泣きっ面にフードコート
田辺さんと世間話をしていたときのことです
田辺さん「そういえば〇〇くんと連絡とったよ!いつか〇〇くんの子供と酒寄さんの子供で相撲取らせたいねって」
〇〇くんはもう辞めてしまった同期の芸人で、今は地元に戻って三人のお子さんのパパになっています。田辺さんも私もとても仲が良く、昔はよく〇〇くんの家に同期で集まって遊んでいました。(〇〇くんについては『この世の中の女全員の為に怒る女』というタイトルで書いています)
私「〇〇くん!元気?」
田辺さん「元気そうだよ!お子さんいるから大変そうだけど頑張ってるみたいよ」
私「またみんなで会いたいね」
田辺さん「ね!会いたいよね!そうそう、それでさ!〇〇くんのことで思い出したことがあるの。〇〇くん家で夜更かししたときの話なんだけどさ」
私「田辺さんってよく夜更かししてるよね」
田辺さん「ええ。何ならあの頃は夜更かししかしてなかったね」
田辺さんは他にも、「あの頃はフレンチトーストばかり焼いていた」といった過去も持っています。
田辺さん「あれは真冬だったね。次の日、朝が早いって日に〇〇くん家に泊めてもらったのよ。〇〇くん家が現場に近くて」
私「うんうん」
田辺さん「でも〇〇くん家、ガス止められててさ、風呂どうしようってなって」
私「あら!」
田辺さん「それなら銭湯行こうってなったんだけど、まさかの定休日だったの!どうする?ってなって」
私「どうしたの?」
田辺さん「電子ケトルで地道にお湯沸かして、風呂入るのに四時間かかった!」
私「やばっ」
田辺さん「マジヤバかったよ!」
私「体拭くとかだけにしたら良かったのに」
田辺さん「次の日仕事だったからちゃんと風呂に入っておきたかったの!」
私「それなら入っておきたいね。でも四時間もかかったら最初の頃の熱湯もちょうど良い湯加減になってそうだね」
田辺さん「ちょうどいいどころか水だった」
田辺さんたちは四時間かけて水風呂を作り上げたようでした。
田辺さん「22時くらいから2時までずっと湯を沸かし続けてさ」
私「逆シンデレラタイムじゃん」
田辺さん「本当だよ!体壊すよ!真冬だよ!」
※22時~午前2時が肌の生まれ変わるシンデレラタイムで寝ると美肌になると聞いたことがあります(諸説あります)
田辺さん「それを急に思い出したわ。〇〇くんとの思い出ってこんなことばっかりだよ」
私「私は〇〇くんと言ったらビブラートを思い出すよ」
田辺さん「ああ、懐かしいね!ビブラート!」
〇〇くんはよく歌を歌っていたのですが、彼の歌い方は独特でした。私はずっと気になっていて、あるとき田辺さんにこっそり聞いたことがありました。
過去の私『あのさ、〇〇くんの歌って下手とかじゃなくて、なんか特殊じゃない?』
過去の田辺さん『それはね、〇〇くんの歌い方はとってもビブラートがきいているの』
過去の私『ビブラート?』
過去の田辺さん『そう、ビブラートよ』
私はそのとき初めてビブラートの存在を知りました。それから少し経ち、他の同期も含めてコンビで〇〇くんの家に泊めてもらったことがありました。寝るときになって〇〇くんが暗闇の中で気持ちよく歌い始めました。
過去の田辺さん『ねえ、やめてくれる?』
暗闇の中、少しいらだった田辺さんの声が聞こえました。
過去の田辺さん『ねえ、ビブラートやめてよ!!』
〇〇くん『♪~(無視して歌い続ける)』
過去の田辺さん『みんな明日早いんだから、寝ないといけないの!ビブラートやめて!』
〇〇くん『♪~♪~♪~(ここ一番のビブラートをきかせる)』
過去の田辺さん『うるさい!ビブラートやめなって言ってるでしょー!!!』
田辺さんは歌うことではなくビブラートに対してぶちぎれ、ここから本格的な喧嘩になってしまいました。私はそのとき初めてビブラートのことで大喧嘩をしている人を見ました。
私「覚えてる?」
田辺さん「覚えてる!ビブラートのことでしょっちゅう喧嘩してたね。ビブラートってこっちのコンディションが良いときは素敵なんだけど、こっちがメンタルやられてるときはなんかムカつくのよ」
私「田辺さんと〇〇くんって気づくと喧嘩してたよね」
田辺さんが「そうだね!そういえば〇〇くんに、『ちっぴ(田辺さんのあだ名)は働いていないのにフレンチトーストを食べすぎてる』って言われて喧嘩になったこともあったよ!まじムカつく!」
そんな感じで思い出話は尽きず、色々話してその日のやりとりは終わりました。しかし、私が〇〇くんとの思い出で一番忘れられない出来事は田辺さんの口からは出てきませんでした。
それは〇〇くんとお別れをした日です。
色々あって、〇〇くんは芸人を辞めて地元に帰ることになりました。〇〇くんの地元は遠く、一度帰るとなかなか会えなくなってしまうことがみんなわかっていました。〇〇くんが帰る当日は芸人仲間で集まって、みんなで〇〇くんと喫茶店で思い出話をしました。
〇〇くん「色々あったな~。オレが地元戻っても忘れないでね」
田辺さん「絶対遊びに行く!同じ日本だもん!近いよ!あっという間だよ!」
この場で解散予定だったのですが、このまま別れるのはやはり寂しく、田辺さんや私含めて何人かは一緒に電車に乗って行けるところまで見送りをすることにしました。
田辺さん「…」
お茶をしているときはずっと笑っていた田辺さんも、電車乗っている間にどんどん無口になり、お別れの駅に到着するときにはしくしくと泣いていました。
その場にいるみんな、田辺さんと〇〇くんがとても仲の良い友達だったことを知っている為、田辺さんの涙は見て見ぬふりをしました。〇〇くんだけが、
〇〇くん「ちっぴ泣くなよ~。名残惜しくなるだろ~」
と、田辺さんに向かっていつものように笑っていました。
〇〇くん「ここまでで大丈夫だから」
空港に向かう電車に乗り換えるための改札で、〇〇くんが言いました。田辺さんは号泣していました。
○○くん「お前ら売れろよ!」
田辺さん「絶対売れる、絶対人気者になる、絶対、絶対だよ、」
〇〇くん「じゃあな!」
〇〇くんは大きく手を振って改札の中に入っていきました。私たちはどんどん遠く離れていく〇〇くんの背中に手を振り続けました。田辺さんは〇〇くんが見えなくなってもずっとその場で泣いていました。私も一緒に見送った同期も今は田辺さんが泣きたいだけ泣かせてあげようと思いました。
同期A「行っちゃったね。寂しくなるな~」
同期B「でもまた会えるよ。友達だし」
同期A「確かに。あ、そういえばここからソラマチって近いよね?」
私「私ソラマチってまだ行ったことない」
同期B「じゃあフードコートで何か食べて帰ろうか」
同期がそう言った途端、
田辺さん「フードコート!!何食べる?︎」
田辺さんはもう泣きやんでいて、歩き出そうとしていました。
私はだから人は生きていけるんだなって思いました。
おわり
***
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