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失恋は娯楽だけど

失恋は娯楽だとは認識していて、中島みゆきの「あなたは別れに味をしめて」というところにいたく共感してはいましたが。

息子に「おれが死んだらどうする?」と聞かれて、いろいろ話していた。

何をするために生まれて来たかって考えてたらね、どうもお母さん、感情を味わいたいみたいなんだな。となるとね、強い感情っておいしいよね。ふられて悲しい、さみしい、くるしい、とか。別れてひとりになったときの孤独感とか、絶望感とか。あまずっぱい、切ない気持ちとか、超おいしー。だからお母さん、失恋をくりかえしてるのかもしれない。

まあ、失恋は娯楽なんだとは知ってたの。不謹慎だけど、彼が死んだときも究極の感情をあじわったよね。10年かけて。それでだんだんあじわいつくして。そろそろおちついてきてて。

あれより強い感情っていったら、あとは君が死んじゃったときぐらいかもね。

!!息子、いたく納得いった様子で、愕然としている。この一年、なんか生命の危機を感じていたのですって。おれは外敵には強いけど、敵だと思っていなかった母の、無意識の、攻撃とも言えない脅威には立ち向かいようもないって。なんとなく、この先二、三年が危ない気がしてたって。

あら。でもわたし、自分の目的がわかっちゃったから、君が死ぬ以外の方法でも感情をあじわうことを達成できると思うの。

いま、あれより強いのはおれが死ぬぐらいだって自分で言ったじゃん。

いや、無闇に強い感情ではなくて、深い喜びとか、あふれる歓喜とか、日常の幸福感とかをあじわおうと思って。

いや、母ちゃんは無意識で決めちゃってるから、そんなこと口で言ってもムダだよ。

え、え、え、そうだろうか? どうしよう。

最悪、おれが母ちゃんをころす。おれは生きていたいから。気が狂ったふりをすれば多少罪は軽くなると思うし。

ええええ、でもここんとこずっと潜在意識の書き換えとか、扱い方を勉強したりしてきていて、なんとかできると思うの。

母ちゃんのなかには、強固なコンクリートの壁があって、そのなかに操縦室みたいのがある。母ちゃんの勉強ってのは、壁の前の石ころを掃除したぐらいだよ。ここ一年ぐらいで母ちゃんがその壁を壊すなり鍵をあけるなりできるとは思えない。あと50年ぐらいはかかると思う。

たぶんその鍵は言葉なんだよ。三文字ぐらいの単語だったりするかも。母ちゃんはそれをもちろん知ってて、でも避けたり逃げたりしてきているんだと思う。

じゃあ、身体からいったらどうかな。呼吸法とか、ヨガとか、タントラとか。ニルヴァーナにいければ、感情をあじわう必要がなくなるんじゃあ。

母ちゃん、行けるの?

うん、がんばる。

どうしよう。わたしなんとかしないといけない。ここ7年で4回め、2年経つと別れるを繰り返してきていて、そろそろ失恋の感情にも慣れてきてしまっているのかもしれない。息子が死ぬ前に、方向転換しなくては。























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