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お麩みたいな色だったから、フーちゃんという名前になった。

同居していたハムスターが死んだ。

フーちゃんが冷たい という声で起きてその手の中を見てみると、息も絶え絶えのハムスターが仰向けで収まっていた。

交代でフーちゃんを手の中であたためる。

「もう2年くらいかね?」
「それくらいになるね」

ハムスターの平均寿命は2〜3年と聞いている。

ちひろくんの顔を見ると悲しそうで、
とにかくフーちゃんをあたためてあげなくてはと思った。

あんなに懐かなかったのに
いま、両手の中で小さく収まって震えているのを見ると、不思議なきもちだ。

でもこの衰弱している様子を見ると、
もうもたないと思った。

1時間ほど経ったあと、
ちひろくんが持ってきたペット用暖房器具の上にフーちゃんをそっと置いたと同時くらいに
フーちゃんがこときれた。

おつかれさまでした。
よく生きたね。

単純に、そうだよなぁと思う。

遺体は冷やした方が良いらしい。

フーちゃんをケージに戻した。
上から柔らかいハンカチをかけ、
フーちゃん用にずっとつけていた暖房を消した。

部屋はシンと静かに冷えていった。
ちひろくんはついでに保冷剤も添えていた。    

ハムスターはなくなるとき目がすこし空いたままになる。

...

昔ちひろくんの家で飼っていた犬が亡くなったときは
家の畑の隅に埋める形で弔ったそうだ。

「今日は家に置いておきたい?」
「いや、大丈夫だよ」
「そうか」
....

「ペット火葬と畑に連れて行くの、どっちがいい?」
「どっちでもいいんだけど、自分の手で火葬したいなと思っていたんだ」

ちひろくんの愛し方って独特だなと思ったのと
やさしい人なんだなと思った。

「...素人の火力だと、最悪焦げるだけのパターンなことない?」

「それもそうか」
ちひろくんがすこし笑った。

「我々のエゴだけど、看取れて良かったね。」
「うん、エゴだけど、看取れてよかった。」

....
「なんかさ、俺フーちゃんをあたためながら、あたためていいのか迷ったんだ。苦しいのを長引かせてしまっているかもしれなくて」

ちひろくんのことをすてきだなと思うのは
こういうところだと思う。

「わたしがハムスターだったら、苦しいの上に寒い...って思うより、苦しい..でもちょっとあたたかい...って思いながら死にたいよ」

「そうか、あったかいって死にたいよな」
ちひろくんがまたすこし笑った。

フーちゃんは、
明日ちひろくんの家の畑に連れて行くことになった。

「次のペットは、 まだいいかなー」

ちひろくんは、 すこし笑ってそう言った。

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