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【特許とマーケティング】マーケットシェアと特許出願件数シェアって一致するの?

特許情報が経営戦略や事業戦略、マーケティング戦略等へ活用できるのではないか?と注目が集まっていますので、本noteでも特許とマーケティングについての私見をまとめていきたいと思います。

IPランドスケープという言葉が2017年に登場して注目を集めていますが、特許情報が経営戦略や事業戦略、マーケティング戦略等へ活用しようとする考え方自体は新しいものではなく古くからあります。詳細は拙稿「IPランドスケープの底流」やYouTube動画「知財情報分析の過去から現在まで-“三位一体”、“経営に資する”から“IPランドスケープ”」をご覧ください。

マーケティング戦略立案の流れは(出所:グロービスMBAハンドブック)、

1. マーケティング環境分析と市場機会の発見
2. セグメンテーション(市場細分化)
3. ターゲッティング(標的市場の選定)
4. ポジショニング
5. マーケティング・ミックス(4P)
6. マーケティング施策の実行と評価

のようになっており、最初にマーケティング環境分析(外部環境分析・内部環境分析)が必要となります。

まったく新規の市場創造ではなく、既存マーケットへの新規参入であれば、既存のマーケットシェアや主要プレイヤー、そのプレイヤーごとの製品・サービスの特徴などを分析していくことになります。

そのため、特許とマーケティングの関係性を見ていく上で、最初にマーケットシェア(市場シェア)と特許出願件数の関係性についてまとめておきたいと思います。

例としてハイブリッド自動車を取り上げます(あくまでもマーケットシェアと特許出願件数のシェアについて理解いただくための簡単な事例として捉えてください)。

ハイブリッド自動車といえば、トヨタ自動車が1997年12月にプリウスを販売して、現在も現在でもトヨタ自動車がハイブリッド自動車市場では大きなマーケットシェアを持っています。

少々古いデータになりますがhybridCARSによれば、2013年の米国・ハイブリッド自動車市場におけるトヨタ自動車のシェアは約66%になります。

一方、2013年最先優先年のハイブリッド自動車関連の米国出願はどうなっているかというと、全体では1,173件(正確には1,173ファミリー、以下同じ)あり、そのうちトヨタ自動車(TOYOTA MOTOR)の出願は224件で、19%の特許出願件数のシェアとなります。

ハイブリッド自動車関連特許の特定にはデータベースPatbaseを用いて、

SC=(B60K6/* OR B60W20/*) OR TA=(HYBRID WF2 VEHICLE%)) AND EPR=2013 AND CC=US

という検索式で特定しています。B60K6/やB60W20/はハイブリッド自動車関連の特許分類になります(厳密に言えばこれ以外にもありますが、ここではこの2つの特許分類とキーワードでハイブリッド自動車関連出願を特定させていただきます)

マーケットシェアでは66%もあるのに、特許出願件数のシェアはマーケットシェアの約3分の1程度になり、両者は連動していません。

研究開発には時間も費用も、そして人員もかかります。2013年のマーケットシェアが66%あったといっても、それは過去からの積み上げも当然あるはずです。そこで、2013年までに米国で登録になった特許件数のシェアも見ておきましょう。

特許の権利期間は出願から20年間なので、1994年1月1日から2013年12月31日までに出願された特許で登録になったものを確認してみます(米国の場合、途中で特許制度が変わったため、このカウントは正確ではないのですが、結果に大きな影響はないとの前提でこのまま進めます)。

検索式は以下のようになります。

EPR=19940101:20131231 AND (SC=(B60K6/* OR B60W20/*) OR TA=(HYBRID WF2 VEHICLE%)) AND KD=(USA OR USB*)

そうすると、1994~2013年米国登録特許総数は10,022件に対して、トヨタ自動車の米国登録特許の総件数は1,902件となり、2013年の米国特許出願件数のシェアである19%と同じとなります。

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ハイブリッド自動車、また米国市場という限定されたマーケットでの簡単な検索結果ではありますが、マーケットシェアと特許出願件数シェアというのは一致しないことが多いのです。

マーケットシェアと特許出願件数シェアというのは一致しない理由は、いろいろありますが、箇条書きで列挙すると、

-業界ごとに特許戦略(≒特許出願特性)が異なる
-技術ライフサイクル・製品ライフサイクルのフェーズによって特許出願特性が異なる
-競争地位・ポジションによって特許出願特性が異なる

などの点が挙げられます。特許出願件数が多ければ高いマーケットシェアが得られる、ということであればどの企業も特許出願件数を伸ばそうとします。しかしながら多数の特許出願が必ずしも高いマーケットシェアにつながるわけではありません。

特許情報をマーケティングに活用する場合、まず「マーケットシェアと特許出願件数シェアというのは一致しない」という点を理解しておく必要があります。

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