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藤井風HELP EVER HURT NEVER(常に助け決して傷つけない)と私が音楽に「帰ろう」と思った理由

死生観に思いをはせるまで

幅広い世代の心をつかむ楽曲「帰ろう」とファーストアルバム「HELP EVER HURT NEVER」が話題の藤井風さん。2020年10月には武道館でのワンマンライブを控え、数々のミュージシャンがたぐいまれな才能を絶賛する天才アーティストだ。

楽曲の素晴しさは言うまでもないが若くして人生を達観した歌詞と老成した発言が印象的。ラジオで「死生観」について考えるきっかけについて話しており、その内容から私自身の体験と彼の経験を想像しながら考察してみた。

ホスピスで目にしたこと

コロナ渦で自粛が始まる前、2020年の2月のはじめだっただろうか。私がまだ藤井風さんの音楽と出会って間もないころだった。(ちなみにまだアルバム「HEHN」は発売されておらず、オリジナルは「何なんw」「もうええわ」の2曲のみだった。)病院内老人ホーム兼ホスピスでの演奏を一緒にやらないかとお声掛けいただいたことがあり見学に行った。

クラシックの器楽曲や声楽曲、童謡、ちょっとした歌謡曲の演奏会。老人ホームなので高齢者が多いが、ホスピスでもあり、まだとても高齢とは言えない若い方もいた。その中でひときわ目を引いたのが多くの管につながれ、ストレッチャーに横たわるやせ細った男性。年齢の程はわからないが演奏が始まった最初のほうは、いかにも関心がないといった様子だった。しかし、「ふるさと」の演奏が始まった途端、看護師の手を借りながら少しずつ上体を起こしはじめた。そして配られた歌詞カードを見ながら歌い出した(声はもう出せない状態だったようだが、そう見えた。)

演奏者の歌とは別にどこからともなく声が集まってホールに静かなハーモニーが広がった。死を間近に控えた人や高齢者が集うホスピスのホールだというのに、響く歌声に暗い影はない。むしろ懐かしい思い出や温かい気持ちで満たされているようだった。
静かにその時を待つ人は…これは人によってさまざまだろうが、「ふるさと」をそして「自分が帰る場所」を思うものなのかと。

演奏者たちが帰り支度をしながら雑談や挨拶をしていると「ありがとう」「また聴かせて」「美しい音楽に痛みを忘れそうになった」「気分がよくなった」「コンサートに行けないから久しぶりに生演奏をここで聴けてうれしい」「あなたも体を大事に、風邪ひかないようにね」と次々と感謝の声をかけられる。

音楽も”与えられるものこそ 与えられたもの”なのか

音楽の癒しの力、なんて手垢の付いた言葉は使いたくない。それでも自分が奏でた音楽に幸せな思い出がよみがえったり、一瞬でも痛みや苦しみを忘れたりして心穏やかにになる人がいようとは。誰かのために音楽を演奏できることはなんと素敵で幸せな事なのだろう。

まるで藤井風さんの「帰ろう」の歌詞“与えられるものこそ、与えられたもの”だ。その時は見ているだけだったが、自分でも驚くほど静かで穏やかな気持ちをどこからともなく“与えられた”気がした。

藤井風さんは岡山の地元にいる間、老人ホームや終活セミナーなどで演奏会を開いていたという。実家の喫茶店でもそれなりに高齢者と多く関わっていたと思われる。もちろん、「HELP EVER HURT NEVER」を座右の銘とし、子に授けたご両親の教育方針も大きく影響しているだろうが、私が目にしたような光景には何度も遭遇しているはずだ。

互いに言葉を交わす中で、死生観を見つめ、前向きにどう生きるかのヒントへの考えを巡らせたのかも知れない。自分の体を通して出た音楽が聴き手を幸せな気持ちにし、それが自分にも心地よくてたまらないという、この音楽でつながる幸せのループを体験していくうちに「HELP EVER HURT NEVER」が彼の精神の核として固まっていったのではないだろうか。

先の見えない閉塞感に”風”穴を開け、幸せを届けられる藤井風の音楽

いまだコロナ渦には終息の兆しは見えないし、高齢者施設や病院での演奏会は、なかなかシビアな状況だろう。でも、もし再び演奏活動のお誘いがあれば、迷わず参加したいと思っている。藤井風さんの「帰ろう」はもちろんのこと「HELP EVER HURT NEVER」を引っ提げて。楽曲を通して感じられるのは彼の思考でありメッセージなのだ。彼の音楽は閉塞感で先の見えない世界に”風”穴を開け、きっと聴いてくださる方々の心に心地よい”風”を送るに違いない。

最後に                               音楽を通してこんな気持ちを思い出させてくれたのは風さん、あなたのおかげです。ありがとうございます。感謝します。

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