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ハイリスク・ハイリターンでいこう

みなさんこんにちは、tiancunです。とんでもなく暑い日々が続きますね。エアコンに扇風機という文明の利器に頼りっぱなしの生活を送っています。

これまで蓄積されてきた技術や知識に、さらに新しいものを積み上げることで、われわれの社会は発展してきました。どんな天才でも、電気も、金属加工の技術も発明されていない状態から、ひとりでエアコンを作り上げることは不可能ですよね?世代間の継承と新しい要素の追加による技術の発展は、人類の特性として挙げられることもあり、世界中の人類学者が研究しているテーマです。

その一方で、過去のわれわれの祖先の記録――たとえば文字資料のない先史時代の石器製作技術――は不完全で、こうした蓄積的な改良の過程を詳細に復元することは困難です。そこで、研究者がすべての過程を観察できる実験研究が補完的に使われます。しかし、そのような研究では、被験者数をできるだけ増やしたり、被験者の技術を統制する必要があったりするために、誰でもできる課題でなければならず、あまり複雑な状況設定にできません。研究者たちは、「詳細なデータを取得可能であること」と「現実的な複雑さ」という条件を満たすような、「ちょうどよい」データを探していました。

プログラミングコンテスト

そのような「ちょうどよい」データとして、Miu博士らは、プログラミングコンテストに注目しました(※)。プログラムとは、コンピュータになにか仕事をさせるための命令です。テレビや映画でたまに出てくる、キーボードを叩いて黒い画面に文字が流れていくアレのことです。もうみるからに複雑そうですよね。tiancunには手も足も出そうにありません。

プログラミングコンテストでは、参加者は、数独などの問題を解くプログラムを限られた期間のうちに制作します。プログラムを完成させることができた参加者はプログラムを提出します。その際、参加者の名前と、得点、そしてプログラムそのものが公開されます。プログラムの提出は期間内なら何度でも行えます。期間が終わった後、一番得点が高かった参加者が優勝となります。

分析に使ったプログラミングコンテストの数は19でした。そのすべてで、得点は時間とともに増加していました。一方で、現在一番高い得点をあげているプログラムを上回るのに成功したプログラムは、全体の6%しかありませんでした。

大半の参加者は、現在もっとも得点の高いプログラムをコピーし、そこに若干の修正を加えたものを提出していました。みんなが成功しているもののコピーを繰り返すので、プログラムの多様性は低くなり、みんな同じようなものばかり作っていたのです。また、このような微修正による現在の最高点からの得点の増加は、多くの場合わずかでした。

その一方で、ごくまれに、現在最高得点のプログラムとは、全然違うプログラムを提出していくる参加者もいました。こうしたプログラムの大半は、低い得点しか獲得できませんでした。しかし、ごくまれにですが、微修正をほどこしたプログラムよりも、ずっと高い得点を上げることに成功したプログラムもありました。つまり、プログラムの改良は、大半のローリスク・ローリターンな微修正と、少数のハイリスク・ハイリターンな大幅変更からなっていました。

おわりに

著者らは、この研究から得られる示唆として、イノベーションを起こすためには、失敗に寛容になり、ハイリスク・ハイリターンな研究に投資する必要があるのではないか、と述べています。他の事例、とくに過去の人類に適用できるかは、まだまだ研究の積み重ねが必要ですが、全体の発展のために失敗を許容する視点というのは、いろいろな場面でちょっと立ち止まって取り入れてみると良いのかもしれません。

(執筆者:tiancun)

※ Miu, E., Gulley, N., Laland, K. N., Rendell, L. (2018) Innovation and cumulative through tweaks and leaps in online programming contests. Nat. Comm. 9: 2321.


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