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旅館業においてマルチタスクは最適解ではない?【サービスチーム#6】

先日、とある旅館でパートスタッフとして働いていた知人からこんなお話を聞きました。

彼女はもともとお客様のお出迎えの担当として採用されました。
しばらくすると、『他の業務も習得するように』との会社の方針変更(マルチタスク化)がありました。
そして、お食事の提供やお花の入れ替えなど、さまざまな業務に携わるようにと言われました。
不安も大きかったですが、無理です、ということは言いづらい雰囲気だったため、仕方なく引き受けることにしました。

新しい業務を覚えるのは大変でした。
今までの慣れ親しんだ業務でしたら、始業の少し前に出社すればよかったものの、新しい業務には事前に情報取りをしたりと、今までより30分早く家を出る必要が出てきました。

それぞれの部署でシフトを作る人が違うため、出社の確認なども大変。
そんなある日に事件が起こります。

その日はお出迎え係として出社したのですが、お食事会場から連絡がきます。
「今日はお食事担当だから早くこっちにきて!」
何事かわからず食事会場に向かいます。
準備もままならず、周りからは冷たい視線を浴びせられます。
なんだかやるせない気持ちでいっぱいになり、その日は帰宅して涙を流しました。
どうやら、それぞれのシフト作成担当者の連携がうまく取れておらず、どちらにも担当が割り振られていたのです。

彼女はこの仕事を続けるのは難しいと思い、退社することを心に決めました。

(遠くからこの地に旅行にきてくれたお客様に楽しい思い出を作っていただきたい。)
彼女にはそんな純粋な思いがありました。
しかしながら、そんな思いとは裏腹に泣く泣くお仕事を辞めることになってしまったのです。

果たして、さまざまな業務をこなすマルチタスクは旅館業において、最適解と言えるのでしょうか?

今や多くの企業でマルチタスク化が進んでいる

彼女が働いていた旅館だけでなく、今や多くの業界でマルチタスク化が進んでいます。
各スタッフがさまざまな業務をこなせるようになれば、
突然の欠員にも対応できるようになるし、
(特にサービス業に顕著な)ピーク時間帯が決まっているような業種でもカバーしあって対応することができます。

そのようなメリットを考慮し、
マルチタスクで業務をこなしてもらって、生産性をあげようじゃないか!
という経営者の判断もわからなくありませんよね。

ただしかし、そこには大きな落とし穴があるのです。

スタッフの負荷が大きいマルチタスク

私が星野リゾートに入社した時のお話しです。
30代に入ってから、未経験のサービス業への転職でした。
久々に身体を動かす仕事だったため、体力的にきついな、と感じることは多々ありました。
しかし、それよりも大変だったのは、仕事を覚えることでした。

・客室の清掃
・夕食提供時の料理説明
・調理業務での包丁の扱い
・フロントでの予約管理システムの使い方
などなど、宿泊を提供する旅館業は業務が広範囲に渡ります。
入社して1年間は常に何か新しい業務を覚える日々が続きました。

私個人としては、成長を感じるとやる気が出るタイプ。
新しいスキルや知識を身につけていくことは大変ではあるけれど、やりがいのあることでした。
【マルチタスクによるサービスチームとして運営をする会社】
と覚悟していたから納得できる部分もありました。

しかし、もしこんな考えを持っていたとしたどうでしょう。
「決まった業務だけ身につけて、あまり無理なく働きたいわ〜」

マルチタスク化はとにかく負荷が大きいものになりかねませんね。
日に日に従業員満足度が下がっていくことになるでしょう。

従業員満足度が下がったら起きること

それなりに心身ともに負担があったとしても、そうすぐに人は辞めないかもしれません。
しかし、確実にそのネガティブな気持ちはどこかに表れます。

例えば、体力的に疲れていれば、お客様と接した時に不機嫌な態度をとってしまうかもしれません。
スタッフ間でもギスギスしたコミュニケーションが生まれるかもしれません。

そして、最終的には、
・顧客満足度が下がる
・離職により労働環境の悪化を招く

といった悪循環を招きかねません。
こうなると、本末転倒。
欠員対応のため、カバーしあえるようにといった目的だったのが、さらなる人員不足を招くことになってしまいます。

旅館業においてマルチタスクが最適解ではないのか?

では、改めて、旅館業においてマルチタスクを進めない方がいいか、というと答えはNOです。
時代の流れとして、マルチタスクによる労働生産性の向上、さまざまな業務の機械化は一層進んでいくことになるでしょう。
しかし、そのマルチタスクを取り入れていくためには、企業側としてもただ仕組みとして取り入れるだけでは不十分だと思います。

そこには、企業として取り組むべき課題が山のように積み上がっています。
・成長というメリットを理解できるか
・増える情報をどのように扱っていくか
・中長期的なキャリアプランをどう築いていくか
といった、個々人が抱える課題に真摯に取り組んでいかなければ、いずれ労働環境のミスマッチが起こります。

私は日本のおもてなし産業が世界をリードするくらいに成長したらいいな、なんて漠然とした夢を抱いています。
マルチタスクはあくまでそのための最初の一歩であり、目的ではありません。

マルチタスクからスタートするおもてなし業の未来の姿。
いったいどのようになるのでしょうか?
私はこの先の展開に希望を抱いています。

おもてなし産業をかっこよく。
あんでぃでした。

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