HDR TPG、さっそくためしてみる1️⃣

メーカーがやるべき仕事を放棄し、怠惰と強欲のままに利権化ばかり目指し、ユーザーの利益を阻害する一方で、本当に求められる価値ある技術をエンジニアとしての良心の元開発し、提供する優れた人材は多くいる。
Argyll CMSやDisplayCal、HCFRといった素晴らしいCMSや、madVRやそれに付随するmadTPGもその一つだ。
今回Windows用に非常に便利なHDR/SDR対応のTest Pattern Generator(以下TPG)が発表されたので紹介しよう。

とはいえ、そもそもTPGとはなんぞや、と思う読者の方が多いだろう。
キャリブレーションを自分でやっている、と言うものでも知らないことのほうが多い可能性すらあるのだから無理はない。
TPGは上記の通りTest Pattern Generatorの略で、一言で言えば指定するRGB値に対応した信号を出力する。ただそれだけのアプリだ。
これまで述べたように、映像信号は所詮はRGBの0-100%のデータでしかない。(輝度信号、色差信号は表現の仕方が異なるだけに過ぎない)

RGB全てが同じ値の場合に彩度が0となり、輝度に応じて黒から白へ、より明るい白へと変わり、RGBのバランスが崩れた際に白色点から色度がずれ、そのずれが色として感じられる。
色の強さに彩度という表現があるが、彩度はこのずれの大きさと言っても良い。
RGBそれぞれ単独、もしくは2色が等しく出力され残りが0の場合に、想定される色空間において最も純度の高い色が表現される。RGB単独をプライマリ、2色混合、即ちCyan、Magenta、Yellowはセカンダリカラーと呼ぶので覚えておくと良いだろう。
余談だがテレビやモニタ等(以下受像機とする)で指標として扱われる色域という考えは、プライマリカラーがどこに位置するか、で決まる。
受像機はRGB混合で色を表現しており、即ちそのモニタやテレビがRGBそれぞれ単独で表示可能な色度のプライマリを超過する色は表示し得ないからだ。

話が横道にそれたので話をTPGに戻そう。
上述の通り映像系において全ての色、輝度はRGB値によって定まる。
全てが0として出力された場合にその受像機が表示しうる最も深い黒である。出力がないのでイメージし易いだろう。
逆に全てが100%として出力された場合にそのモニタが表示しうる最も明るい白となる。
ただしいずれの場合も、色度が厳密な白、求める白色点と一致するとは限らない点には注意が必要だ。どのような受像機であれ、RGBのバランスは完全に均等ではなく、Rが強かったりBが強かったイスルことが殆どだからだ。

TPGは指定するRGB値の信号を出力すると述べた。
RGBが0-0-0でも、100-100-100でも、0-50-15でも、任意の値を出力する。ただそれだけのソフトだ。
やっていることはペイントソフトで指定のRGB値でウィンドウ内を塗りつぶすだけといっても良い。
これを満たすソフトはすでに多くあり、例えばDisplayCalやColourspaceも該当するソフトウェアを内蔵TPGとして実装している。
では今回紹介するTPGは何が違うのか、といえばHDRに対応していることに尽きる。

WindowsのHDRモードはその性質上、従来のSDRを前提としたソフトはsRGBとしてHDR色空間内に出力される。
既存のTPGにおいてもこれは同様であり、DisplayCalもColourspaceも、おそらくCALMANも標準のTPGはHDRを前提とした設計をされていない。
madVRに同梱されるmadTPGはHDRのアプリケーションとして動作が可能であったが、これを除けばHDR出力時でありながらも、TPGの出力はsRGBレンジに限られるという問題があった。
解決策としてmadTPGを用いる、もしくはWindowsそのものはSDRモードのまま、ただしHDMIやDisplayPort出力のメタデータを上書きして受像機側を強制的にHDRモードで動作させる方法もあったが、いずれの方法も動作モードの設定にほんのすこし、しかし知らなければ実行が不可能になる致命的な問題があった。

今回発表されたアプリはそれらの問題を解決するものになる。
動作モードがHDRを前提にしており、WindowsをHDRモードにさえしていれば、追加の設定を必要とすることなくHDRアプリとして動作する(SDRとしての動作も可能である)
DisplayCalにはResolveのTPGを偽装し、HCFRに対しては(おそらくLightillusionの)RassberryPi TPGを偽装して動作する。

使用方法は次回の記事で説明するが、madTPGに変わる有望なTPGとして活用ができるのではないかと期待している。
勿論madTPGやメタデータをハックする手法を今後も継続して使用することになんの問題もない。
使用者が自由に選択肢、己の使いやすいものを使用すればよいだけのことだ。
とはいえ、今まではそこに一定のハードルがあったのが事実であり、そしてこのソフトがそれを無くしてくれた、というだけの話に過ぎない。
何らかのハードルがあることは、試そうというユーザーにとっての大きな壁となる。
それを取り払ってくれたこのTPGと、それを公開してくれた素晴らしいエンジニアの素晴らしい行いに対し、4K HDR anime channelとしてその使用方法を公開することで感謝を示したい。

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