開けもの師

「それではお願いします」

 老婆がそういうと納屋の重々しい扉が閉まり、僕は薄暗闇に包まれた。唯一の光源、燭台の蠟燭が微かに揺らめいていた。その灯火の下で神秘的な雰囲気を放つ桐の小箱が台の上で存在を主張している。
 スーフー、台の前に正座し、浅く呼吸をした。中身はこれまでと同じ、大したものではない。中を見たら閉めるだけ。紹介してくれた真野上さんには悪いが詐欺みたいな仕事だ。だがそう考えても緊張は消えない。さっさと終わらせよう。固くなった蓋を徐々に持ち上げ、灯りが徐々に中身に照らし込んだ。
 スースー、そこに息を吸う胎児がいた。小さな胸を膨らませて生命の鼓動を静かに刻む。
 スースー、僕も胎児と同じリズムで息を吸う。スースーという音が、この閉ざされた空間を満たしていく。
 なぜ胎児の姿が曖昧な光の中でも鮮明に見えるのだろう。そもそもなぜ胎児がいる?息をしている?そんな疑問がスースーと息とするたびどこかに抜けていく。
 スースー、僕は小さな呼吸を続ける。息苦しい。僕は胎児じゃない。もっと吸わないと。だが胸が膨らまない、喉が動かない。息が吸えない。
 ゴッホゴホ!僕は咳き込み、肺に残る空気を吐き出してしまった。だがその瞬間、真野上さんが売りつけた一本1000円の蝋燭が消えた。
 ハーハー、喉が動く。胸が膨らむ。胎児は視界から消えた。だがスースーと音が鳴る。暗闇中で蠢いてるのを想像してしまう。
 ブーブー、スースーより大きな音がポケットから鳴った。真野上さんが仕事用と渡したガラケーを取った。

「殺す……お前を呪い殺す……」

「……ふざけるのはやめてください、真野上さん」

空気が惜しい、と思わなければ叫んでいたところだった。

「こういうときこそ笑うんだよ、清水君。あと10分でそっちにつくけど、それまで生きてられる?」

 スースー、まだ音は続く。そして闇に閉ざされた視界の中に微かに胎児の姿が浮かんできた。

【続く】

さぽーとすると映画館にいくかいすうが増えます