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円陣。円環ではなく


日向坂46 9thシングル『One choice』収録曲「友よ 一番星だ」のMVが公式YouTubeチャンネルにて公開された。


卒業を発表した影山優佳をセンターに、一期生が彼女を取り囲む特殊なフォーメーション。

MVでは彼女が愛し発信してきたサッカーになぞらえ、鹿島アントラーズのホームスタジアムであるカシマサッカースタジアムを舞台に、影山が今まで歩んできたけやき坂から休養、そして日向坂に復帰するまでの足跡を辿り、やがてスタジアムで本人がメンバーと合流するという『影山優佳への送る言葉』といって差し支えない作品となっている。


今まで人生の節目で多くの挫折と選択を経験してきた彼女は、特にグループ復帰後は口癖のように「自分の活動のモチベーションは前に立つことではなく、自分のフィールド(サッカーやクイズ等)で頑張ることでその成果をグループに還元していくこと」といったニュアンスの決意を語ってきた。

そんな彼女がキャプテン佐々木久美からのパスをうけ、10番と仲間たちの歓声を背負いゴールを揺らすシーンは、ずっと彼女のことを、はじめて推したアイドルとして見続けてきた私にとっても胸にくるものがある。


このMVは影山の独白から始まり、独白で終わる。


「円陣。円陣は1人では組めない。隣には友がいて顔をあげれば友と目がある。円には切れ目がないから、どこが1番でも、どこが終わりでもない」


この『円』というモチーフはMV内で度々登場する。冒頭で寝転がる影山を取り囲むような半径9.15mのセンターサークル。空をみつめる影山が手で作る望遠鏡。フラフープ。


円陣を組むメンバーを下から映すレンズは、メンバーのはじけるような笑顔に空と光を落とし込んでいる。円は全員が繋がっているからできるもので、尊い横並びでありながら、一見するとそれはメンバーの繋がりだけで完結した円環のようにも見える。

しかしメンバーが組む円陣に落とし込まれる外からの光や空気は、それがサイクルを繰り返しながら回り続ける閉じられた円環ではなく、開かれた円であることを教えてくれる。
蓋のない開かれた円は内側も外側も地続きで、表と裏を隔てるものはなにもない。つまり、その両面とも実際には外界と常に触れ合っているのだ。


円陣を組んでいる時、仲間たちの声に呼応して歓声が聴こえる。鳴り止まない歓声と、開かれた円は触れ合い、呼応している。


私や貴方は彼女たちの円陣の一部ではないし、どこまでいっても観測者以上ではありえないけれど、あるいは声くらいなら彼女たちの円に触れて共にあれる。


彼女がグループから旅立ち生きていくこの先すべての時間も空気もまた、グループが作る開かれた円と地続きなのだと思う。

コロナ禍の中グループに復帰し、ライブでの声出しが解禁されたこのタイミングで旅立っていく彼女に向けたこの『送る言葉』も、彼女たちがつくる開かれた円と触れ合い意味をなしていく。

サムネイルの影山優佳は、いつだって開かれた円の向こうから、こっちを覗き込んでいる。


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