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寒くなると増える救急疾患の初期対応を復習するスライド3選

寒い時期になると増える救急外来の疾患といえば、脳出血やくも膜下出血などの脳血管疾患、心筋梗塞、大動脈解離です。もちろん脳血管疾患、心血管疾患は年間通して発生はしますが、救急外来にいると季節性を感じるものです。

今回は、本格的に寒くなる前に初期対応を復習しておきたい脳卒中、心筋梗塞、大動脈解離についてのAntaa slideを紹介します。

脳出血、くも膜下出血は明確な目標値をもって降圧をしよう

明らかに脳出血、くも膜下出血が疑われる患者の場合には、脳外科や脳卒中の対応に慣れた救急医が初期対応する病院が多いかもしれません。一方、非典型的な症状で発症した場合などは、CTを撮影して初めて脳出血が判明するということもあるかと思います。そのため、すべての医師が、脳神経外科の先生にコンサルトする前の初期対応を知っておく必要があります。

脳出血、くも膜下出血の管理のポイントについて勉強したい先生には、菊野先生の「内科医のための脳出血とくも膜下出血」のスライドがおすすめです。

脳出血があったら血腫拡大予防のために収縮期血圧<140mmHgを目標に、降圧をおこないましょう。重篤な高血圧合併例では、目標値は150mmHgにして、急性腎障害を予防する点もポイントです。血圧目標を決定するために、もともと高血圧があるかどうかの聴取や既往歴の確認が重要ですね。くも膜下出血の場合には、再破裂予防のための3つ「降圧」「鎮痛」「鎮静」を組み合わせ、血圧は軽症・中等症で160mmHg未満を目標にしましょう。

スライドでは最近のトピックとして、直接作用型第Xa因子阻害薬(イグザレルト®やエリキュース®)の拮抗薬であるアンデキサネットαが2022年3月に承認されたことや、以前は手術適応とならなかった深部の脳出血に神経内視鏡手術がおこなわれることも紹介されています。脳外科領域も治療が日々進化しており、updateが必要ですね。

心筋梗塞・大動脈解離・肺動脈塞栓は積極的に探しにいこう

救急外来では胸痛の診断は必須です。胸痛で見逃したくない疾患として心筋梗塞、大動脈解離、肺動脈塞栓症がありますが、非典型的な症状や「アルコール飲酒後の症状」「発症時期は不明」などの修飾因子があると、誤った診断につながってしまいます。そのため、胸痛がある時には心筋梗塞、大動脈解離、肺動脈塞栓症は積極的に探しにいきましょう。

胸痛を診察するためのポイントを勉強したい先生には、救急専門医のmasa1019先生のスライドがおすすめです。

ST上昇型心筋梗塞の確定診断は心電図でしかできないため、心電図のハードルは低くしておきましょう。初回の心電図で異常がなくても、疑いが晴れない場合には心電図を繰り返して、時間をおいて評価することもポイントですね。

急性大動脈解離の典型的な症状は突然の背部痛ですが、実は6%は無痛性であることにも注意が必要です[1]。以下の所見がある場合にも造影CTを撮影しましょう。

  • 胸背部痛に説明のつかない神経学的所見がある

  • 血圧が高くないのに神経学的異常がある

肺動脈塞栓症も、病歴やModified wells criteriaやジュネーブ・スコアなど検査前臨床的確率を推定する評価法とD-dimerの組み合わせやPERCルールなどを使います[2]。それでも肺動脈塞栓症の疑いが晴れない症例には、造影CTを撮影するのがよいかもしれません。私自身も、救急外来でスコアでは否定的でしたが、何かひっかかる点があり、結局造影CTを撮影したところ肺動脈塞栓があったという経験があります。

心筋梗塞診断の最重要ポイント、心電図の基本を見直そう

怖い胸痛のひとつ、心筋梗塞の診断のために欠かせないのが心電図です。検査自体は簡単ですが、読影は苦手意識がある先生も多いかと思います。

心電図を基礎から勉強したい先生には高麗先生の「心電図の基本のキ」がおすすめです。

スライドでは、循環器修練医でもSTEMIを26%が正しく診断できないと紹介されています。心電図は外来で手軽にできる検査ではありますが、そもそも読影判定自体は簡単ではないのですね。

心電図は軸や脈拍数計算など複雑に考えがちですが、I・II誘導で陽性で軸正常、I誘導陽性・II誘導陰性の左軸偏位は左脚前肢ブロックとシンプルに考えましょう。

そして、基本のキは「II誘導を横に」「QRSを縦に」「ST-Tを」みることです。まずは基本のキを意識してたくさん心電図を読みましょう。読めるようになったら、徐々にメカニズムやその他の異常の検出も目指してさらに勉強していくと、心電図の読影スキルが身に付くと思います。

冬場に増える脳血管、心血管イベントに備えましょう

冬場は脳血管・心血管イベントが増える傾向にあり、コロナで医療資源が切迫している場合にも、一定の割合で発生しています。重症疾患を見逃さずに適切な治療につなげるためには、それぞれの疾患の診療ポイントを知っておくことが大切です。また、治療も日々進化しており、知識のupdateも重要ですね。

復習や知識updateにAntaa slideをご活用いただき、自信をもって救急外来に立てるようにしておきましょう。

文責:すたば@救急、産業医