全身麻酔による美容手術を受ける前:術前診察が必要か?

術前評価と術前検査

“小さな手術がありますが、小さな麻酔がありません”という麻酔科医と外科医の常識です。

すべての手術はその大小にかかわらず、患者にとっては侵襲となり、ストレス反応を誘導します。患者安全のため、安全に手術を受けるか、また安全に帰宅できるかという術前評価は非常に重要です。しかし、クリニックベースの美容手術は基本的に他科医師がいないため、他科へのコンサルティングは難しい場合が多いです。また、単科クリニックのため、総合病院より設備が簡易のことが多く、心電図、胸部レントゲン、呼吸機能検査、心エコー検査も容易ではありません。メディカルビールで開業する美容外科なら、内科医に術前相談しやすいが、全ての美容外科はそうではありません。さらに、術前検査を追加することは患者さんが他の医療施設に受診してもらうか、検査してもらうことになるので、ハードルが高くなリマス。そのため、麻酔科医による術前診察は非常に重要です。麻酔科医の立場より手術侵襲だけではなく、患者合併症など様々側面も十分に考慮し、患者評価を行います。

術前診察の時期

術前大きな身体変化がなければ、6ヶ月以内の他院検査結果も代用できます。手術1~2週間前の術前評価は、術前日の術前評価より術前の不安を軽減します。術前診察は、患者教育、値段確認、手術当日説明、書類確認などに有用であり、不用意なキャンセルを避け、周術期医療の質向上にも有用です。

周術期合併症発症を予測するASAPS分類

患者の全身状態に基づく周術期合併症の発症予測にために、ASAPS(American Society of Anesthesiologists Physical Status score )は外科手術の現場で一般的に用いられます。ASAPSは術後予後とよく相関することが示されたリスク評価ツールとして広く認知されています。この分類システムでは、各患者の身体的状態と全身疾患の有無に基づいて、完全な健康状態(Class 1)から臓器提供者(Class 6)まで分類し、Class が上がるほど手術の合併症や死亡率が高くなると報告されています。Class I~V までに分類され 死亡率はClass I で0.08%、Class III で1.8%、Class IV で7.8%、Class V で9.8% と報告されています。さらに、ASAスコアが予定外入院、周術期の合併症、手術リスク、術後死亡とよく相関します。 

美容手術患者のほとんどは、ASAPS IまたはIIに分類され、手術前に追加評価を受ける必要が少ないです。しかし、顔の手術を受ける患者は通常50歳以上であり、高齢者患者も増えます。さらに、脂肪吸引、腹壁形成手術を受ける患者は、審美的な目的の若者が多いのですが、最近ではメディカルダイエットで過度の体重減少による皮膚過剰を修正するための肥満患者が増えてきており、ASAPS IIIに分類されることが多いため、追加評価が必要となります。

明らかな併存疾患のない患者は健康者ですが、無症状性疾患を併存する可能性もあります。患者が麻酔科医に評価された後、手術計画に沿って術前検査を受けることが推奨される。糖尿病、高血圧、心疾患、肺疾患、肥満、貧血、甲状腺機能低下症/亢進症、リウマチ性疾患などの患者は、術前に内科医に相談し、併発している疾患を安定させる必要もあります。また休薬に関して、麻酔科医から指示を出す必要があります。特に麻酔重症患者において、患者を適切な専門家に紹介するのは、麻酔科医が外科医と協力して行う行うべきです。内科医などの専門医による患者の評価が済んだら、患者が全身麻酔をかけられるかどうかを確認し、専門医の推奨事項を事前に知っておくために、術前評価を再度行うことが推奨されます。麻酔科医は主治医と連携し、術前精査、追加評価、場合により手術延期をしたり、入院施設がある美容外科病院あるいは大学病院へ転院したりした方がいいと助言すべきです。

心合併症リスク評価するシステム

さらに、心合併症リスク評価のために、非心臓手術患者における合併心疾患の評価と管理に関するガイドラインでは、心合併症に特化した分類システムを発表しました1。この分類法では,周術期の心合併症率を評価するために,患者因子,機能的予備能,手術リスクという3つの要素が用いられています。外科手術は高リスク、中リスク、低リスクに分類され、美容外科手術は乳腺手術と形成外科の再建手術に含まれるから一般的に低リスクとされ、それに伴う30 日以内の心臓死や致命的でない心筋梗塞の発生を示す心合併症率は1%未満とされています。

以下の図から美容外科手術を受ける場合、心合併症リスク評価とケアのアルゴリズムを示す。

非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン (2014 年改訂版 )に参考し作成

活動性心疾患の有無

まず、以下のActive Cardiac Conditionの有無を評価し、活動性心疾患がある患者は術前に循環器内科医を受診するように勧めるべきです。

Active Cardiac Condition

1.不安定な冠動脈疾患:
不安定,高度の狭心症(CCS Class III~IV)
最近発症の心筋梗塞(発症後7~30 日)
2.非代償性心不全:
NYHA Class IV,心不全の悪化あるいは新たな心不全
3.重篤な不整脈:
高度房室ブロック,Mobitz II ,3 度房室ブロック有症状の心室性不整脈,症状性徐脈
心拍数の高い(>100 bpm)上室性不整脈(心房細動を含む),新たに認めた心室頻拍
4.高度の弁膜疾患:
高度の大動脈弁狭窄症(平均圧較差>40 mmHg,AVA <1.0 cm2 または有症状),症状のある僧帽弁狭窄症(進行性の労作時呼吸困難や労作時失神,心不全)

機能的予備能

次に、患者の機能的予備能を評価します。4METs 以上の運動能力があれば 多くは美容外科手術を行うことが可能です 。

Revised Cardiac Risk Index(RCRI)

最後に、患者因子はRevised Cardiac Risk Index(RCRI)により評価し、虚血性心疾患、心不全既往、脳血管疾患、インスリン依存性糖尿病、クレアチニン上昇の腎機能障害などの臨床因子の有無を評価します。これらの因子の存在は、周術期の心臓リスクとよく相関し、2つまたは3つ以上の因子の存在は、それぞれ7%と11%の心臓合併症のリスクを伴っています。美容外科手術では低リスクですが、4 METs未満の運動能力ないし判断不能な場合,とくにRCRIの該当項目1つ以上あれば,基本的には循環器医と連携して精査を考慮し,術式あるいは麻酔方法変更も視野に入リマス。もちろん、3つ以上患者リスク因子を持つ患者は、心機能精査が必要です。

しかし、これらのリスク評価システムで、年齢だけが外来手術への適性を検討する際の独立リスク因子とは考えられていません。実際、高齢の患者さんは若い患者さんに比べて術後の痛み、めまい、嘔吐などの症状が少ないことが証明されます2。術後管理が必要になるため、高齢者に日帰り手術を行う場合、適切な交通手段がない、責任ある付き添いがいない、自宅に介護者がいるなどの社会的要因が優先され、これらの要因からも高齢者が日帰り手術を受けるのに適していないと判断されることがあります。

術前検査

術前採血検査
術前検査項目としては、一般血液検査(赤血球、白血球、血小板)、止血・凝固検査、肝・胆道系検査(血液生化学検査)、腎機能検査(血中尿素窒素、血清クレアチニン、クレアチニンクレアランス)、感染症検査などが含まれる。基礎疾患や術式によって、血液型検査・不規則抗体検査、呼吸器系検査(血液ガス分析)、循環系検査(BNP)、代謝・内分泌系検査(血糖値、HbA1c)、神経・筋肉系検査、尿検査(尿比重、尿糖、尿タンパク、潜血、pH、ケトン体、尿ビリルビン・ウロビノーゲン、沈渣)、など追加する場合もあリマス。

術前心電図

低リスクの美容手術に関しては、低リスクと判断されている患者の場合、ルーチンの心電図有用性は限られています。日本では、全身麻酔下低リスク手術でも、術前スクリーニングとして、術前X線写真や安静時心電図はほぼ全例に施行されています。しかし、運動耐容能が良好な患者において、軽度の異常が検出されても治療しない場合が多いため、2014年に改定されたACC/AHAガイドラインでは、低リスクの手術を受ける無症候性患者には心電図は必要ないとされています3。ハイリスクの患者は、術前心電図を受けることが強く推奨されます。

a. 波形の異常
 脚ブロックのうち、右脚ブロックは必ずしも異常を示唆しないが左脚ブロックは病的意義をもつことが多いです。しかし、低リスクの美容手術は特に精査が必要ないです。

ST segment の低下や大きな陰性T 波は心筋虚血のほか左室肥大、心筋症でもしばしばみられますが、低リスクの手術では心エコー図検査とトレッドミルなどの負荷テストで鑑別を試みる必要がありません4。

b. リズムの異常

運動耐容能が良好な患者においては、単発の上室性期外収縮、異所性洞調律、心房細動、単発の単源性心室性期外収縮、1度房室ブロックのほとんどに病的意義はありません。一方、多源性または連発性心室性期外収縮、 2 度・3 度房室ブロック、洞不全症候群などでは、その程度と器的疾患についての精査が必要です。 

胸部X線検査

病歴や身体検査で心肺疾患が疑われている場合を除き、年齢に関係なく術前に胸部X線検査を行うことを支持する証拠はほとんどないです。十分な問診と病歴を聴取することは非常に重要であり、どんな患者でもX線検査を勧める必要がないです。

肺機能検査

肺機能検査が適応されることはほとんどありませんが、肺切除術後、放射線照射後、また肺機能的能力低下の既往がある患者では検討すべきです。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群

閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は、日帰りの美容手術を受ける患者の術前評価において、非常重要な疾患です。軽度OSAは睡眠中に1時間あたり5~15回の呼吸停止を起こすことが特徴で、男性4人に1人、女性10人に1人の割合で見られ、睡眠呼吸障害の最も一般的な診断です。OSAは、術中術後手術リスクを高めるため、OSAのスクリーニングは美容外科手術の術前評価上に非常に重要です。

2012年に行われた13件の研究のメタアナリシスによると、OSAは術後術中合併症の発生確率を2~4倍に増加させました5。また、心血管イベント増加、心筋梗塞・虚血、不整脈、心停止、入院期間の延長なども報告されています。最近のレトロスペクティブ分析では実証されていませんが、一般的にOSAの重症度(睡眠中無呼吸イベントの数)は予後不良と相関しています6。

OSAは有病率が高いため、スクリーニングは比較的簡単で、短い質問票で効果的に実施することができます。代表的なものには、STOP BANG7、Sleep apnea clinical score8、Berlin9などの質問票があり、いずれも十分に高い感度を有することが文献で報告されています。問診票は、日中の眠気、頸部周囲長、目撃した出来事、肥満や高血圧などの併存疾患をさまざまに組み合わせて評価します。したがって、すべての患者にOSAスクリーニングを行うことを推奨します。しかし、臨床的に最も疑わしいのは、肥満者や、高血圧や2型糖尿病などOSAを併発している状態の患者である。スクリーニングの結果、問診票が陽性で、病気の疑いがある場合には、確定診断(ゴールドスタンダードは睡眠ポリソムノグラム)を受け、専門医による管理を受けることができます。OSAが確立された患者では、現在の治療の重症度、適切性、コンプライアンスを評価し、現在の治療を記録することが重要です。

OSAまた併存症の低~中リスク患者において、術後オピオイド必要量が高すぎなければ、低リスク手術に予定通り進む。2012年に発表されたコンセンサス・ステートメントでは、OSAまたは疑い患者であっても、併存疾患が十分にコントロールされており、術後気道陽圧治療推奨に従うことができれば、低リスクの外来手術を行うことができると報告されている9。重度OSA患者は、手術を予定する前に治療を受けるべきであり、美容手術は延期すべきです。

参考文献

1. 非心臓手術における合併心疾患の評価と管理にするガイドライン 2014

2. Chung F, Mezei G, Tong D: Adverse events in ambulatory surgery. A comparison between elderly and younger patients. Can J Anaesth 1999; 46: 309-21

3. Fleisher LA, Fleischmann KE, Auerbach AD, Barnason SA, Beckman JA, Bozkurt B, Davila-Roman VG, Gerhard-Herman MD, Holly TA, Kane GC, Marine JE, Nelson MT, Spencer CC, Thompson A, Ting HH, Uretsky BF, Wijeysundera DN: 2014 ACC/AHA guideline on perioperative cardiovascular evaluation and management of patients undergoing noncardiac surgery: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on practice guidelines. J Am Coll Cardiol 2014; 64: e77-137

4. Carliner NH, Fisher ML, Plotnick GD, Moran GW, Kelemen MH, Gadacz TR, Peters RW: The preoperative electrocardiogram as an indicator of risk in major noncardiac surgery. Can J Cardiol 1986; 2: 134-7

5. Kaw R, Chung F, Pasupuleti V, Mehta J, Gay PC, Hernandez AV: Meta-analysis of the association between obstructive sleep apnoea and postoperative outcome. Br J Anaesth 2012; 109: 897-906

6. Weingarten TN, Flores AS, McKenzie JA, Nguyen LT, Robinson WB, Kinney TM, Siems BT, Wenzel PJ, Sarr MG, Marienau MS, Schroeder DR, Olson EJ, Morgenthaler TI, Warner DO, Sprung J: Obstructive sleep apnoea and perioperative complications in bariatric patients. Br J Anaesth 2011; 106: 131-9

7. Chung F, Subramanyam R, Liao P, Sasaki E, Shapiro C, Sun Y: High STOP-Bang score indicates a high probability of obstructive sleep apnoea. Br J Anaesth 2012; 108: 768-75

8. Flemons WW, Whitelaw WA, Brant R, Remmers JE: Likelihood ratios for a sleep apnea clinical prediction rule. Am J Respir Crit Care Med 1994; 150: 1279-85

9. Netzer NC, Stoohs RA, Netzer CM, Clark K, Strohl KP: Using the Berlin Questionnaire to identify patients at risk for the sleep apnea syndrome. Ann Intern Med 1999; 131: 485-91


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