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てんかんってどういう病気?病態と発作時の対処法、治療内容を獣医師が解説

こんにちは!犬猫の獣医師、あんじゅ(@vets_magazine)です。

「てんかん発作ってどんな病気?」

「起きた時はどう対処すればいいの?」

という疑問に答えます。

犬猫にもてんかん発作があり、一度発作が起きるとその後繰り返すことが多いため、「てんかん持ち」といったりします。

この記事を読んでいるあなたは、いざ愛犬愛猫にてんかん発作が起きた時、どんなふうに対応すればよいか分かりますか?

てんかん発作が起きている間は意識がなく、声をかけても反応はありません。手足をバタバタと運動させてよだれを垂らし、失禁もするかもしれません。

このまま戻ってこないのではないか?

・・・とパニックになってしまう飼い主さんが多いです。

この記事では、てんかん発作持ちの子の飼い主様だけではなく、てんかん発作を知らない飼い主様にも参考になるよう、

  • てんかん発作とは?

  • てんかん発作が起きてしまったときの対処法

  • 特発性てんかんの治療について

の3本立てで解説していこうと思います。

てんかん発作とは

「てんかん発作って、名前は聞いたことあるけど、どんな病気か全然知らない」

という人が多いのではないかと思います。

まずは、てんかん発作とはなんぞ?という話をしましょう。

てんかん発作とは、脳神経が突然異常に興奮状態になって統制が取れなくなり、全身のけんれんや失禁、硬直、よだれなどの徴候を同時に起こす症状です。

脳の中は多数の神経細胞でできています。

神経細胞同士はシナプスという場所で接続されており、様々な情報を伝達しあって機能しています。

例えば、腕を上げたいと思ったら、脳から「収縮しなさい」という司令が、神経細胞を伝って上腕二頭筋に伝わり、その司令を受け取った上腕二頭筋が収縮して腕があがります。

神経細胞の司令は電気信号で伝えられるのですが、その電気信号が異常に発火してしまうのが発作の原因です。

てんかん発作のうち、脳全体で異常発火し、全身のけいれんが起きるものを全般発作と言います。

脳の一部分のみが異常に興奮して体の一部だけに異常な動きが見られる発作もあります。これを焦点性発作といいます。

どちらもてんかん発作です。

てんかん発作の原因は?

異常に神経細胞が発火する原因はいくつかありますが、大きく分けると、

  • 脳に何か病気があって、二次的に発作が起きるパターン(構造性てんかん)

  • 脳のMRI検査では何も見つからない原因不明パターン(特発性てんかん)

  • 脳以外の問題(代謝性疾患)

の3つに分かれます。

脳以外の問題でも発作は起きます。

例えば、肝不全になるとアンモニアという毒素が解毒されずに体に蓄積します。

その結果、発作のような症状が起きることがあり、これを「肝性脳症」といいます。

また、低血糖や中毒、ミネラルバランスの異常でも発作が起こることがあります。

血液検査で発作につながる異常が検出されなければ、「脳の問題」と言えます。

脳の問題には、大きく分けて構造性てんかんと特発性てんかんがあります。

構造性てんかんの原因としては、脳炎、脳腫瘍、脳出血、脳梗塞、脳奇形などの疾患が挙げられます。

上記の疾患は、MRI検査の結果や症状の進行度合い、年齢などから総合的に診断されます。

MRI検査で何も異常が見つからなかった場合、特発性てんかんという診断が下ります。

つまり、「原因不明のてんかん=特発性てんかん」なのです。

特発性てんかんとは?

いわゆる「てんかん持ち」とは、特発性てんかんを指します。

特発性てんかんの原因は不明ですが、脳の中のどこかに電気信号が不安定な発火点となる場所があり、定期的に発火しては脳全体にそれが広がって、発作が起きると考えられています。

若齢で初めてのてんかん発作が起きた場合は、「特発性てんかん」の可能性が高く、高齢になってから初めててんかん発作が起きた場合は、「構造性てんかん」の可能性が高くなります。

しかし、若齢であっても、「ただのてんかん発作だと思っていたら実は脳炎だった」みたいなことは多々ありますので、てんかん発作が起きた子はMRI検査を受けて、構造性てんかんの可能性を除外するのがベストです。

てんかん発作が起きた時の対処法

てんかん発作持ちの子の飼い主さんは慣れている方が多いのですが、てんかん発作をはじめて見た人はおそらくパニックになってしまいます。

てんかん発作が起きたときの対処法を知っておきましょう。

冷静になる

まずは冷静に。てんかん発作は殆どの場合、放っておいても数分以内に終わります。

また、発作が始まると基本的にはお薬以外で止めることは出来ません。

いくら呼びかけても本人には聞こえませんし、体をゆすっても意識は戻りません。

やるべきことは他にあります。冷静に以下のことを順番に行ってください。

周りにあるものをどける

動物の周りにあるものをどけてください。

発作中に激しく手足が動くことで、周りのモノがぶつかって怪我をすることがあります。特に暖房器具や大きな家具には注意が必要です。

安全確保のため、できる限りモノをどかして広い空間を作ってやってください。

動画を撮影する

発作の様子を獣医師に見せるため、スマホで動画を撮ってください。

発作にも種類があります。

そもそも発作ではない可能性もあります。

原因を追求する上では、実際の発作の様子を見せていただくのが一番確実です。

また、動画を撮ることで発作の持続時間が分かります。

発作の持続時間もかなり重要なポイントですから、動画撮影はぜひともお願いします。

顔周りを触らない

意識がない発作中に顔周りを触ると噛まれることがあります。

普段性格が良い子も無意識のうちにガブッと噛んでしまいますから、ご自身を守るために顔周りはなるべく触らないようにしてください。

5分以上続くなら病院へ

通常は2〜3分以内に落ち着くことが多いですが、5分以上続きそうであれば病院に連れていきましょう。

発作が長くなると脳損傷のリスクが高まります。

病院に行って抗てんかん薬の注射をすれば、発作を抑えられる可能性が高いです。

駆け込む準備をしつつ、病院に電話をして「今から行きます」と伝えてください。準備して待っていてくれるはずです。

短期間に何回も起きるなら病院へ

発作自体がすぐに治まっても、その日のうちにもう一度発作が起きてしまったり、あるいは数日のうちに再発してしまうようなら、それは群発発作(短期間に何度も発作を繰り返す状態)の可能性があります。

危険な状態に陥りやすいので、病院へ連れていきましょう。

初めてのてんかん発作なら動物病院を受診しよう

初めて発作が起きたときは、5分以内に落ち着いた場合でも病院に連れていきましょう。 

先程言ったように、脳以外の原因で発作が起きた可能性もありますし、一通り検査をしてもらうのがよいでしょう。

特発性てんかんの治療

なぜ治療が必要なの?

「特発性てんかんは脳に何も異常がないんだよね?どうして治療しなくてはいけないの?」

という疑問に答えていきます。

特発性てんかんは定期的に発作を繰り返す疾患です。

発作というのは、先述したように脳の神経細胞の異常発火によるものです。

2〜3分の発作が半年に1回起こる程度なら問題ありませんが、発作時間が長く続くと電気信号が流れ続けてしまい、脳がやけどを負ったような状態になります。

脳損傷の程度によっては、その後意識の戻りが悪かったり、朦朧とした状態が続いたりと、障害が残ることがあります。

最悪の場合、昏睡状態から抜け出せず命を落とす可能性すらあります。

よって、特発性てんかんであっても、発作頻度が高いのであれば治療によってコントロールしていかなければなりません。

特発性てんかんの治療は、発作による脳の損傷を防ぐため

治療目標

特発性てんかんの治療目標は発作頻度を抑えることです。

発作を完全に無くすことではありません。

てんかん発作は完全に0にすることは難しく、また、完全に0に抑え込む必要もありません。

薬の量を増やせば発作を0にすることができるかもしれませんが、抗てんかん薬の投与量が増えると、その副作用が体に悪影響を及ぼします。

発作頻度や発作の持続時間がある程度落ち着いていれば、脳が不可逆的に損傷して焼け野原になることはありませんからご安心ください。

目標は発作頻度を半年に1回程度に、持続時間を5分以内に抑えること。

治療薬はどんな薬?

神経細胞の興奮は、抑制性神経と興奮性神経の2種類の他の神経細胞によって制御されていると言われています。

抑制性神経はその支配下の神経細胞の発火を抑える神経、逆に興奮性神経は支配下の神経細胞の発火をイケイケにする神経です。

てんかん発作を抑える抗てんかん薬には、いろんな種類がありますが、

  • 抑制性神経を元気づける薬(or抑制性神経の機能をサポートする薬)

  • 興奮性神経を落ち着かせる薬(or興奮性神経の機能を制限する薬)

の大きく2種類に分かれます。

まずは1種類の抗てんかん薬から始めてみて、発作頻度や副作用をモニターしながら種類や量の調節をしていくことになります。

代表的な抗てんかん薬

難治性てんかんの場合

多くの場合、抗てんかん薬の内服で発作頻度をコントロールすることが可能ですが、中には「難治性てんかん」といって薬の効きが極端に悪い子がいます。

薬を難種類も使っているにも関わらず、てんかん発作が一日に何回も起きたりしてかなり危険です。

難治性てんかんの場合は大学病院などの専門施設へ紹介した上で、

  • 食餌療法の併用

  • てんかん外科

などの治療を検討します。

以下のような特発性てんかん用の療法食が開発されています。

てんかん外科は近年注目されている難治性てんかんの治療法。

手術ができる病院は少ないですが、成績はなかなか良好で、何をやっても効果が無い超難治性てんかんの子には有力な選択肢となっています。

てんかん治療が難航した場合、大学病院や高度医療センターなどの2次診療施設を受診するのも一つの選択肢です。

近くで紹介してもらえる病院がないか、かかりつけ医に相談してみるとよいかと。

まとめ:発作が起きても慌てないよう知識を身に着けよう

発作はいつどこで起きるか分かりません。

ただし、大体の場合は数分で終わり、けろっと元通りになります。

慌てずに、できることを淡々とやりましょう。

まだ、発作を見たことがない飼い主さんも、いざというときには、この記事の内容を思い出して対応していただけるとよいかと思います。

あんじゅのnoteでは、臨床獣医師として日々動物たちの診療にあたっている筆者が、

  • エビデンスに基づいた正しい知識

  • 適切な予防医療や病気の早期発見のための知識

  • 疾患を抱える犬猫との向き合い方

を飼い主様にお届けしています。

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