眠れない夜は体を脱いで を読んだ

女子大生書店員の読書感想文的なものです。書店員を名乗るほど沢山本を読んでいなくて申し訳ないけど読んだ本の記録のために書きます。

今回は、彩瀬まるさんの『眠れない夜体を脱いで』について。

前回に引き続きでミーハーだな...と思われるかもしれないが、これもとっっても装丁が素敵な本。色味が適度にポップで綺麗で、まさに今晩何読もうかな...と本屋を散策している時に目に入ったら手に取ってしまう感じ。

彩瀬まるさんは、名前も素敵だなと思っていたのだけど、いつもタイトルが素晴らしい。『眠れない夜は体を脱いで』。やぁ...とっても素敵だと思う。体を脱ぐって綺麗だな、なんだろう、脱皮?進化?とこの本が入った袋を揺らしながら考えてしまった。

この本では5つのお話が書かれていて、それぞれの主人公は、_"私"とうまくつきあえない _人達。彼らは、「手が好きなので、いま起きている人の手の画像をください!」というネット掲示板のあるスレッドに出会う。

1つ目の「小鳥の爪先」
主人公はイケメン高校生。多分相当な綺麗系イケメン。彼の、自分の容姿が全然いいところに思えなくて、でも自分には他には何も無いじゃないか...っていう、贅沢だけど哀れな感じの悩み、意外と内容は違っても共感できる人が多いのかもしれない。これだけは出来るけど、血の滲む様な努力で手に入れたもの...じゃないし、誇れないなぁ。という感じ。

2つ目の「あざが薄れるころ」
主人公がとってもかっこいい女性だった。なんというか、さっぱりしているってこういう人のことを言うのかなと。年を重ねた人だからこその、世間の普通はこれだけど、私は違った。でもそれは悪いことではないし、自分はそれでいい。自分を見つめて認め直す過程がスッとしていて素敵だった。

3つ目の「マリアを愛する」
マリアに会ってみたいな、と思った。マリアはこのお話の主人公ではないのだけど、"人を見るときの表情が独特"と描かれている。少しだけネタバレをしてしまうと、マリアはもう亡くなっていて、幽霊として出てくる。ショートカットの似合うすらっとした美女で、ロシア語学科で、短命。なんだか、完璧だと思う。彼女の秘密だった部分もとても素敵なのだけど、なによりも、その独特の表情で見つめられてみたいなと思ってしまった。

4つ目の「鮮やかな熱病」
うーん、すごい。このお話の主人公のおじさまは、おそらく現代の典型的な"頭の硬い押し付けがましいおじさん"が7割ほど含まれている。6.5割かも。なんだか、そういう人の視点からのお話って実は珍しくて、新鮮な気持ちで読むことができた。若者が嫌う、昔の"普通"って、こういうものか...それを押し付けてくる"大人"からみたら今の"自由"はこうなのか...と、ちょっと考えてしまった。

5つ目の「真夜中のストーリー」
この小説の中の小説が気になる。多分、すごく爽やかで、夏の終わりの風が吹き抜けていく感じの小説なんだと思う。これもまた少しネタバレになってしまうけど、ネットで異性を演じるって、否定的に見られやすいけど、確かに、違う自分になって、解放される。自分の理想を作る楽しさを味わえるという意味で楽しそうだと思ってしまった。

4つのお話の主人公は、各々、件のスレッドを見つけて、手を見たりコメントしたりしているのだけど、それぞれの手の写真にはちゃんとスレ主からのすごく明るくて素敵で肯定的な感想が返されている。まぁ、5つ目にその人が出てくることはそんなに意外ではなかったのだけど、でも驚いてしまった。5つ目まで読んで、全部の話を思い返して、「あ、なるほど。彩瀬まるの書く、"自分でいることが窮屈"っていうのはこういうことか。」と腑に落ちてしまった。全てを通して描かれていることは、結構普遍的で、"自分でいることを窮屈に感じている人"は、実は考えたことがあるようなことだと思う。だからこそ、スっと入ってきて、今まで自分について悩んだり、嫌悪感を抱いたりした時のことを思い出して、そして自分をちょっと解放して認められるような本だった。

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