見出し画像

藤井風という総合芸術 至高のエンタメに癒されるひととき~藤井風フリーライブ2021

どれほど、この日を待ちわびたことだろう。

ピアノを弾き語る藤井風。やはり音楽の神に愛されし青年は期待を裏切らない。それどころか、予想を遥かに上回るパフォーマンスで楽しませてくれた。

小雨の降る横浜スタジアム。

広いグリーンの中央にはYAMAHAのコンサートグランドピアノが1台。ピアノ上部のフタはスケルトン仕様になっており、ハンマーアクションが見える。マイクやカメラなどには雨除けの黒い防滴シートが掛けられ、多少の雨ではライブを続行することが読み取れた。

左肩に穴の開いたくたびれた様子の白シャツにジーンズ、裸足にビーチサンダルを履いた藤井風が、ピアノの椅子に足を組んで腰掛けている。

モノクロームの画面なのに、これだけでも充分絵になる。これは藤井風の持つ造形美がそうさせるのか、カメラワークなど現場で匠の技と相まってそう見えるのか。

余分な装飾や情報を、極限まで削ぎ落した演出。

照明もない曇天のスタジアムで、これだけ美しく映えるのは被写体が他ならぬ藤井風だからなのでは、と感じる。

ピアノで始まった前奏は武道館ライブでの「罪の香り」への導入部分の前奏のように感じた。だがそう思ったのも束の間で1曲目の「きらり」へと繋がっていった。

モノクロームの世界から、色のある現実へ一気に視聴者をいざなう藤井風。命が芽吹くような芝生の鮮やかなグリーンがまぶしい。

「どこにいたの 探してたよ」

両手でのユニゾンが、いつもにも増して力強い。このフレーズの直前に長いブレイク(音の休み)があった。

フッと息を吐いて再開、この後のフレーズから、コード進行を若干変えていた所もあり、「きらり」の持ち味であるグルーヴとドライブ感が増していったように感じた。時々混じるカラスの鳴き声とドローンの飛行音さえも、ライブ感を高めるスパイスになろうとは。

MCでは「ありのままの現状」「激レアな機会」と口にした。

「きらり」を世に放ってから、様々な変容を遂げてきた藤井風。彼もずっと、答えがどこにあるのか、探し続けていたのかも知れない。

2曲目はマイケル・ジャクソンの「Heal The World」

今回のフリーライブ唯一のカバー曲となった。

藤井風がリスペクトしてやまないマイケル。「より良き世界へ」と願い歌った。「HEHN(常に助け、傷つけない)」を掲げる藤井風にとって憧れのアーティストであり、永遠の目標でもあるのだろう。ピアノの鍵盤やスケルトンのフタ部分に雨粒が目立つようになってきたのは、この頃からだっただろうか。


3曲目は新曲「燃えよ」

フリーライブの告知ページでは「燃えよ」とだけ表記されていたが、YouTube動画には「MO-EH-YO(ignite/発火)」と併記してあった。passionate(情熱を燃やす)な「燃えよ」だけではないはずで、(歌詞中にも出てくるが)諦観した「もうええよ(MO-EH-YO)」の意味もかなり大きいのでは。

「明日なんか来ると思わずに燃えよ
 クールなフリ もうええよ」

「汗かいても」「恥かいても」もうええよ、なのだ。本人が「ちょっとダサいぐらいストレート」と言うだけあって、直球ドストレートな歌詞。「救いになれば」と語った藤井風だが、自分に言い聞かせるように歌う様子に、音楽に一番救われているのは彼自身なのでは?と感じた。

1st.アルバム「HEHN」に収録されている「もうええわ」と呼応するかのような美しい転調は、この曲にも健在だった。

♭系の調(A:Dur イ長調)で始まり、途中何度も近親調の#系へ転調、1度上げて上昇気流に乗ったような高揚感を醸し出す。

半音、または全音上へ移調することでサウンドの色合いを変えるのは「丸の内サディスティック」はじめ、彼のたくさんあるカバー動画の中でもよく見られる手法。

ピアノアレンジだけでは単調になりがちなサウンドを、最後まで新鮮で飽きさせないのはさすが藤井風だ。

アウトロの音が消え、スタジアムに静寂が戻る瞬間、誰もいないはずのシートから大勢の「わー!」という歓声と拍手が聴こえたような気がした。

ライブ後、YouTube動画でオリジナルが公開されていた。ローファイでラテンの香りもするリズムトラックに、ハモンドオルガンやシンセリードの上物がスパイシーなアレンジ。ピアノ弾き語りとはまた違った趣だ。改めてじっくり聴き込んでみたい。



「燃えよ」に続いて、始まった4曲目は「もうええわ」

「傷口はいつかかさぶた~」はラップで歌った。これは初めて聴いたバージョンだ。カバー動画ではラップも多数披露しているだけに、天性のリズム感で違和感なく聴かせてくれた。

「内なる風に吹かれて」「もうええわ」のフレーズの前には、ほおにそっと手を当てた。

ピアノの鍵盤は雨粒というより、もう水滴だらけ。画面越しにでもわかるほど、髪もTシャツも濡れている。小雨が降り注ぐ音も入るなか、内省的なしぐさが神秘的な雰囲気を醸し出す。


5曲目はハンドマイクではじまった「優しさ」

まるで客席へ向かって語りかけるように、四方を向いて走り、歌いかける藤井風。無観客だということを目の当たりにしても、ありのままの現状と、激レアな機会を受け入れる。その静かな決意と諦観、まるでそこに観客がいるかのように歌いかける彼なりの「優しさ」と「強さ」の表現。

いつかきっと、いや必ず…。マスク無しで彼に大きな声援と拍手を送りたいと決意した視聴者も多いのではないだろうか。

「温もりに~」からピアノが入ってくる。ベースを奏でる左手の打鍵が、いつもより力強い。少し跳ねたリズムとアクセントを強調したパッセージは雨の中、濡れた鍵盤を弾いているとは思えない流麗さだ。赤いトラックからグンと寄ってくるカメラワークがエモい。2番の「いま、何を見ていた」からは、びしょ濡れになった鍵盤が写った。

雨音の中、スタッフ2人が駆け寄る。「大丈夫っすか?」気遣う藤井風。彼自身は雨具を使っていないので、ずいぶん雨に濡れてしまっている。ピアノの鍵盤やモニターなど機器のコンディションはどうなんだろう。

何より彼はこの雨の中、ライブを続行しても大丈夫なのだろうか。心配をよそに、淡々とMCが始まった。

6曲目は「特にない」だ。「次はみんなと一緒に演奏したい曲があるんやけど」とハンドクラップを促す藤井風。「(ドン、ドドン、パンで)手拍子するたびに、ネガティヴエナジーは捨てよう」武道館のMCでも言っていたフレーズだ。降り続ける雨粒さえも「恵みの雨(Blessing Rain)」と受け止めたくなるアウトロのアルペジオが優美だった。

7曲目は「死ぬのがいいわ」

武道館と同じパターンで始まった前奏。そうだ、このピアノに鳥肌が立ったんだった。もう半年以上も前だというのに、武道館の配信ライブの時の感動が鮮やかによみがえる。曲が終わったあとで、ずぶ濡れのトラックの映像とカラスの「カーカー」という声が入った。これも野外ならではのライブ感。こんなクールな演奏を聴いたら、カラスだって声援、送りたくなるよね。

8曲目は何かのイントロかと思ったが、どうやら違ったようだ。手くせで好きな和音を押さえているのだろうか?これがまた藤井風らしい浮遊感のあるコード進行で、欲しいところへグッと流し込んでくる。

「みんな、深呼吸しようか」

よく見るとTシャツには、前身ごろと、すそにも穴が開いていた。演出なんだろうが、あえてくたびれているものをチョイスしたのだろうか。

9曲目は「帰ろう」 これも2番からの左手のリズムパターンが、アレンジされていた。リズミカルなグルーヴ感を損なうことなく、打鍵はぐんぐん力強くなっていく。緑の芝、青いシート、赤いロゴに白いTシャツの藤井風と黒いグランドピアノが順に映し出される。うっかりすると雨天だという事を忘れてしまうぐらい美しい音楽と映像だ。

藤井風はスローテンポでジャストビートな曲でも、ベタッと弾かない。モタることもなくちゃんと乗れるのだ。ピアノ弾きは譜面通り弾けたとしても、この点がクリアできないことが多いのだが、彼の演奏は、どんなテンポでもグルーヴ感が損なわれることがない。

「ほんまは晴れじゃったら、寝そべり配信でしようと思ってたんやけど、雨でも寝そべります。一緒に昼寝しましょう。疲れてませんか?この世には疲れることとか、窮屈(きゅうくつ)なこととかあるけど、みんな休んでええんやよ」

「目を閉じて自然を感じて、でっかいもんとつながるという時間を取ってください。瞑想しよってください。わしはそろぼち次の曲へ向かいます」

10曲目は「青春病」だ。「SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2021」の授賞式ライブで披露されたバージョンと、近かったように感じる。イントロは少し変えていて、画面はドローンでの空撮となった。「そうか~」からのアルペジオの高速パッセージや、ドライブ感あふれる卓越したピアノプレイは健在だった。

自分自身や鍵盤がびしょ濡れの状態というのは、ピアニストのコンディションとしては最悪だ。何より鍵盤で指がすべり、ミスタッチを多発しそうではないか…。前代未聞なくらい悪条件の中でのライブなのだが、心配をよそに藤井風は雨にも動じなかった。ミスタッチなんて何のその、堂々としたピアノプレイ。

ピアニストの中には、演奏前に手や鍵盤をハンカチで拭きまくる繊細なタイプもいるが、藤井風はそんなこと気にならない様子。濡れた顔や体、鍵盤をぬぐうこともしなかった。こんなピアニストは、かつていただろうか。

曲の後半ではドライブ感のある曲調と相まって、MVで海岸を走る藤井風を彷彿とさせた。アウトロでは雨の横浜が上空から映し出され、ライブ会場がスタジアムだったことを思い出す。

「次の曲が最後の曲かもしれません」「人生いろいろ起こること全てに理由があるから、怖がらずにビビらずにいきましょうや。俺ら兄弟姉妹やし、みんなこの宇宙っていう大学の生徒やから」「I love You」半音ずつ下降するセブンスコードを押さえながらのMCで、次が「旅路」だとわかった。

11曲目「旅路」 スタジアムでも雨脚が少し強まってきたようで、藤井風の髪からも雨粒がしたたり落ちるように。間奏部分は報道ステーション出演時のブルージーなフレーズに近く、左手は雨の中、濡れながら弾いていることを感じさせないほど力強いビートを刻む。「あーあ、ぼくらはまだ~」の所で空に向かって両手を上げるポーズが見られた。

12曲目は「何なんw」 藤井風が宇宙の始まりの音だとする基準音A(ラ)の音をハミングするところから始まった。「Clap Your Hands」「This Is Gospel」「これがほんまに最後の曲やで」「何なんw」のところでは両手を耳の横に当てるお決まりのポーズも出た。

両手のユニゾンは力強く、ライブ終盤になっても変わらない安定感。アウトロでは立ち弾きでのTHE藤井風なピアノプレイで視聴者を魅了した。

最後にクレジットが流れる際には、「God Bless You(Us)」と言いながら深いおじぎで幕を下ろす。小鳥たちのさえずりが、そっと彼に寄り添っていた。

雨天下でのライブだということを忘れそうになるほど、さわやかな風が横浜スタジアムを駆け抜けたひとときだった。



雨に濡れても、「それがあるがままの姿なんだから、取り繕うこともなかろう」と自然にあらがわない。配信終了時の視聴者数は16万2322人。

「立てば芍薬(しゃくやく)、座れば牡丹(ぼたん)、歩く姿は百合(ゆり)の花」は美しい女性を形容するものだが、「聴いてよし、観てよし、愛でてよし」なのが藤井風。

藤井風が音楽的に抜きんでているのは言うまでもない。造形美としてのルックスの麗しさに加えて、にじみ出る人間的な魅力も兼ね備えているのは、彼の大きな特徴だろう。

もう藤井風はミュージシャンという枠を超えた総合芸術なのだ。

このフリーライブで全方位から狙い撃ちされた老若男女は、前回の寝そべり配信をはるかに上回る人数となったに違いない。

藤井風の所属する音楽業界だけならず、全世界の人々が向かう未来には、いまだ未知なるものが立ち込めている。そして、それぞれに不安と闘っている状態だ。

それでも彼の音楽と、彼を通してさまざまな楽曲に触れることで、一人でも多くの人が穏やかで温かい気持ちになれたら…。

オリジナルだけでなく、カバーにもこだわり続ける藤井風が願っていることは、そういうことなんじゃないかなと思う。



※この配信ライブレポートは、リアルタイム視聴時における個人の感想であり、実際の曲順や内容と異なる点があります。ご了承ください。


音楽界の伝説になる?アーカイブ動画はこちらから



画像引用:藤井風公式HP、藤井風公式YouTube

藤井風さんのこと、いろいろ書いてます






#藤井風 #FujiiKaze #藤井風フリーライブ #配信ライブ #ライブレポート #エムスラ   #fujiikazefreelive2021   

#きらり #燃えよ #MOEHYO #もうええよ #もうええわ #優しさ #特にない   #死ぬのがいいわ #帰ろう #青春病 #旅路 #何なんw  

#ライター #記者 #音楽 #ピアノ #日記   #コラム #ライター #ピアノ #藤井風 #ライブレポート #配信ライブ  

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?