邪馬台国の使者/マーヤとアラシ 第1章 みにくいアヒルの子

第1章 みにくいアヒルの子

「いかないで-、死んじゃいや-」
荒れ狂う風雨の中、マーヤは必死でメスアヒルのマギーのあとを追いかけました。
 マーヤの必死の叫びもむなしく、川に入ったメスアヒルのマギーは、おりからの増水で、あっというまに宇田川の河口から山陰の荒海へと流されてゆきます。
 無我夢中のマーヤも、危険をかえりみず後を追いかけ、砂浜から荒れ狂う海へ・・・
 夏の残り香を、まだかすかに残す海とはいえ、体力の弱リきったアヒルのマギーは、波にもまれ、いつのまにか波間に姿が見えなくなりました。
 そして、海に入ったマーヤも、泳ぎが得意とはいえ、この荒れ狂う高波の中では海水を大量に飲み、何度も沈んではうかびあがりながら、必死でメスアヒルを探しますが、もう手遅れ。しかも、マーヤ自身も砂浜から遠く離されつつあり、今度はマーヤに重大な危機が迫っていました。


 ここは 山陰・大山(だいせん)北方の浜辺、淀○町の宇田川河口。
その河口の西岸に、へばりつくようにネコの額ほどの草地があり、野生化したアヒル達の、最後のよりどころとなっていました。
 長年の栄養不良がたたり、体がぼろぼろになり、さらに左脚の骨折も重なり衰弱したメスアヒルのマギー。このまま巣にいると、大事な大事な"運命のタマゴ"を危険にさらすことにもなり、死期をさとった動物の本能から、イタチに食い荒らされるよりはと、海での自害を選択したのです。
 そして、メスアヒルのマギーを命がけで守ってきたシロカゲ(オスたちの最後の生き残り)も、死に行くマギーを悲しく見送るしか、すべがありませんでした。

 それに、シロカゲには悲しみに浸るよりも、マギーの残した2,000年の時を経て誕生した"運命のタマゴ"を、絶対に死守しなければならない大切な使命がありました。


 押し寄せる荒波に翻弄(ほんろう)され体力を消耗し、海水を大量に飲んだことで意識ももうろう。荒波の一撃をまともに受け、とうとう力つき、海底へ沈んでゆくマーヤ。
薄れゆく意識の中で恋しい両親や弟の顔が
「ママ・・パパ、さよう・な・ら・ ユウキ。守れなくてゴメン」 

 と、そのとき、護岸(ごがん)を乗り越え、浜辺へひた走る若い娘の姿がありました。
 その娘は波打ち際から、ためらいもせずザンブと荒れ狂う海に飛び込み、すばやい泳ぎで押し寄せる高波を乗り越え、マーヤの沈んだあたりへ迫ります。
 そして 何度も潜水しては海底を探し回り、とうとう数回目にグッタリした女の子を抱きかかえて浮上しました。

 そうして、やっとの思いでマーヤを抱きかかえ波打ち際までたどりついた娘は、砂浜でマーヤに必死の救命処置をするものの、水の冷たさと、呼吸停止が長かったためか、マーヤの心臓も呼吸も停止したまま・・・
 心臓マッサージも人口呼吸も効果がなく、あまりの厳しい状況に、マーヤの蘇生(そせい)をあきらめかけた娘でした。

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