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人との別れを考える。(死化粧師/三原ミツカズ)

#マンガ感想文  というタグが面白そうだったので少し参加を。

色々好きな漫画はあるけれど、人に勧めたいなといつも思うのはこの作品。

死化粧師 / 三原ミツカズ

出会い

初めてこの作品を知ったのは学生時代にたまたま夜中にテレビをつけていた時にやっていたドラマだった。和田正人さんが主演されていたやつ。

第1話から見れたわけではなくて2話か3話かそんなくらいだったんだけど、まずエンバーマーという職業があることをこの時初めて知った。

本当に何も知らなくて、このドラマのために作られた言葉なの??とさえ思ったけどそのあとすぐ調べてそうではないことを知った。

ドラマのストーリーが面白かったり、エンバーマーへについてもっとわかるかもとおもって、当時本屋のバイトをしていた友人に取り寄せしてほしい!!とすぐ頼んで取り寄せしてもらった。

物語

タイトルにもあるように、主人公のエンバーマー、間宮心十郎がエンバーミングを施していくことが主になっている。

そう書くとなんだそんなこと、みたいな感じになるけど、ストーリーの本質はそうじゃなくて、彼はなぜエンバーミングをしているのか、それを通し何に悩み、苦しんでいるのか。

また彼の近くにいる人たちとの関係についても思い悩む様。

一見チャラチャラしてて女好きでだらしないように描かれている心十郎さんが本当は一体どういう人なのかがわかっていく過程がとても繊細で好きだ。器用そうに見えるのにその実とても不器用な姿もいじらしい。

出てくるキャラクターそれぞれに個性や魅力があって、そこだけでも十分素敵だと思うけれど、エンバーミングとは何かという学びになる側面もかなりある。どういう技術なのか、どういった経緯でエンバーミングをすることになるのか、日本でのその認知度・従事者の実態・海外との違い、災害時におい手の役割といった点も知識として得ることができる。

そしてエンバーミングを依頼する遺族の気持ちに寄り添うことの重要さも感じられる。

事故や病気など(もちろんそれ以外でも)で急に大切な人を亡くす場合、別れの心づもりができている人なんてそういないと思う。

そして事故などの場合には事故による損傷が激しければ、顔をみてもらうことすらままならないことも世の中にはあると思う。

そういうときにこのエンバーミングをすることで、生前の姿により近づけてもらうことができ、また殺菌された清潔な状態になるので別れのキスをすることも可能になる。

それがすべての人にとって良いことかどうかは人それぞれによって違うものだから何とも言えないけれど、ただ、そういう手段もあることを知っているのと知らないのとでは意味は違うんじゃないだろうか。

私が感じたこと

この作品を通して感じたことは、エンバーミングとは生きる人のためにもあるのだということ。

残された側がきちんと個人との別れをできることは、そこに残す後悔や悲しさを減らすことができるのではないだろうか。

この作品に出合って十数年後、親族にに不幸があった。

ずっと病気を患っていたらしいことは亡くなった後に知って、それ自体も相当ショックだったけれど、別れの日に久しぶりにみたその人の顔は、私の知らない人のようだったのが一番ショックだった。

もともとハツラツとしていて明るく楽しい人だった面影はそこにはなくて、闘病で痩せてしまった顔、衰えてしまった体は布団をかけてあってもこんなに小さい人だっただろうかと思うほどだった。

直系の親族ではない私がそこに何かをいう資格はないので、身近な人に話したことはないけれど、でも死化粧師のストーリーに出てくる人たちのように、エンバーミングを依頼したくなる気持ちはそのときとてもよく分かった。

あれから数年たったけれど、やっぱりあの時の別れはいまだに辛く、もし生前に近い姿でお別れをすることができていたら、こんなに悲しい記憶にはなっていなかったのかもしれないと思うこともある。

生きていれば、誰かとの別れに遭遇することはある。

それが全然知らない人であれば、逆にとても身近で大切な人のこともある。

特に後者に近ければ近いほど、別れの時の状況というのは、その後の自分が生きていく上での心境にも影響を及ぼすことがある。後悔を残してしまえばその影響はより大きくなると思う。

その影響を少でも和らげてくれる、そんな尊い職業なんだと思った。

実際に別れを経験してさらにこの作品の大切さというか、知ったきっかけは偶然だったけれど、出会えて本当に良かったと思うようになった。

作品の中の描写に少しグロテスクに感じるものがあるけど、そういった表現が大丈夫だと思う方は、ぜひ一度、試し読みでもよいので触れてみてほしいと思う作品。
ここなら結構な量が無料で読めるみたい…。

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