M君逮捕の日こと

  あのころ「M君」の事件がありました。「東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件」。1988年から1989年にかけて、東京都北西部・埼玉県南西部で相次いで発生した、幼女を対象とした一連の連続誘拐殺人事件です。彼が逮捕された日、私は筑波の「高エネルギー研究所」の職員宿舎にお泊りさせていただいていました。何故そんなところに泊まっていたのか?そんなエピソードをお話します。

 ある日、私の大学の指導教員の先生が「このマンガ知ってますか?」と岡野玲子先生のサインの入った「ファンシイ・ダンス 7巻」を持ってきました。私は常日頃マンガの話ばかりしていたので、何か思うところがあったのでしょう。これは、お坊さんを主人公にしたお話で、本木雅弘さん主演の映画化もされたオシャレなマンガです。その中で筑波の「高エネルギー研究所」が紹介されていました。先生は、この研究所でもご指導なさっておられたので、その縁でマンガを手に入れられたようなのですが、「ファンシイ・ダンス」が大好きだった私は、「もう、大好きです!」と興奮気味に答え、サイン入りのマンガをいただいて、きゃっきゃ、うふふ状態。さらにさらに、ずうずうしくも、マンガのまねっこがしたかった私は、「白衣の王子様」を求めて、研究所の見学をお願いしたのでした。しかも、コミックマーケット36に参加する日程に合わせて。

電車を乗り継ぎ、妹と共に筑波の研究所についた私。マンガのように、研究所内を研究員の方に案内して頂きました。とにかく設備が巨大です。コンピューターの基盤の上下がわかるよう、側面に「山高帽みたいなマーク」が描かれていたのですが、「逆さにすると、あっかんべーになって、イヤな気持ちになるから分かるでしょ」という説明に感動。今はそのようなマーキングも多いのでしょうが、その時の私には、「もう、頭のいい人は考えることが違うなあ」という、ひたすらそんな気持ちで見て回っていました。

「味の民芸」でとても美味しいうどん(赤ちゃんのほっぺ!by美味しんぼ)を食べ、夜は宿泊代を浮かせるため、ご厚意で、研究員さんの職員宿舎に泊めてもらうことになっておりました(感謝!)。そこで姉さん、事件です。ついていたテレビに「M君逮捕」のテロップが!よそさまの家だというのに、妹と私は大きな声で叫んでしまいました。「わー、どうしよう、明後日のコミケはどうなるの!?」・・・・。当時、それでなくても「オタク」に対するパッシングは強かったのです。出来るだけ「オタク属性」を隠しながら生きなければならなかった時代。報道陣来るだろうなあ、まさか中止にはならないよね?色々と気持ちがざわつく中、TVでは「M君」のプロフィールを流していました。「高校では、写真部に所属し・・・」ざわざわ。ざわざわ。そして恒例の卒業アルバムの写真が。妹と私は、ぞっとしました。そこに写っているのはまるで私の弟、妹の兄のようでしたから。続いて「M君」の部屋の中の様子、ビデオであふれかえった部屋の様子が映し出されていました。「お姉ちゃん・・・」「妹よ・・・」それはまるで、私の弟、妹の兄の部屋の中のようでした。他人様のうちだというのに、きゃーきゃー騒いでみっともない姉妹を、生命科学を研究されているという女性研究者はどのようなお気持ちで見ていたことか。先生に恥をかかせて申し訳なかった、と今しみじみ感じます。しかし、アドレナリンに支配された私たちは、激しく動揺しながら次の朝を迎えたのでした。

次の日は、東京に宿泊。もちろんホテルは「ホテル浦島」!ではなく築地あたりのビジネスホテルだったと思うのですが、ドキドキしながらコンビニでコピーをとり、せっせとコピー本を作っておりました。カップラーメンを買い、ホテルのお湯で作って食費を節約。カタログ見ながらサークルチェックし、翌日のコミケに備える!といいつつも、ずっとTVはつけっぱなしで「M君」報道をみておりました。

翌日、朝早くにタクシーを呼び、東京国際貿易センター(晴海)に向かう私たち。1989(平成元)年8月13日から8月14日の2日間にわたって「コミックマーケット36」は開催されました。


#ロリコン  #コミックマーケット #ファンシイダンス #高エネルギー研究所  #80年代


よろしければサポートお願い致します。いただいたサポートは次の活動に充てたいと思います。