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ばちゅゲーム

ヒロイン:的野美青さん



「ここは係り結びの法則で文末は連体形に───」

はぁ。つまんねえの……

6時間目の古典の授業
これを乗り越えればようやく休日

それだけをモチベーションにおじいちゃん先生の授業を聞いている

ふと周りに目をやると先生の催眠術に敗北し、うつ伏せになっている生徒ばかり

これなら俺も寝たってバレないだろ
そう思って、机に伏せようとすると───

”痛っ”

後ろから何かが飛んできた。

肩で跳ねてテーブルに着地したのは、くしゃくしゃに丸められた紙

その紙を広げてみると

”○○ 寝ちゃだめだよ”

可愛らしい文字でメッセージが書かれている
犯人はあいつしかいない

振り向いてみると、犯人は予想通り
彼女の美青がこちらを見て笑っていた


僕らの席は窓際の最後列。おじいちゃん先生の視力では何をしてもバレないだろう。

すぐさま返事を書くと美青に手渡した

”暇なんだし、寝させてくれ”

”暇だからってダメだよ”

授業そっちのけで、2人だけの手紙交換が始まる

”だって、やることないだろ”

”確かにやることは無いけどさ”

”美青も寝ちゃおうぜ”

”なんかもったいない”

”なんでだよ”

”今すごい楽しいもん”

”まぁ、確かに”

言われてみれば、授業中に秘密の手紙をやり取りするなんて恋愛ドラマのワンシーンのよう

美青が言うように寝るのが勿体ない気がしてきた

”じゃあさ、絵しりとりでもやる?”

”いいよ”

”負けた方が罰ゲームね”

”嫌だよ”

”えーなんで!”

”美青 絵上手いから勝てるわけないだろ”

手紙を渡して、すぐに肩を叩かれた。
振り返ると口パクで

「お・ね・が・い♡」


両肘を机についたまま、わざとらしく首を傾げる

普段あまり見せない美青の行動に見事釣られてしまった俺

「いいよ」

と口パクで返事をして、勝ち目ゼロの戦いが始まった。

犬や猫、小学生レベルの簡単な絵しか描けない俺

それに比べて、美青の絵は細かい描写や濃淡の付け方など全てのレベルが高い

あ、これは勝ち目は無いな……。

開始早々に負けを確信する

それでも、美青の絵を見るのが楽しくて、嫌々始めた絵しりとりも次第に白熱していった。

──────────

”キンコンカーン”

絵しりとりに熱中したお陰で、あっという間に授業は終了

「はい。じゃあ、気をつけて帰るようにねぇ」

「起立・気をつけ、礼」

『「ありがとうございました」』

クラス担任でもある古典の先生。連絡事項は無かったらしく、授業後すぐに帰りの会も終わった。

「早く部活行くぞ」

「スタバの新作飲み行きたいよね〜」

平日から開放されたクラスメイト達は教室からどんどん出ていって、気づけば教室には俺と美青の2人きり

○○:絵しりとり楽しかったな

美青:ね。楽しかった

○○:美青、絵上手すぎない?

美青:やったっ。褒められちゃった

○○:前から上手いのは知ってたけどさ

○○:簡単な絵でも格の違い見せつけられるとは…

美青:そんな事ないよ?

美青:○○の描いた猫だってさ…うん…悪くは無いと思う…笑

○○:バカにしてるだろ。

美青:バレちゃった?

しりとりそのものでは決着はつかなかったものの、並んだ絵の出来を見れば勝敗は一目瞭然

上手な絵と下手な絵が交互に並んでいる

もはや”引き分けだよな?”なんて言い出す気にもならない。

○○:これは俺の負けだな…

美青:素直に負け認めるんだ

完全勝利を収めた美青は誇らしげ

○○:まあ、この絵心の差だとさすがにね

美青:確かに。私の勝ちかも

○○:で、罰ゲームって?

美青:う〜ん。

美青:せっかくなら普段○○がしないようなことがいいな

○○:げっ、変なことさせんなよ?

美青:んーー。あ、いいこと思いついた。

○○:お、なになに?

美青は普段下ろしている前髪を横に流すと、おでこを出して


美青:ここにキスして欲しい。

○○:は?

美青:だから、おでこ〜!

○○:ここですんの?

美青:い、いいじゃん誰も居ないんだし

○○:まじで言ってる?

美青:えーっと、嫌なら大丈夫だけど……

我に返ったのか急にモジモジし始めた。

頻繁に甘えてくるタイプではない美青。そんな彼女からのおねだりを断る訳にはいかない。

○○:嫌じゃないよ全然。ただ、ちょっと待ってな。心の準備だけさせて

美青:やばい。急に恥ずかしくなってきた

○○:美青から言ったんだろ

美青:やっぱりやめとかない?

○○:嫌なの?

美青:もちろんその…さ……しては欲しいけど

○○:じゃあほら、目つぶって。

美青:う、うん。わかった……

1歩近づくとギュッと目をつぶる君
シャンプーのやわらかい香りが鼻腔に広がる

すぐ目の前にある彼女の整った顔に少し躊躇しながらも、要求通りおでこに唇を触れさる

唇を離して前髪を整えてあげると、美青はゆっくりと目を開けた。

もちろん、その頬は真っ赤に染まっている

美青:なんか、悪いことしてるみたいでドキドキするね

○○:そ、そうだな。

美青:・・・

○○:・・・

○○:そ、そろそろ俺らも帰ろっか

美青:ねぇ、待って。

○○:どうした?

美青:やっぱりさここにも欲しい

少し俯いたままの美青は、自分の唇を指さしながら更なる要求をしてきた。


○○:は?

美青:だって、○○からちゅーしてくれること無いでしょ?

美青:だから……その…さ。

美青:もっと欲しくなっちゃって……

普段の情けない俺なら誤魔化して、美青を悲しませていただろう。

ただ、ドラマのような非日常と罰ゲームという口実はいつもの自分を変えるには十分な理由なのだろう。

○○:わかったよ

少しの身長差を埋めるために背伸びをした美青

夕日の差し込むドラマセットのような教室で、2人の吐息が重なった。

──────────

美青:…ま、またさ。絵しりとりしようね

○○:次は罰ゲーム無しな。

美青:えーなんでよ。嫌だったの?

○○:そんなことは無いけど…さ。

美青:次も私が勝つからさ?またしよーよ

これから先、思い出す度に頬が染まる そんな甘酸っぱい思い出が2人の記憶にしっかりと刻まれた。

〜fin〜

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