投票したりすることはしんどいなことだけど、このままでは日本の政治家(=国民)は世界からバカにされ、カモにされ続けるだろう。

次の参議院選挙が7月に予定されている。そろそろ本気で、政治家を選び、監視し、税金の使い道の優先順位を聞かれたら、自分自身が即答できるくらいにならないと、本当に、やばいぞ。

結論:選挙に行こう!



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最後までお付き合いいただきありがとうございました!

ざす!
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Ashzk

ニュージーランドで飛行士をしているうさぎ飼いです。飛び仕事があった日は、一言日記に写真をつけて。ワンオフ(500円)の有料マガジンは、専門用語多め、訓練やフライトの内容をより具体的、かつ包括的に。2019年7月の参院選以後、政治的な話もするようになってきました。マガジンも見てね。

政治のこと

2019年7月の参議院選挙以降、政治的な話が面白くて。ただし、左右の憎しみ合いは扱いません。
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