「母」を休みたいと思うときがある【ときめきさがし 感想】
母であることに少しだけ疲れを感じるときがある。
例えば高校生が朝の「おはよう」を返してくれなかったとき。あの子に嫌われてしまったのかもしれない、そんなことを考えると胸が締め付けられる。1週間考え続けると下腹部がジリジリと痛み出す。
少しだけ、「母」を休みたいと思うときがある。
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働くことが大好きなOLの遠藤ミドリさん。体調を崩し休職を余儀なくされた彼女が、自分のこと、働くこと、生きることについて考えた1年間を描いた漫画『ときめきさがし』。
引き出しに詰まった自分の靴下を整理したり、ミントを育ててみたり、ひなたぼっこをしたり。仕事で忙しかったころにできなかったことを楽しむ遠藤さん。しかし彼女の表情はどこか満たされていないように見える。
休むことに迷い、周りの人たちや自身の将来について考え続ける遠藤さん。『ときめきさがし』を読み進めると、休みたいと願うわたしの、心の奥深くに隠れていた気持ちが見つかった。
休むことで人は強くなる
働くことが大好きだった遠藤さん。療養中のある日の22時、ベッドで横になりながら考えるのは、会社でまだ働いている人たちのこと。別の日、笑顔で働く後輩を見て、わたしだってと思いながら唇を噛みしめる。作中では休職する遠藤さんが働いている人たちを思い起こす様子が描かれている。
また、1年間という決められた休職期間はいずれ終わりを迎え、つらいことやくるしいことに耐えてお金を稼ぐ日々にもどることを考える彼女の姿も見られる。
休むことによって周りの人々と自分を比べてしまうこと、だれかに迷惑をかけてしまうこと。休む期間は有限であり、いつの日か、またくるしみに耐える日々がはじまること。わたしは休めないことに悩んでいたのではなく、休むことに怯えていた、休むことが怖かったのだ。わたしは初めて気が付いた。
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『ときめきさがし』の作者である今日マチ子先生はインタビューで次のようにお話ししている。
たぶん仕事が好きな人にとっては、休んだ期間てすごく不安だと思うんです。しかも1年も休んだら、もう終わりだ!みたいな感じにすらなる。休むだけでなく、一度仕事を辞めてしまった人なんてもっと不安なのかもしれません。
でも、それはつまりその不安にお休みの期間「耐え続けた」ということなので、その人を強くするんじゃないかなって思うんです。仕事をすることより逆にその状態ってすごく怖い。それを乗り越えられたなら、成長できるんじゃないかと思いますね。
(『仕事を受け過ぎてパンク…人生の一回休みが教えてくれたこと_漫画家・今日マチ子インタビュー前編』 - クラシコムジャーナル) 最終閲覧日:2020年8月20日
休むことには恐怖や不安が伴う。だからこそ休むことで成長できる。休んでいた遠藤さんが仕事や生きることについて考え、彼女の心境に変化が現れる様子を作中で見ているからこそ、今日マチコ先生のお言葉はわたしに勇気を与えてくれた。
母になる過程で女性は強くなる ※ネタバレ注意
休職中のある夜、遠藤さんは夢をみる。彼女の目の前に突然、生まれたばかりの赤ちゃんが現れる夢。お世話なんてできないと感じ途方に暮れていると、赤ちゃんはアイスのように溶けて消えてしまった。
そして物語の終盤、遠藤さんの妊娠が発覚する。
妊娠した遠藤さんは母になることに対して心の準備ができていないと語る。赤ちゃんが生まれたとしても、きちんと育てられるのか、子どもが生まれたら自分の望む生活が変わってしまうのかもしれないという不安を口にする。
妊娠を報告するため、働いていた会社に足を運んだとき。遠藤さんに対する社員の声を耳にする。
出産して1ヶ月が経ち、泣いている子どもを寝かしつけひと息をつきながら「仕事もしたい」と考える遠藤さん。
母になることの責任とか、妊娠による周りの目とか、仕事と生活のバランスとか。母になることには、様々な恐怖を感じながら覚悟すること、飛び込むことなのかもしれない。妊娠をしたことのないわたしははじめて知った。
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「肝っ玉母さん」という言葉も存在しているように、ときとして母はつよさの象徴とされることがある。妊娠をして休暇を取り、不安に耐え続け、母になることを考え、覚悟をして、飛び込む。母親になるまでの時間があるからこそ、母になった女性の姿はつよく見えるのかもしれない。
母親に、なるために。わたしも勇気を出して、仕事のこととか、子どものことを頭から切り離して、少しだけ休んでみよう。引き出しに詰まった靴下の整理とかしながら。
『ときめきさがし』
出版社: 竹書房 (2018/12/1)
著者: 今日マチ子
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最後までお読みいただきありがとうございました。
あんどう
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