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[書評]『縄文探検隊の記録』

夢枕 獏/岡村道雄 著
かくまつつとむ 構成

発行:集英社インターナショナル
定価:本体860円+税
集英社インターナショナル新書

作家・夢枕獏氏と考古学者・岡村道雄氏が縄文時代について熱く語り合う、対談形式の縄文考察本。第一章が「日本人の食の源流」。縄文人が何をどんなふうに食べていたか、という非常に個人的に興味深いテーマが並ぶ。かつては狩猟採取民だったと大雑把に定義されていた縄文時代の人々が、じつは作物の栽培を行ない、より生産性や質の良い個体を残す”系統選抜”も行なっていたということは近年では定説となっている。植物考古学の進化で、植物遺体(残っているもの)の同定の精度が飛躍的に高まっているためで、これまでにクリは栽培林があったことがわかっており、エゴマ、アサ、ヒョウタン、ゴボウなどを栽培。小豆、大豆、ヒエなども人為的に関わりをもって管理していたといわれている。本書でもその話にふれており、さらに岡村氏が「最近驚くべきことがわかってきました」としてカボチャの種が複数の縄文遺跡から出土していることを挙げ、園芸史ではカボチャは南蛮貿易以降に渡来したと言われているので「みんな首をかしげている」としている。

じつは山形県の遊佐町小山崎遺跡の約6000年前の地層から「カボチャに近似した種」が出土。放射性炭素C14による年代測定も行なわれ、国内最古のカボチャ近似種(限りなくカボチャだろうと推定されるが確定できない、の意味)だということで、2016年にはニュースにもなった。小山崎遺跡について考古学の専門家たちによるシンポジウムも行なわれ、他の縄文遺跡でもカボチャに非常に近い種が出土した例があることが話題に出ている。

カボチャは日本カボチャ、西洋カボチャ、ペポカボチャという3系統に分類されるが、名称は日本と西洋だがどちらも中南米が原産とされている。日本カボチャは天分年間(1532〜1555年)に豊後国の大伴宗麟にポルトガル人がカンボジアから持ち込んだという説が有力だ。肉質はきめこまかく、鶴首かぼちゃや京都の鹿ケ谷カボチャがこれにあたる。現代の主力となっている西洋カボチャは肉質がホクホクしたクリカボチャで、アメリカ経由で明治期に導入された。つまり、どちらのカボチャも比較的日本では栽培の歴史の新しいものだと考えられているのだ。

それが約6000年前の縄文遺跡からカボチャらしき種が出てきたということであれば、当然議論が沸き立つはずで、おそらくいまだ調査が行なわれているからなのだろうか、本書ではカボチャの種についてはこの箇所でしか触れられていない。シンポジウム時に議題に上がった原産地メキシコとの共同研究やDNA調査などがどうなったのか知りたいが、およそ「野菜」についての歴史的調査はごく最近始まったばかりで、急な進捗を望むのは酷というものかもしれない。気を長く続報を待ちたい。

帯には「空海密教と縄文の神々の驚きの関係。」とあるが、精神世界的な部分に多くが割かれているわけではない。もちろん土偶や神々についても語られているが、主には遺跡発掘調査から出土した食生活遺物やクリ、漆、翡翠の伝播ルート(外洋航海術があった)、縄文のアスファルトなど生活面について詳細に討論がなされ、縄文好きの素人として読むのに大変ロマンに満ちた一冊となっている。


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