第二回「立派なお侍」 軍事大国・薩摩。

弘化3年。主人公18才。今回から本役になりますが、驚いたのが主演の鈴木さんの若さでした。実年齢34才だけど、ちゃんと初々しいんですよ、これが。

真田丸での序盤、16才の源次郎少年が演技で少年に見えていたのとまたちょっと違う初々しさ。九州の強めの自然光での撮影が多いせいかなあ、眩しかったです。とにかく直虎からロケが増えた!のは素晴らしいことだ。うん。

さて2回目は大河では定番、主人公の若気の至りと挫折です。

薩摩

ところでこの頃の薩摩藩(鹿児島藩)というのは、表向きは90万石という大藩なんですけども、耕作地の半分以上が火山灰土という稲作に向かない土地のため、実質石高は40万石以下という大変貧しい藩です。

割と以前から「なぜ90万石の大藩の下級武士があんなに異様に貧しいのか。というか、東日本と比べて民家があまりにも貧しくないか」ということは思ってまして、昨年の忘年会でも2018年大河の西郷どんに期待することとして「なぜあんなに薩摩が貧しかったのかちゃんと表現してほしい」というようなことを言ったんですが、生産者人口を圧迫するほどの武士人口ということは、見えていませんでした。お恥ずかしい・汗。

ちなみに、明治になってからの調査ですが、武士の人口比率は全国平均で6%と言うことがわかっています。いかに薩摩が軍事国家であったか。薩摩は農民の一揆がとても少なかったそうです。一揆も起こせないくらい疲弊していた。また鎮圧する側である武士の数が多すぎた。

当の武士階級自体も大変貧しく、疲弊していたわけですけれども、しかし江戸時代を通じて、薩摩藩が無理くりに軍事力を保持していたことが戊辰戦争の勝利に繋がります。

八重の桜でも、徳川家の盾を自ら任ずる会津では、藩士の軍事訓練が非常に厳しいものであったことが描かれましたが、軍事政権である徳川時代の実態、特に軍事面では我々の想像を絶する苦しい側面もあったと言うことでしょう。ここ20年の江戸流行りで平和でおっとりした太平の世、と言うイメージは一つの側面ですね。

そんなわけで、薩摩の農民たちは大変な労苦を強いられていました。西郷吉之助という人物は、この若い頃の農政の仕事に大きな影響を受けます。

今回は貧しい軍事大国・薩摩藩の実態が、西郷吉之助の目から描かれます。

孤軍奮闘

さて成長した小吉→吉之助は郡方書役助として勤めています。農政の現場担当者ですね。

日頃から非生産階級の圧政に耐えている農民たちですが、冷夏・長雨による凶作で、決められた上納金をちゃんと収められるかわからない、という非常事態に陥ります。しかし、現代以上に税金の減免ということはよっぽどのこと。

農民は税を藩に納めるために借金までしているのですが、それを受け取る武士の側も貧しくて、計量時に升から米をこぼして自分の懐に入れるなどの腐敗が横行っていうどうしようもない共食い状態です。

そんな中、とある一家の娘ふきが、借金のカタに売られそうになっているところに、吉之助は出くわします。

ふきを家族に止めるために上司を説得しようとしたり、自分のお給金を借金取りに渡したり、足りないと言われれば上司が受け取った賄賂を懐から奪って借金取りに渡すなど、必死に孤軍奮闘する吉之助。まあ当然ですが空回りです…

一方斉彬は

ところでその頃、島津斉彬の方はと言えば、外国船の侵攻に備えての軍事演習を、父である藩主島津斉興に申し入れ、逆鱗に触れていました。

上記の通りもともと苦しい台所事情の薩摩藩は、先先代・重豪が浪費家であったために財政が悪化。財政再建を意図した斉興の父親・斉宣は重豪によって隠居させられたため、さらに財政が悪化という負のスパイラルに陥っていました。

斉興の代になってようやく再建されて黒字に転じますが、それは無利子で250年間だかの支払いとする代わりに大阪商人に利権を渡すと言う調所広郷の豪腕によるもの。

斉興は何しろ大変苦労をしていますから、将来の危機に備えて大金を消費するなどと言い出す息子(しかも浪費家・重豪は嫡孫である斉彬を非常に可愛がったと言われている)の不安や意図が全く理解できません。

とうとう正室の産んだ長男である斉彬を廃して、側室の産んだ息子である久光を後継にする!とまで宣言。

祖父(この場合は曽祖父ですが)・嫡孫ラインと、父・次男ラインの、入り組んだ父子対決が描かれます。

斉彬は密かに江戸に戻って対策を取ることにし、急ぎ鹿児島を出立します。実の父親を陥れることすら厭わない斉彬の怖さ、というものがちゃんと描かれていますね…

やっせんぼ

一方、吉之助は、貧農の娘ふきちゃんを助けるために、藩の重鎮・調所広郷のところにアポなし突撃したり、借金取りに上司が受け取った賄賂をさしだりと後先を考えない努力をしています。

これがものすごく行き当たりばったりで感情的。お隣の大久保正助どんなどはかなり手厳しく批判するんですけど、しかし、赤山先生や、あと調所さんは不思議と若気の至りに対して「好きにやってみたら(ダメだと思うけど)」という感じで手綱緩めに対応する。

その辺は、この人たちも過去に同じ道を辿って今があるということなのだろうな、と思わせる大人の含みを感じさせてなかなか良いのですが、それにしても農民たちの窮状に対して、主人公以外に問題意識がなさそうな描写はちょっとどうなのかなあ…。

(史実ではこの時の吉之助の上司・迫田利済が年貢減免を訴えて辞職したりしているそう)

しかし、農民たちは吉之助の想像以上にシビアでして、こっそり吉之助に隠れて隠し田を耕してたりもするのでした。

貧しさと腐敗が横行するも低レベル安定中の幕末薩摩、激変待ち、という舞台を言葉足らずながらよく表現しています。

吉之助のがまたダメダメなんですね。まあこの時点ですから当然なんですけど。

貧農の娘ふきを救うために、糸どんの家に奉公に上がらせるという話はあっさり糸の親に断れて頓挫。農政の改革を斉彬に訴えてみたらいいという赤山先生のせっかくの斡旋もふきの身売りを止めるためにスルー。

頭の良い人なら、知恵のある人なら、こんな詰めの甘いことはしませんし、農政の改革を斉彬に訴えることを優先するでしょう。しかし、西郷吉之助はそう言う「賢い」男ではないわけです。

彼の損得ではなく、目の前の人物の苦しみにどこまでも共感してくと言う性質はこの後もずーっと描き続けられることになりますが、とりあえずこの時点での彼にできることは、自分の無力さに慟哭することだけなのでした。

ゆるふわ脚本をどうするか

よかった!というところと、ここはちょっとダメだろう、と思うところと半々くらいの第二回でした。

よかったところは「西郷吉之助」という人物の描写ですね。目の前の事態に決して逃げずにフォーカスし、問題の解決を図るという西郷隆盛の資質を表現したのは良かったと思います。

あと調所様の重厚さはすごく良かった。知的で重厚なイケジジイは国の宝。大事にな!!

細かいところでは、

ふきちゃん家の借金返済にあてがわれた井上様への賄賂。それ、多分農民の皆さんで出し合ったやつ…西郷隆盛が岸部一徳ならまんまドクターXだった。

薩摩が大好きです、というふきちゃんの心情がちっとも共感できない。

お由羅の方の品のなさ…(この人は町娘なので当然なんですけど)

あたりが見ていて苦しかった。特にふきちゃん周りはなんか考証が足りてなくて、あの突然家に乗り込んでくる蛮族の女衒とか、どうなんであろうか? ちょっとペラペラなのではないか? キャストのりんかちゃんが可愛いだけであったのは、ちょっと問題じゃないかと思います。

あともうちょっと大きな話として、中園ミホさんのゆるふわ脚本をどう活かしていくか、試行錯誤中なんだと思うけど、全体的に細部の書き込みとゆるふわのバランスがうまくいっていない感じで、今の所、見ていてちょっと苦しいですね。

スタッフが真田丸・直虎のSNSでの反響をよく研究しているのはわかるんですけど、2回目を見る限り、脚本とマッチしてないです。「こういうのが好評なんですよね、できます!やってます!」と頑張られている感じ。私たちの意見を見つけてくれてありがとう。でもこうしてみると、この「西郷どん」というドラマを構成する素材を一番美味しく調理する方法には合ってないかもしれない。

まあこれは回を重ねてマッチしてくのを、見守るしかないですね。次回はお由羅騒動ということで、調所様・赤山先生にアデューですね。って書いたらすごく悲しくなってきた。期待。

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