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太平洋戦争、日本の敗北は最初から決まっていた

前回まで

○日本は「共同体」の究極進化系
○日本人という生態系は、イギリス・アメリカ系の文化人類学者によって解析終了
○とくに文化人類学者・ジェフリーゴーラーの日本分析『日本人の性格構造とプロパガンダ』が、戦後の処遇を決めた


「日本の敗北」は初めから決まっていた


『日本人の性格構造とプロパガンダ』に書かれた分析と占領政策は、ほとんどそのまま戦後日本に適応されています。

ゴーラーが『日本人の性格構造とプロパガンダ』を書いたのは、1941年から1942年にかけてです。

終戦は3年も4年も後。

僕は、驚愕しながらこちらの著書を読みました。

何もかもが戦争開始時に決定してたじゃないか!

「天皇を愚弄すべきではない」

「代わりに軍人のリーダーたちを見下げ果てた愚か者としてあつかうことで、これら何人かのリーダーたちを儀式的に自殺させることも可能かもしれない」※1948年、巣鴨プリズンにて実行

ーーなどなど、その後の日本がたどった歴史を、すでに、この著作は書き記しています。

これは日本、勝てるわけがない。

最初から計画されていた戦争です、これは。


利用されたリベラル知識人


ゴーラーは『日本人の性格構造とプロパガンダ』(ジェフリー・ゴーラー著 福井七子訳 ミネルヴァ書房 2011年)で、戦時中に敵国にむけるプロパガンダの目的を語っています。

p69の説明によるとその目的は

①軍事的な混乱を生みだすこと
②軍のあいだで戦闘心を失わせ、市民のあいだで戦闘を支持する気持ちを少なくさせること
③国内的な分裂を起こすこと
④対戦国と軍事的に同盟関係にある国とのあいだに分裂を起こすこと
⑤戦勝後、大方の住民たちとの関係に従順さと協調性が得られること

僕が注目するのは「③国内的な分裂を起こすこと」の分析です。

ここでゴーラーは、日本国内の不満分子として、世間から捨てられたエタ(穢多非人のエタだ)、リベラル知識人、小作農民、の3つをあげています。

ゴーラーの視野にリベラル知識人が入っている。

1945年の日本の敗北後、日本のリベラル知識人は、科学万能主義者のニューディーラーとともに、社会の前面に現れた。

彼らは、自分たちの理想とする『社会society』をつくりたかった。

日本的な古い共同体を憎むリベラル知識人たちは、新しい社会を夢見ていた。

しかしそれは、大きくいえば「③国内的な分裂を起こすこと」でしかなかったんです。

理想を利用されたかたち。

こうして見ると、理想的なリベラル知識人よりも、人間を動物として分析する文化人類学者の方が格が上であることがわかります。


「社会society」信仰の教祖・日本生まれのノーマン


ハーバード・ノーマン(1909~1957)という人物がいます。

彼は、戦後日本の統治に辣腕をふるった人物であり、科学万能主義者であるニューディーラーの教祖のような存在でした。

ノーマンは、マッカーサーの右腕。
ノーマンは、日本生まれです。長野の軽井沢が出生地。

なんで軽井沢かといえば、キリスト教圏のエリートたちの、日本における本拠地が、軽井沢のような避暑地だったからです。

ノーマンの父親の名は、ダニエル・ノーマン、1898年、軽井沢にてユニオン・チャーチの布教を開始しました。

かなりイケイケの宣教師だったようです。
いまもノーマン通りというのが、軽井沢にあるらしい。

この宣教師のおぼっちゃまが、ニューディーラーの教祖・ハーバード・ノーマンです。
 
ハーバード・ノーマンの理論は、ニューディーラーの戦後日本統治に、イデオロギー的正当性をあたえました。

※出典『さらば吉田茂 虚構なき戦後政治史』(片岡徹哉著 文藝春秋 1992年)p43~p44

つまり、キリスト教圏に特有の、めくるめくような美しさを信者たちに与えた、ということです。

日本生まれのノーマンは、日本共産党・講座派の理論をもちいて戦後統治にあたったのだといいます。

講座派の理論は、『二段階革命論』に集約されます。

つまり、日本における『社会societyの構築』は、二度の革命を経て達成される、という理論。

フランス革命を二度に分けて実施する、ということです。

片岡徹哉氏の説明を、そのまま引用します。


(引用はじめ)

『さらば吉田茂 虚構なき戦後政治史』(片岡徹哉著 文藝春秋 1992年)

二段階革命というのは、最初にブルジョワ民主主義革命をやって、
その次に共産革命をやるということである。
ブルジョワ民主主義革命の典型はフランス革命である。
スターリンと講座派によると、日本の明治維新はフランス革命にまで到達しなかった。
本物のブルジョワ民主主義革命にならないで、多くの「封建的残滓」が残された。
天皇制と華族制度は、その残滓のさいたるものだという。

だから本当のブルジョワ民主主義革命を実行して、
この残滓を取り除いてから、
初めて日本は社会主義革命に進むことができるというのである。

ノーマンは、徹底的なブルジョワ民主主義革命、
つまり、フランス革命を売りにしていたので、ニューディーラーにうけたのである。

もっとはっきりいえば、
ルイ十四世(※引用者より。ここはルイ十六世のまちがい)のように
天皇をギロチンにかける政策に、学術的な理論体系を提供したから、うけたのである。


フランス革命の、日本における再現こそ、ノーマンを筆頭にしたニューディーラーの切なる願望でした。

なににも代えがたい、美しい理想だったんです。

『自由・平等・友愛』のもとに、天皇をギロチンにかけたかった。

しかし結局、天皇がギロチンにかけられることはありませんでした。

マッカーサーは、実行部隊たるニューディーラーよりは格上の、ルース・ベネディクトやジェフリー・ゴーラーの提案を受け入れた。

理想に燃える人間は強い。
実行部隊の行動力としては、これ以上ない情熱をニューディーラーはもっている。

が、裏返していえば、すべてを瓦解させるイデオロギーの過激さをも、もちあわせているということですから。

イデオロギーの過激さをここでは排し、冷徹な分析結果として、天皇の処刑は、執行されなかった。執行する必要がなかったからです。

戦後日本統治の目的は、「地域共同体を破壊すること」ですから。

日本人の凶暴さは、地域共同体を破壊すれば封印できる、とジェフリー・ゴーラーとルース・ベネディクトが、喝破しましたから。

だから、わざわざ天皇を殺して日本人の反感を買う必要はありませんでした。

見事な統治。
完璧な合理ratio。

『戦後日本はアメリカ社会科学の最高傑作』なんですよ。(続)

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