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1999年、夏、悪魔退治

 1999年の夏、小学五年生の私は恐怖の大王が現れたと確信した。4月に爺ちゃんが亡くなり、5月に徹君が転校した、6月はタマが老衰で亡くなり、7月には来年の春前に転校になると告げられた。死と別れが押し寄せる中、8月、悪魔を刺した。
 あれは祭りの日だった。暗くなる前に帰りなさいと口酸っぱくいう母も、この日は友達と楽しんでねと送り出してくれた。
 私は哲也君と健ちゃんの二人で屋台を回り、りんご飴を買った。やることもなかったので少し早いが手品ショーの席に着いた。

「結局こなかったね」

 そういったのは哲也君だった。7月に来る恐怖の大王は8月になっても来なかった。

「そういえない。これからだ」

 健ちゃんは7月に空から大王が来ただけであり、これから地の底にいる悪魔たちを復活させると熱っぽく語った。あの時、悪魔について詳しく説明する健ちゃんを賢いと思っていたが、みんなドラクエやFFをやってる中一人だけメガテンをやってた影響だろう。
 健ちゃんの講義は続いたがショーがはじまった。

「今話題の手品師如月です!」

 司会がそういうとシルクハットを被った長身の男が手を振って舞台の上へ現れた。今話題といったがテレビで見たことはなく、誰も知らなかった。
 如月の手品は実に普通だった。トランプの数字を当てたり、ハンカチから鳩を出したり、どれもどこかで見たようなものばかり。
 私が欠伸をしていると「君、手伝ってもらっていいかな?」
 そういって私を舞台に呼ぶとナイフを渡した。思いっきり刺してと腹を指す。ナイフかお腹に細工があるのだろうといわれた通りに力いっぱい刺した。
 すると白い服に赤色が広がり、ウッと声とともに膝をついた。そして何事もなかったかのようにナイフを腹に刺したまま立って手を振り、拍手の音が鳴った。
 コレは手品だ、そう思いたかった。だけど手には新鮮なお肉を包丁で突き刺したような血と肉の感触が残っていた。

【続く】

さぽーとすると映画館にいくかいすうが増えます