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メインヒロインが重すぎる Vol.01

ヒロイン:久保 史緒里さん





受験生になって1ヶ月と少し
勉強への危機感も徐々に高まってきた。

授業間の10分休憩も貴重な勉強時間

単語帳を開き、英単語達を脳に叩き込む


飛鳥:‪✕‬‪✕‬〜、次の授業なに?


隣から話しかけてきたのは幼馴染の飛鳥

同じように片手に単語帳の受験生スタイル

周りを見ると、クラスメイト達は薄めの教科書片手にぞろぞろと教室から出ていっている。


✕‪ ✕‬‬:あっ、音楽だわ次

飛鳥:うげ。音楽ー?

✕‪ ✕‬‬:確か、水曜4限だったろ?

飛鳥:はぁ。受験生に音楽させんなよほんと

‪✕‬ ‪✕‬:飛鳥、口悪いよ。

‪✕‬ ‪✕‬:まぁでも変なカリキュラムではあるよな

飛鳥:てことは、次音楽室か。

‪✕‬ ‪✕‬:だな。

飛鳥:仕方ないから、一緒に行ってあげる


意地でも『一緒に行こ』なんて言わない飛鳥はいつも通り上から目線

相変わらずの通常運転だ。


‪✕‬ ‪✕‬:じゃあ行こっか。

飛鳥:はーい


自分の選んだ”飛鳥と2人で音楽室へ行く”という軽はずみな行動が、未来の自分の首を絞めてしまうことになるとは……


今の僕は知る由もなかった。



───────────



音楽の授業後

4限目が終わり、これから昼休み
授業前と同じく、飛鳥と2人で廊下を歩いていた。


飛鳥:思ったよりストレス発散になったかも

‪✕‬ ‪✕‬:ね、息抜きにはちょうど良かった

飛鳥:そのために音楽の授業組み込んでるんじゃない?

‪✕‬ ‪✕‬:先生たちがそこまで思いやり持ってるとは思えないけどな

飛鳥:可哀想。先生達

‪✕‬ ‪✕‬:だって、事実じゃん

飛鳥:‪✕‬‪✕‬って、昔から大人達の事全然信用してないよね

‪✕‬ ‪✕‬:別にそんなことはないけどな。


飛鳥とは幼稚園からの付き合い
俺のことをよく理解してくれている。

お互いあっさりした性格なのもあって、ちょうどいい距離感を保ち続け、この歳まで仲良くやれている


飛鳥:嘘つけ。信用してないくせに

‪✕‬ ‪✕‬:それ言ったら飛鳥だって似たようなもんだろ

飛鳥:は?別にそんな事ないけど

‪✕‬ ‪✕‬:俺たち結構、似た者同士じゃん?

飛鳥:は?✕‬‪✕‬と一緒にされたくないんだけど

✕‬ ‪✕‬:いやいや。急に裏切るなって

飛鳥:‪私は✕‬‪✕‬みたいにひねくれてないからー

✕‬ ‪✕‬:流石の俺も飛鳥のひねくれ具合には負けるよ

飛鳥:うっさい。馬鹿

‪✕‬ ‪✕‬:痛っ。叩くなよ


飛鳥:・・・


‪✕‬ ‪✕‬:ん?どうした急に黙り込んで


飛鳥との会話に夢中になっていて、俺たちの少し先で彼女が待ち構えていることに気がつかなかった。


___嫉妬深い彼女が


『こんにちは〜‪✕‬‪✕‬君、今日は一段とご機嫌だね?』


”メインヒロイン 久保史緒里襲来”


こ、これはまずい事になった。

ただでさえ異性と話しているだけで、機嫌の悪くなる彼女

そんなメンヘラ気質の彼女に、飛鳥と2人で歩いているのを見られてしまった


飛鳥:あっ私、先教室戻ってるね〜


全てを察した飛鳥はすばしっこく逃げていく


くっそ。置いていかないでくれよ


‪✕‬ ‪✕‬:お、お疲れ、史緒里。元気……?

史緒里:うん。元気だったよ〜”さっきまでは”

‪✕‬ ‪✕‬:そ、そっか。

史緒里:‪✕‬✕‬君は聞くまでもなく元気そうだねっ!


普段より高めの声にびっくりするほどの真顔
あ、目の奥が全く笑っていない

やっべ〜、これものすごく怒ってるな……


‪✕‬ ‪✕‬:こ、こんなところに来てどうしたの?史緒里

史緒里:用がないと来ちゃいけないの?彼女なのに

‪✕‬ ‪✕‬:そ、そういう訳じゃないけどさ、史緒里が3年の教室に来るの珍しいから……


実際、彼女が3年のフロアに遊びに来ることはほとんどない。

それもあって気を抜いてしまっていた


史緒里:ふと‪✕‬‪✕‬君の顔みたくなって遊びに来たの。

‪✕‬ ‪✕‬:な、なるほど

史緒里:そしたら他の女に鼻の下伸ばしてる‪✕‬‪✕‬君を見つけちゃいましたけどね。

‪✕‬ ‪✕‬:だ、だから飛鳥はそんなんじゃないって


とりあえず反論はしてみるものの


史緒里:言ったよね?私は男女の友情は成立しない派だって

‪✕‬ ‪✕‬:は、はい。


彼女の圧に押されてたじたじ。勝ち目は無さそうだ

”男女の友情は成立しない”なんて持論を2時間ほど聞かされた思い出したくもない記憶が蘇ってくる


史緒里:せっかく会いに来たのに悲しいな〜?

‪✕‬ ‪✕‬:あーえーっと。それはほんとに…ごめん


廊下を通っていく同級生達は
哀れみの目でこちらを見ている

だ、誰か助けてくれ…

4限終わりの昼休みに見つかったというのが運の尽き

授業の間のような10分というタイムリミットは存在せず、たっぷりと時間がある


史緒里:やっぱり‪✕‬‪✕‬‪君は、私のことあんまり好きじゃないんだね……


少し落ち着いてきたのか、怒りのスイッチがオフになり、急にしょんぼりモードになった史緒里


‪✕‬ ‪✕‬:そ、そんなことないって

史緒里:嘘だ、最近好きって言ってくれないし


自信なさげに俯いている。
とりあえず誤解をとかないと。


✕‬ ‪✕‬:ちゃんと好きだよ。だから付き合ってんだし

史緒里:嘘。他の子と話してる時の‪✕‬‪✕‬君いつもすっごい楽しそうだもん

✕‬ ‪✕‬:そんな事ないって。俺が好きなのは史緒里だけだよ?

史緒里:じゃ、じゃあ日頃から好きって言って欲しいな……。

✕‬ ‪✕‬:そ、それはさ、わざわざ口に出さなくても伝わってるかなーって

史緒里:ちゃんと言葉にして

‪✕‬ ‪✕‬:わ、わかったよ。これからは伝えるな


数秒経っても納得してなさそうな表情の史緒里


‪✕‬ ‪✕‬:えーっと、もしかして今……?

史緒里:うん。今ここで。


高校といえば青春真っ只中。廊下のど真ん中で男女が話していたら、もちろん目立つわけで

教室の窓から覗く男友達や、廊下を通過していく同級生の視線が痛い。

正直、こんな場所で”好き”なんて言えるはずもない

……だけど、そんなこと伝えたら

”私への気持ちはその程度なんだね” なんて思われて、もっとご機嫌ななめになってしまうだろう

ここは腹を括るしかない。


‪✕‬ ‪✕‬:ねぇ、史緒里。好きだよ

史緒里:えへへ〜ほんと?嬉しい。


先程までが嘘のように、笑顔を取り戻した史緒里。


史緒里:私も‪✕‬‪✕‬君のこと大好きだよ?


そう言って胸の中に飛び込んできた。

30秒くらい経った後、ようやく離れた史緒里
どうやら満足したらしい。


史緒里:じゃあ、また放課後ね

‪✕‬ ‪✕‬:うん、また後で


華奢な身体の感触と爽やかなシャンプーの香りを残して、彼女はその場を去っていった。



・・・



廊下でカップルが好き好き言い合って、その後ハグするなんて格好のネタだ

めんどくさい男友達数名がこちらを見てニヤニヤしている。

これはしばらく馬鹿にされ続けるな……

まぁ彼女の機嫌を損ねてしまうことに比べれば、その方が全然ましだ


飛鳥:ごめんね‪✕‬‪✕。私のせいで


史緒里が去っていったのを見て、教室から駆け寄ってきた飛鳥


‬‪✕‬ ‪✕‬:何言ってんだよ。飛鳥のせいじゃないって

飛鳥:次から周りの様子気を使っといてあげる

‪✕‬ ‪✕‬:まじ?頼んだ

飛鳥:全然反省してないじゃん。

‪✕‬ ‪✕‬:だって、俺らにやましい事ないでしょ。史緒里もいつか分かってくれるよ

飛鳥:さぁ〜さっきの様子だと中々大変そうじゃない?

‪✕‬‪ ✕:ま、まぁ確かに……。


史緒里も大切だが、彼女への気持ちだけで10数年仲良くしてきた飛鳥を捨てる訳にもいかない。

これからどう説得しようかななんて考えていたら、あっという間に5.6限は終わってしまった。



──────────

放課後


『お、おい。‪✕‬‪✕‬彼女来てんぞ。』


ニヤニヤを隠しきれてない男友達の視線の先には、こっそりと教室を覗いている史緒里

目が合うとこちらに駆け寄ってきた

史緒里:‪✕‬‪✕‬くーん。一緒帰ろ〜

‪✕‬ ‪✕‬:お、おう。帰ろうか

様子を見るに、普段通りだ。

放課後も、怒りスイッチかしょんぼりスイッチがONだったらどうしようと思っていたが、そんな不安は良い方に裏切られた。

これなら穏やかに帰れそう───

史緒里:帰り道でも沢山好きって伝えて貰うから

今度は甘えん坊スイッチがON

長い長い帰り道が幕を開けた。

〜つづく〜

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