「デュエットで既成事実大作戦」
『「ほーら あなたにとって大事な人ほど すぐそばにいるの!」』
「いえーーい!!!」「ふぅ〜!」
カラオケの大部屋に響きわたる歓声とマラカスの音
体育祭の打ち上げの二次会は、お酒を飲めない高校生とは思えないほどの盛り上がりをみせている
な、馴染めない……
勇気を出して二次会まで残ったは良いものの、このノリに着いていける気がしない
既に心は折れかけていた。
歌っている順番を見るに、時計回りで曲を入れていく流れになっているらしい
刻一刻と僕の番が近づいてきている
やべぇ。
こういう時、なんの曲入れたらいいんだろう…
僕の右隣に座っていた野球部の男子は、「怪獣の花唄」で即決すると
「はい、じゃあ次○○な〜」
と僕に機械を手渡し、再び盛り上げ役側に回った
ここまで来ると、”歌えないよ”なんて簡単に言えるわけも無い。
そんなことしたら、ノリが悪い認定をされてしまう。
かといって、歌える気もしない
えーっと。どうしよう…
頭を悩ませていると、
『ねぇ、○○くんはどんな曲が好きなの?』
左隣に座っていた久保さんに話しかけられた。
久保さんはこちらに少し近づくと、僕の操作しているタッチパネルを覗き込む
綺麗な黒髪が揺れて、
柔軟剤の優しい香りがした
○○:みんな盛り上がってるから、何歌おうかなって…思って
史緒里:なんでもいいじゃん!こういうのは勢いだよ!
○○:でも、盛り上がる曲の方がいいでしょ?
史緒里:気にしないで大丈夫だよ。私が盛り上げるって!!
○○:う〜ん……
久保さんという心強い味方ができたのは嬉しいが、目立たない僕がいきなり歌うのはハードルが高い
○○:やっぱ僕はいいや。
○○:…1人で歌える気がしない
そう言って持っていた機械を久保さんに手渡した。
史緒里:え〜私、○○くんの声好きだから歌って欲しいな?
○○:えっ?
史緒里:1人で歌えないってことはさ、
───私と一緒なら歌えるって事だよね。
◇ ◇ ◇
それからの事はよく覚えていない
僕たちの曲が画面に表示されると、
久保さんに立つように促された。
珍しい組み合わせにクラスメイト達は
少し動揺している様子
声が震えないように抑えて、抑えて。
時折、久保さんと目が合い更に緊張もしたけれど、無事デュエット曲を歌い終えた。
「最高!!」
「ふぅふぅ〜!」
想像以上に盛り上がった僕たちのデュエット
歓声と共に冷やかしの声も飛び交っていた。
◇ ◇ ◇
翌日の朝
いつもより早く登校すると
そこには久保さんが居た。
意図せず、2人きりになってしまう
昨日みんなに冷やかされた事もあって、何だか恥ずかしい
史緒里:○○君、おはよ!
○○:おはよう。久保さん
史緒里:昨日楽しかったね!
○○:うん、ありがとね。一緒に歌ってくれて
史緒里:いえいえだよ
○○:おかげで乗り越えられました
史緒里:なにそれ、罰ゲームじゃあるまいし笑
○○:それくらい緊張したんだよ。仕方ないでしょ?
史緒里:ちょっと顔赤くなってたもんね…笑
○○:ば、バレてた?
史緒里:バレバレだよ
一通りのやり取りが終わると少しの沈黙
口を開いたのは久保さんの方だった。
史緒里:でさ、昨日の帰り道なんだけど…美月と帰ってたんだ
史緒里:その時にね、”史緒里と○○君息ぴったりだったけど付き合ってるの?”って聞かれたんだよね
○○:えっ?
史緒里:私さ、なんて答えたと思う?
悪戯に微笑む君にキュッと胸が締め付けられて
誰も居ない2人だけの教室
昨日一緒に歌ったラブソングのイントロが流れ出したような気がした。
〜おしまい〜
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