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今だから語れる西郷どん④もう一つの人々の望みの器・一橋慶喜、怒涛の合法的ステップアップ!篤姫

だいぶ間が空いてしまいましてすみません。今年も変わらず西郷どんが大好きなので、このレビューはできる限り続けていきます。相当駆け足になりそうですけどお付き合いいただけたら幸いです🤗

今回は、6-10回の後半、篤姫とヒー様について語ります。語らせていただきます。この二人も非常に面白くてですね、ヒー様はその血統の良さで人々に望みを託され、一方の篤姫は血筋ではなく気っ風の良さから人々の望みを引き受ける。後で出てくる久光もまた西郷や慶喜と対角に位置するようなリーダーなんですけど、篤姫もまた西郷どんの描く星座の一つなんです。

そして面白いのはこの篤姫がちょっとびっくりするくらいスペックが盛られていくんですね。島津家一門とはいえ、傍流の分家に生まれた娘が、本家の姫になり、五摂家筆頭近衛家の養女になり、将軍御台所となり、大御台所 兼 14代将軍家茂の養母格となる。あくまで当時の社会意識で可能な範囲内なんですけど、合法的に身分というものをぐんぐんあげていくんです。

それを引き受ける篤姫のメンタリティは賭け事好き。この二人の描写はとても面白かったですね。というわけで行ってみましょう!

もう一つの器

須賀の残した金と、正助が金策してくれた金、両正妻のお陰で江戸詰めがかなった吉之助。3月〜4月はこの時期のメインイベント・将軍継嗣問題にまつわるあれこれに吉之助が関わり、成長していく様が描かれます。

ここでいう将軍継嗣問題とは、普通に次代将軍指名めぐる政権争いなんですけれど、14代将軍をめぐるこの争いを後世の我々は特に「将軍継嗣問題」と呼びます。

一方は、外様含む有力大名による合議制への移行を目論む阿部正弘-島津斉彬ライン(一橋慶喜推し)、一方は代々続いてきた徳川の譜代たちによる施政および幕藩体制の維持を意図する井伊直弼&大奥(徳川慶福推し)、この二派の間でさほど熾烈でもない次代将軍をめぐる政争が行われるんですね。

当時の西郷どんTLでは、なぜ斉彬がそんなに一橋慶喜に入れ込むのかわからない、説明されていない、という声が何度も上がっていましたが、要するにこの時点では、次期将軍の最有力候補がこの二人であり、血統と年齢と性別と健康状態的にこの二人で次期将軍職が争われたという史実に基づいて描かれていたに過ぎません。

慶喜が天才斉彬をして思わず跪きたくなるようなものすごく才覚を持っていたとか、そういう描写がないと納得しないというのは、ちょっと歴史に不案内かなーと思います。この時代の最も大切な権力相続の原理は「血統」ですから。

劇中でヒー様と呼ばれることになる一橋慶喜は烈公水戸斉昭と正室登美宮(有栖川宮織仁親王の第12女王)の間に生まれ、徳川家と天皇家の血をひくサラブレットでしたが、11代将軍家斉を祖父に持つ徳川慶福に(血統的に)敗北しますし、ここでヒー様の才覚を云々するのはちょっと違う。

さらにいうと、一橋慶喜が、人々の望みを託される器となるのはあくまで血統によるものということは明らかにすべきことでした。

先ほど才覚の問題じゃないというようなことを書きましたけど、実際の慶喜は生まれながらに聡明にして英邁、決して凡百な人物ではありませんでした。

しかし慶喜は血統と生まれ持った才覚しか持たない人として、苦しみの中から自分の政治観というものを掴んでいく島津久光、西郷隆盛とは異なる描き方をされます。ですから、わかりやすいことに、彼は、

・もらうばかりで与えない。ふき(お芳)以外には。
・学習をしない。才覚で乗り切るのみ。
・だから血族以外の仲間がいない。彼の本心を知り、支持してくれる同士がいない。

という風に描かれるんですね。

そんなヒー様は、変装して品川宿に入り浸る不良貴公子として登場します。

これはそうでもしないと西郷との接触が持てないが故の創作だと思いますが、思いがけず、べらんめえ調で啖呵を切る遊び人の体の松田翔太という副産物を生むことになります。素晴らしい切り込みです、GJ。

運の強き姫君

もう一人、慶喜と対照的に描かれるのが篤姫です。

冒頭にも書きましたが、彼女は賭け事好き、つまり自分の運命を動かし、引き受けることによって自らの地位を合法的に上げていく。彼女は血筋ではなくその気っ風によって人々の望みを受けとる器になる。

彼女はゴリゴリと自らの地位を上げていくんですが、島津斉彬の実子ということにしちゃう以外は、割と合法的に地位を上げていくのが面白いところですよね。

所詮島津の分家の姫、ただの田舎の娘でしょ、ということを実際に和宮周りなんかは思っていたと思うんですけど、正式な近衛家の養女でありますし、将軍の御台所でありますし、現将軍の母でもあるという強力な立場を得ていく。

しかし、慶喜とは異なり、慶喜派の大名たちごくごく少数から、現将軍の家定に慶喜を推挙せよという望みを託されたに過ぎないわけです。しかも、その使命に彼女は背く。

その望みを叶えるために、彼女は幸福ではない一生を過ごさなくてはならないのですが、しなやかに且つ豪快にそれを引き受け、自分の立場を築いていく。

もちろん彼女には素朴な娘である部分もあって、気持ちを揺らしたりもします。やっぱり子供を産むということは叶わない、というか一生を清らかに過ごさなくてはならないというのは、彼女が栄転を手に入れた一方、自らの女性としての幸福という賭けに負けたということでもあるわけです。

しかし負けたら負けたでそれを受け入れる潔さというのが、彼女を人間的に成長させていく。

このドラマ上での彼女の最大の賭けが、江戸城開城であることは歴史から明らかなので、短い時間で篤姫は江戸百万の民の救済を西郷から勝ち取る存在にならなければならなかった。逆算から描かれた人物でしたが、彼女の、どんな運命でも覚悟を持って受け入れるという姿が、吉之助に与えた影響というのは大きかったのではないかと思います。

「ともに殿のお役に立とうぞ」「慶喜殿と私の首で矛を収めておくれ」など、やたらと男前で武士っぽい発言が、北川景子ちゃんの毅然とした美しさに掛け合わされると妙にキュートに変化するのが面白いキャラでもありましたね。いや江戸編は全般になかなかモヤモヤする作りであったため、お嫁に行くまで篤姫様の存在感がドラマ全体の救いでした。

というわけで、視聴していて辛くて辛くてしょうがなかった11-15回、将軍継嗣問題と篤姫入輿は軽くなる予定です。ここ、歴史の動き的な部分も自分の知識が薄いので、まずは勉強してきます。

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