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犬猫のお薬辞典Vol.7〜痛み止め・消炎剤・免疫抑制剤編〜

獣医さんにもらったお薬、どんな作用があって、どんな副作用があるのか、詳しく知りたいなと思ったことはないですか?

インターネットで調べると、添付文書のような堅苦しい説明書きしかヒットしないし、効能書きを見てもナンノコッチャ・・・?って感じで結局よく分からない。

そんな飼い主さんのために、「獣医さんからもらった薬が分かる本」を作りました。

Vol.7は「痛み止め・消炎剤・免疫抑制剤」です。

他のお薬辞典は以下のマガジンにあります。

このnoteを作った理由は、飼い主さんのアドヒアランスを高めてもらうためです。

先日、以下のようなツイートをしました。

アドヒアランスとは、簡単に言うと「飼い主の治療に対する理解と積極性」です。

獣医師にすべてお任せするのではなく、飼い主さん自身がペットの病気に対して深く理解し、治療に積極的に関わることを、「アドヒアランスが高い」と表現します。

愛犬や愛猫の治療は、基本的にアドヒアランスが高い飼い主さんほどうまくいきます。

だからこそ、私のnoteでは、「飼い主さんが病気や治療を理解するための材料を提供すること」を目標にしています。

アドヒアランスを高める上で非常に重要な課題の1つが、もらった薬を理解すること

正直、一般的な一次病院では、獣医師がインフォームドコンセントの過程で薬の解説を行う時間までは確保できないことが多く、できたとしても浅く概要を説明する程度で終わってしまうことがほとんどです。

このnoteを辞書代わりに持っておいていただくことで、いざ動物病院でお薬を処方されたときに、

  • どんな目的で処方されたお薬なのか

  • どんな仕組みで効果を発揮するのか

  • 今、愛犬愛猫の体の中では何が起きていて、それを薬でどう改善しようとしているのか

  • 服用中、どんなことに気をつければよいのか

など、知りたいこと(+α)が分かるようになります。


このnoteの特徴

薬の効能と、その薬が効果を発揮する仕組みを、飼い主さんにも分かるように噛み砕いて解説しています。

できる限り詳しく、かつ一般の方でも理解が追いつく程度に内容を厳選し、複雑な部分には図解も加えてあります。

副作用や注意事項の書き方も工夫しました。

どの薬にも副作用があるわけですが、「これは特に注意しなければいけないな」という副作用と、「こんな副作用、実際は見たことないなあ」という稀な副作用があります。

このnoteでは、添付文書の丸写しはしておりません。
臨床現場で働く獣医師がよく遭遇する副作用をピックアップし、実際に何に気をつければいいのか、よく分かるようにしています。
※稀な副作用が起こる可能性は0ではないので、「このnoteで触れていない副作用は起きない」という意味ではありません。その点は勘違いしないようにしてください。

Vol.7は「痛み止め・消炎剤・免疫抑制剤」です。

骨折・捻挫・膝蓋骨脱臼などの整形疾患や、免疫介在性溶血性貧血・炎症性腸疾患・免疫介在性多発性関節炎などの免疫疾患で用いるお薬を中心に解説していきます。

お薬の仕組みを理解すると、その病気の病態もよく見えるようになります。

※追記してほしい薬のリクエストがあれば、TwitterのDMやnoteのコメントで教えてください。(購入者は追記分も読むことができます。)
※このnoteは「犬猫のお薬辞典シリーズ」の第7弾です。
※獣医学生さんや動物看護師さんのお勉強にも役立つかと思います。
※返金保証も付けております。内容に満足できなかった方には、全額返金致しますのでご安心ください(note運営事務局の審査が入る点はご了承ください)。

メロキシカム(製品名:メタカム)

メロキシカムは、痛み止めのお薬です。

痛み止めは硬い言葉で「抗炎症薬」に分類されるお薬なのですが、抗炎症薬には、ステロイド系抗炎症薬と非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)の2種類が存在し、メロキシカムは後者です。

 NSAIDsは「エヌセイズ」と読みます。

後述するピロキシカム、フィロコキシブ、マバコキシルもNSAIDsの仲間です。

よく頭痛や生理痛、風邪を引いたときの解熱剤として、ロキソニンやアスピリンが処方されますよね?
あれらもNSAIDsの仲間です。

仕組み

炎症を止める仕組みを学ぶ前に、まずは炎症が起きる仕組みを知りましょう。

体に異物が入ると、炎症細胞が異物を認識して、様々な炎症性物質を作り、発熱、疼痛、腫れなどを引き起こし、異物を撃退していきます。
これが炎症反応です。

具体的には、炎症細胞が「炎症性サイトカイン」という物質をばらまき、炎症反応をコントロールしています。

炎症性サイトカインには、それぞれ役割があります。
代表的なものを列挙してみましょう。

主なサイトカインや炎症性物質の役割
ヒスタミン:血管拡張、血管透過性亢進
ブラジキニン:疼痛、血管拡張、血管透過性亢進
TNFα:発熱、細胞死誘導
PGE2:血管拡張、痛覚過敏、発熱、血小板凝集抑制
PGI2:血管拡張、血小板凝集抑制
IL-1:白血球遊走、発熱、細胞分裂促進
IL-8:白血球遊走

上記のように、とても沢山の種類のサイトカインが炎症反応に関わっています。

例えば、ブラジキニンというサイトカインは、痛みや血管透過性亢進を起こす作用を持ちます。怪我をした部分が赤くなったり、痛みを伴うのはブラジキニンのせい。

IL-1というサイトカインは、発熱や白血球(炎症を起こす仲間)をおびき寄せる効果(白血球遊走効果)を持ちます。
炎症部位が熱く感じるのはIL-1のせいなのです。


さて、メロキシカムを始めとするNSAIDsは、これらのサイトカインの分泌を抑えます。

サイトカインが出来上がる過程を見てみましょう。

多くのサイトカインの原材料となるのが、細胞膜のリン脂質です。

細胞膜は以下のような構造になっており、リン脂質が2層に重なってできています。

ホスホリパーゼA2という酵素が、細胞膜のリン脂質を狩りだして加工し、各種サイトカインの元となる、アラキドン酸やエイコサトリエン酸などを作ります(下図)。

このうちアラキドン酸は、ロイコトリエン類(LT〇〇)やプロスタグランジン類(PG〇〇)の元となる重要な物質です。

そして、アラキドン酸をこれらのサイトカインに作り変える酵素をシクロオキシゲナーゼ(COX)といいます。

メロキシカムを始めとするNSAIDsは、このシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害する薬です。

シクロオキシゲナーゼが機能しなくなってしまうと、多くのサイトカインが作られず、炎症反応が進行しません。

これが、メロキシカムが炎症反応を抑える仕組みです。

副作用・注意事項

NSAIDsは、胃腸障害と腎障害の副作用が出やすい薬です。

短期的には、胃粘膜障害により嘔吐や食欲不振などの症状が出ることがあります。

実はシクロオキシゲナーゼ(COX)によって生み出されるPGI2 やPGE2は、胃粘膜を保護する役割も担っているのです。
NSAIDsによってこれらのプロスタグランジン類の産生量が低下すると、胃の粘膜を守れなくなり、胃が荒れます。
具体的には、胃潰瘍や十二指腸潰瘍が起きて、嘔吐や食欲不振の原因になるのです。

COXにはCOX1とCOX2の2種類があります。
COX1は基本的な細胞の機能を維持するために必要なもので、様々な細胞で常に存在するものです。胃粘膜の細胞でプロスタグランジンを作ってくれるのもCOX1です。
そして、炎症のときに臨時出動するのがCOX2です。

NSAIDsはどちらのCOXも阻害しますが、メロキシカムはどちらかというとCOX2を狙い撃ちして阻害します。胃の粘膜で仕事しているCOX1をあまり邪魔しません。

そのため、他のNSAIDsと比べると、胃粘膜障害の副作用は少ないと言われています。

・・・とはいえ、これは理論上の話。
実際の臨床現場では、嘔吐の副作用が出る子は、それなりにいる印象です。
長期的に使用する場合は注意が必要です。

また、同じく抗炎症薬として代表的なのがステロイド系抗炎症薬です。
ステロイドも胃腸障害を来すことが知られており、NSAIDsとの併用は禁忌です。

併用すると、最悪の場合胃に穴があき、腹膜炎になることも。
くれぐれも勝手に両方を使用したりしないように。
獣医師の処方箋を正しく守ってください。

何回も繰り返し使ったり、もともと慢性腎臓病に足を突っ込んでいる犬猫の場合、メロキシカムによって腎障害を起こすことがあります。

短期間、容量に注意して投与すれば、腎臓への影響は最小限に抑えることができますので過度に心配することはありませんが、高齢動物にメロキシカムを使用する際は、少し注意が必要です。

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