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藤井風 LOVE ALL SERVE ALL スタジアムライブatパナソニックスタジアム

藤井風にとって初の有観客野外ライブとなる吹田パナソニックスタジアム。

1970年、スタジアムに近接する万博記念公園では万国博覧会が開催された。

世界中の人々が国境、民族、宗教、ことばの壁を越えて最先端のカルチャーに触れ「人類の進歩と調和」を願った。

2022年現在、じわじわと世界中から注目されつつある藤井風。

その彼の歌声を聴こうと日本中、いや世界中から数万人がスタジアムへ集結。

「風の秋まつり」で時間と空間を共にし、彼の音楽に触れることで明日への希望と多幸感に包まれた。

このような未来を、誰が想像しただろうか。


「何なんw」で幕を開けたスタジアムライブ。藤井風はステージ中央に座禅を組んで登場した。

カッチリとした洋服ではなく、体周りに余裕を持たせてあるせいか、一回り大きく、いささか精悍になったように見える。まなざしは穏やかだが時に鋭く輝き、神秘的な雰囲気が漂う。

白くゆったりとした衣裳を夜風になびかせ、ライトに照らされる藤井風。

無精ひげをたくわえ、前髪を額に垂らしたナチュラルなスタイリング。白い布を巻き付けたような衣装も相まってか、ふとした拍子にはキリストを思わせた。

風に吹かれ乱れた前髪をかき分ける仕草までもが、神々しいまでに美しかった。彼のことを神格化するつもりは毛頭ないが、音楽の神が人の姿を借りてスタジアムに「降臨」したように見えた。

「何なんw」のアウトロでは、またジャンピングピアノを見ることができた。このデビュー曲には「藤井風たる要素」がギュッと凝縮されている。聴き飽きることがないのは、彼の全てが詰まっているからに違いない。

2020年、世間が感染症禍で不安に包まれる中、座席を市松模様に配置して挑んだ初の武道館公演を思い出す。思わず目頭が熱くなった。

同時に昨年9月、日産スタジアムで降りしきる雨の中、ピアノ1台のみで弾き語りを行ったフリーライブも脳裏をよぎった。あれから既に1年が過ぎたとは感慨深い。


「damn」はロックチューンではあるが、冒頭から真船氏の弦バス(ジャズベース)がダゥンダゥンとうなる。ライブの醍醐味のひとつは、やはり腹に響く重低音だと思う。最後にはMVで見せた「あの表情」も。

尺八から始まった「へでもねーよ」まさか長谷川将山氏の生演奏が聴けるとは思っていなかった。彼の登場と共に会場の空気が一変。

「みんな大変なことあったと思うけど、お互いに助け合ってね。来てくれてありがとう」的なMC。

「ガーデン」ではYaffle氏が少々猫背の上体を揺らしながらキーボードを弾く。見ていても心地良さそうだった。

そして……まだ藤井風がライブで演奏したことのない「やば。」が聴けたのは最高にうれしかった。キーボードのコードで始まり、真船氏のベースが粘っこくうねるうねる……

「やば。」はLASAのアルバムの中で一番好きな曲だ。90年代のR&Bテイスト満載の何ともエモいコード進行とフレージング。真船氏のベースと佐治氏の刻むドラムの絶妙なバランスの良さといったら。

ねっとりと絡みつくようなグルーヴが、そしてやはりアウトロのフェイクが圧倒的に美しかった……。まるでブルーノ・マーズ、シルク・ソニックばりの藤井風の熱唱にテンションはMAXに。これを聴けただけでも本当に価値があると思ったくらいだ。得も言われぬ感動的なパフォーマンスだった。

「優しさ」のアレンジもガラリと趣を変えていた。普段はピアノのコード弾きと抑え気味のストリングスが美しい印象。このライブではTAIKINGのギターカッティングと真船氏のベースが絡み合い、「優しさ」の新たな境地を展開していた。

「grace」では「この曲は撮影OK。だけど明日が終わるまでSNSには上げないでほしい」とMC。
会場が一斉にスマホを手にする。「秋の日は釣瓶(つるべ)落とし」とはいうが、スタジアム周辺も、あっという間に日没を迎えようとしていた。

15日のスタジアムから見える夜空は、ほんのりオレンジ色の夕焼け空に青紫色のグラデーションが美しかった。たそがれ時に無数のスマホライトが揺れる様子は、蛍の群舞を見ているようだった。

アウトロではリズムパターンが4つ打ちからマーチ(行進曲)のリズムに。初めて「grace」を聴いた時、曲の後半になると「きらり」のようないわゆる「ユーロビート系の4つ打ち」ではなく、ZARDの「負けないで」のようなマーチ(行進曲)風に聴こえた。
スネアやクラップ、リムショットの入れ方だろうが、ライブアレンジでは、この印象もあながち間違いでもなかったようだ。
「ズンタッタッ、ズンタカタッ~」のリズムで行進しながら旗を持った人(ダンサーズ)たちがステージ上に並んだ。まるでMVの一場面をみているかのようだった。

レゲエのリズムに乗せてメンバー紹介があった。藤井風の曲でレゲエに近いリズムの曲はなかったはずなので、一体何だろうとコードを追う。
始まったのは「帰ろう」だった。この曲が演奏されると、ライブ会場には必ず目元をぬぐう姿が数多く見られる。観客の涙腺を刺激する曲ナンバーワンといってもいい。
その「帰ろう」が底抜けに陽気で軽やかなレゲエアレンジに仕上げられた。湿度が下がり、カラリとさわやかな「帰ろう」まさに「さわやかな風と帰ろう」だった。

「死ぬのがいいわ」はサックスで登場。ずいぶん長いフレーズで、すぐには「死ぬのがいいわ」だとはわからなかった。赤い照明の中で妖しくきらめく赤の衣装。白い衣装の上に羽織ったガウンのようにも見えた。場末のBARでウイスキーのグラスを傾けていそうなたたずまい。やっぱりサックスを吹いても表現力が半端ない。1音1音の膨らませ方が巧みすぎる。

「歌うように」演奏するとはいうが、彼は歌で表現していることをピアノやサックスに持ち替えてもこなしてしまう。「死ぬのがいいわ」はサビのキャッチーなフレーズもさることながら、この歌唱と表現力には毎回感服の至りだ。海外で藤井風ブームが巻き起こったのは無理もない。

「燃えよ」はステージに火柱が上がった。後半は4つ打ちになりダンスビートになるところでキーターを抱えて登場。上体をのけぞらせ、ブルージーなフレーズをギュンギュンかき鳴らす藤井風に会場が湧いた。

「きらり」が始まると、スタジアムはすっかり大バコのクラブと化す。EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)のようなオープニング。ダンサーズたちも登場し、会場の盛り上がりはMAXに。電車のアナウンス調の「吹田スタジアム~」も聞けた。

「まつり」ではアウトロの時に打ち上げ花火が上がった。「好きにしてくださ~い ハッ!」で「ドドン!」と大きな音を立てて最後の花火が打ち上がった。もちろんスタジアム中の観客が破裂音に負けないくらいの拍手で湧いた。

「もう『まつり』で最後みたいだけど『旅路』」で終わります」的なMC。そのあと、しっとりと「全てを愛すだろう」を聴いたところで、すっかり夜が深まっていたことに気が付いた。

藤井風は「旅路」を歌い終えると、おじぎをしエアハグ、ステージの端から端まで歩いて行く。スタジアム全体を見渡すように手を振り、深いおじぎを繰り返し、退場。

環境的にも時間帯的にも、周辺施設や住民への配慮もあったのだろう。アンコールはなかったがBGMの「grace」と共に鳴る手拍子は、なかなか鳴りやまなかった。

今回は曲の導入部分にキーボードのコード弾きが多かった。大胆で多彩なライブアレンジは、1st.アルバムからタッグを組んできたYaffle氏はじめ、各バンドメンバーとの信頼関係があってこそだろう。

藤井風はいつでも音楽を通して、わたしたちに「未来への希望」を見せてくれる。


未知の感染症によって世界中の人々の「未来」がおびやかされるようになった2020年。思えば藤井風のデビューは、感染症が猛威を振るい始めた時期と、同じタイミングだった。

世界中で広まる「不安」と「恐れ」……SNSでは負の感情を表す言葉が飛び交う。誰もが、もがきながら一筋の光を探していた。先行き不透明な「闇」の中にいる時、求められるのは「未来への希望」だ。

シンプルな言葉を、とびっきり上質な音楽に乗せて届けてくれる藤井風。

穏やかな人柄もさることながら、彼の音楽に救われた、癒されたという声をよく聞く。先の見えない今、彼は道に迷う人々に、音楽と愛をもって手を差し伸べる。

藤井風の思いと歌声は、秋の夜空を伝い世界中に届いただろうか。


万国公園にたたずむ「人類の進歩と調和」をテーマに岡本太郎によって製作された太陽の塔もきっと、彼の音楽に耳を傾けていたに違いない。

奇しくも10月15日は「たすけあいの日」だという。
これは我が家のカーナビが教えてくれた。

「かぜは”HELP EVER HURT NEVER”だから、”たすけあいの日”にライブしたんかな?」

それはどうだろう?
ただの偶然?それとも……?!


藤井風さんのこと、いろいろ書いてます。



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