研修医がロンドンに大学院留学して解脱するまで Ep.2 寮へ

 コーヒーを飲みながら、数年の遠距離関係のあと別れたイギリス人の元交際者を思い出した。昔だがイギリス北部にある彼の実家に行った際に、帰りの空港でコスタを一緒に飲んだ。今回は彼の実家のある国としてではなく、自分が留学する国としてのイギリスの第1日目だと思った。コロナの渦中に電話で別れたため、以降大した連絡も取っていないし、互いの状況が良く分からない。心細い状況ではあるが、一度別れた人に、しかも今度はこちらが外国人という弱い立場で、頼ってしまうほど私は馬鹿ではない。

 そんな思いに耽っていたら持ってきたSimカードの設定をする気力がなくなり、何でもいいから空港から離れたくなった。倒れる前に寮につかなければいけないという一心でタクシー乗り場を探して歩いていると、中東系の大柄な男性が「Looking for Taxi? Come over here, this way」と手招きしてくる。タクシー乗り場に案内してくれると思ったら、黒塗りのベンツに連れていかれた。
 「これ、誘拐されて中東に売られるやつなのでは…危機来るの早すぎ…」と一瞬思ったものの、断ってタクシーを探す体力がなく、IDとナンバープレートを写真に撮らせてもらって車に乗り込んだ。IDを見ると、一応登録されている合法タクシーのようだった。イランから来て、娘が二人いるのだと平和な話をしていたが、料金は現金払いのみの180£と、しっかり騙された(Uber相場は90£)。大学の寮 John Dodgson Houseの第一印象は“趣のない古さと汚さ”だったが、この寮には1週間しか滞在しない予定だったので特に気にしなかった。

 本当は、私は別の新築の寮に入居する予定だったのだが、渡航1週間前くらいに「世界情勢とかいろいろなことで建設の最終段階が遅れています、ごめんね。代わりの寮を用意しますのでそこに長くても1週間程度滞在してね」という趣旨のメールが届いたのだった。
もちろん、「1週間しか滞在しない予定“だった”」と書いたように、このあと新築の寮には全然移れないのだが、その話は後々投稿する。イギリスの実力をこの時の私は全く知らないのである。
John Dodgson Houseは寒く、汚く、埃っぽく、うるさくて無機質だった。
John Dodgson House:https://maps.app.goo.gl/NJKpWSzibzvqsE4o6

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