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クロスパターンと平行パターン(ナンバ歩き)についての考察

クロスパターンと平行パターン

こちらの動画はゴリラが歩くところなんですが、これを見て思ったのは、ゴリラもクロスパターンで歩いていると言うことでした。もうひとつ、ナマケモノもゆっくりですが、クロスパターンで移動しています。

クロスパターンというのは、右手と左足、左手と右足という感じで、交差する形で腕と足を振る歩き方のことです。赤ちゃんのハイハイも、平常時にゆっくりと犬や猫が歩くときも、このクロスパターンで歩いています。そう考えると、クロスパターンこそが、動物にとってのアプリオリと言いますか、当たり前に備わっている脳の回路ということのように思えますね。

それに対して、こちらのワニを見てみてください。

最初、ワニがぴょんぴょん跳んでいます。まるでカエルみたいでもありますが、少ししたら、普通のクロスパターンの歩き方に変わりました。急ぐときにはぴょんぴょん跳んで、普通のときにはクロスパターンという風に見えます。

キネシオロジーにおけるクロスパターン

これを見ながら、昔仕事でやっていたキネシオロジーの中で、クロスパターンと平行パターンという修正法のことを思い出しました。

クロスパターンというのは、歩くときに、左手と右足、右手と左足という風に、それぞれを同時に動かすので、右脳と左脳をつなぐ脳梁にパルスがたくさん走って左右の脳を繋ぐように回路ができていくのです。

しかし平行パターンというのは、右手と右足を同時に動かし、次に左手と左足を同時に動かすので、左手左足を動かすときには右脳が使われ、その逆のときには左脳が使われて、左右の脳を繋ぐ脳梁にはパルスが飛ばず、やればやるほどに左右の分離が促進されることになります。

いろいろと問題がありストレスがある時には、左脳優位の状態になっています。そんなときには平行パターンが優位になって、左右の脳が分離状態になっていることが多いのです。

左右の脳が連絡を取り合って、協力関係を結んでいる方が、解決策を思いつくことも多くなるので、問題があるときにはクロスパターンの脳の状態にしてあげることが、問題解決のためには大事になるのです。

クロスパターンのエクセサイズをすることで、左右の脳をつなげてあげると、それまで問題だったものが問題ではなくなり、ストレスは解消するというようなことも起こるのです。

そういうことを仕事としてやっていたので、その時々の脳のコンディションが、クロスパターンになっているのか、それとも平行パターンになっているのかということは、僕にとってはとても気になることでした。

ただ、その時キネシオロジーの世界で僕が学んだものは、クロスパターンは良くて、平行パターンは悪いものだという見方だったんですね。しかし、僕の中では、その見方に対しては違和感があって、良い悪いで判断するようなものではないはずだという確信がずっとありました。

ナンバ歩きは平行パターン

そんな中で、よく語られていたのが、ナンバ歩きのことです。ナンバ歩きは、上のパターンにあてはめると、平行パターンということになります。

おもしろいもので、このナンバ歩きの世界では、クロスパターンは西洋の考え方で、体操を通して、明治以降に日本に入ってきたものであって、日本人にはあっていないものであると語られることが多かったように思います。

古来の日本人はずっとナンバで歩いていたし、ナンバ歩きの方が優れているという言説もあちらこちらで語られていました。

この動画の中では、まず、ナンバとは手足を同じ側に出すことではないと念を押されています。動きを見てみるとわかりますが、どちらかというと手は上下させる感じですね。

右足を出すときに右手を下に押すように降ろし、左足を前に出すときには、左手を下に押すように降ろします。これを繰り返していると、とても楽に歩けます。

大きく腕を振ってクロスパターンで歩こうとすると、たくさんの筋肉を使いますし、身体に負担を感じますが、ナンバの歩き方であれば、最低限の負荷で歩くことができるので、長距離を移動するときには、こちらの方が有利だと言うことがわかります。

だから、こちらのナンバ歩き(平行パターン)の方が、優れているという論調になるわけですね。

しかし、クロスパターンは悪いのかというと、そういうことでもありません。ですから、僕の中ではこちらのナンバ歩きが正しいとか、優れているというような言説にも常に違和感を感じていました。

違いについて考える

そこで、今自分が思っていることは、それぞれに良さがあり、その良さを使い分けることができれば良いという事です。

クロスパターンはすべての動物が持っているパターンです。そしてこれは脳の発達プロセスを考えて見ると、とても理にかなったものだと言うことがわかります。

赤ちゃんは最初自力では動けません。しかし興味があるものを見て、興味のある音が聞こえる方向に首を向けたり、身体を起こしたりするうちに、すこしずつ筋肉がついてきます。

そして、やがて彼はズリズリと自分の身体を引きずって、行きたい方向に移動を始めるわけです。最初はクロスパターンではありません。ズリズリ全身を使って前に進むようなずり上がり的な移動です。左右の手、左右の足を同時に使って、前に進みます。

これをイメージすると、跳べないカエルみたいです。身体をずりずり引き摺りながら、這いずって前に進むわけです。

しかしその期間はそんなに長くありません。そのうち身体をひねりながら、右手と左足を交互に使い、クロスパターンに進歩していきいます。その方が前に進む方法としては効率が良いですし、動物の身体がそのようにデザインされているからですね。上のナマケモノの動画がまさにそんな感じです。

そしてクロスパターンを続けることで、左右の脳の間にたくさんのパルスがとぶことになります。そして回路ができていくにつれて、脳は発達し、より複雑なことができるようになっていきます。ですからクロスパターンは脳を発達させるために、とてもよくできたシステムということになるわけです。

人間を含めて、すべての動物がこのクロスパターンを持っていると言うことは、これが発達のためのアプリオリであると言えると思います。

ナンバ歩き

では、ナンバ歩きというのはどうして生まれたのでしょう。これについては憶測の域を出ませんが、日本において、ナンバ的な歩き方の方が長い距離を歩くためにはより適しているということを発明したのかもしれません。力も出ますし、身体への負担も少なくて済みますし、場面によってはクロスパターンよりもこちらの方が優れています。

帯刀しながら歩くときや、刀を抜くときなどに、ナンバの身体使いの方が動きやすかったということもあるのかも知れません。

ちなみに、僕はバリ島の踊りを長くやっていましたが、バリの踊りにおいても、ナンバ的な身体の使い方が基本としてあります。まったく日本の古い歩き方と同じような歩き方がバリの踊りの基本です。そう考えると農機具の使い方とか、そういうことも影響したのかも知れませんね。

ただ違いがあるとしたら、バリは横8の字であり、日本は縦8の字です。これについては、一時期、高名な能のシテをされていた方のところで稽古をさせていただいていたことがあるので、その時に個人的に発見したものです。日本の能の歩き方は摺り足であり、ナンバですが、そのときに縦の八の字を感じたのです。バリは明らかに横の8の字でしたから、おもしろいと思っていました。

そして今、上のナンバ歩きに関する動画の中で、手を上下に動かしているのを見ながら、同じようにその動きを真似て動いていたときに、あのときの能の稽古をしていたときに、縦の動きだと感じたということを思い出したのでした。


ナンバ歩きの良いところ

ナンバ歩きの良さは身体に負担を掛けずに長い時間、長い距離を歩けることだと思います。それと歩くことで内に内にと意識が向きがちになります。奥行きといいますか、内に向かって、より深く掘り進むというようなときには、ナンバ歩きは向いていると思います。一言で言うならナンバは縦に深く掘るということが言えるでしょう。

クロスパターンの良いところ

それに対して、クロスパターンの良さは、右脳と左脳をつなげ、より多くの筋肉を活性化させることです。これは横に意識を広げさせる働きがあります。気づきを広げます。視野を広げます。深めるというよりは、広げることに意味があるときには、クロスパターンは優れています。こちらを一言で言うなら、クロスパターンは横に気づきを広げてたくさんの神経単位を巻き込むということが言えるでしょう。


どちらも良いけれど気をつけるべき所

こうして見てくると、クロスパターンがしっかりと構築されたあとで、ナンバ歩きは始める方がいいのかも知れません。

ナンバ歩きの欠点をあげるとしたら、それは右脳のアイデアが上手く拾い上げられないということです。狭い気づきの中で、推し進める力はより強いので、下手すると、古い信じ込みにとらわれて、浅い気づきの中で、間違った方向に進んでしまいかねない訳です。

クロスパターンは脳の発達には必要な運動ですね。しかし、長時間、長距離の移動を強いられるときには、身体への負担が大きくなりますから、そういうときにはナンバ的な身体の使い方に切り替える方がいいかもしれません。

どちらが正しいということではなく、どちらも意味があり、用途がありますから、違いを理解して、上手く使い分けられるようになるということが、懸命な態度と言えるでしょうね。

このクロスパターンと平行パターン(ナンバ歩き)について、長い間、考えてきましたが、ようやく全体像が見えてきたような気がします。

ベタですが、どちらも良いというのが、答えですね。そして、両方を上手く使い分けられるようになったときには、また違う景色が見えてくるのではないかという気がします。

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