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違う場所に子供を埋める

お盆に帰省した際、先祖代々のお墓にお参りに行く方もいるかもしれません。そうしたお墓ではしばしば、子供のうちに亡くなった方が、お地蔵さんの形の墓石に祀られていたりと、成人とは異なる様式で埋葬されているのを目にするかもしれません。実は、子供の埋葬様式を成人と区別する習慣は、どのように区別するかこそ異なれど、日本においては江戸時代や中世などの昔にも見られたやり方であるばかりでなく、世界各地で見られるものでもあります。

今回は、中世のイングランドにおいて、成人とは異なる場所に埋葬された子供たちが、生前にどのような人生を送っていたのかを復元した研究を紹介しましょう*1。


中世イングランドの子供の埋葬

8−12世紀の中世イングランドでは、ひとつの教会の墓地のなかに、子供の埋葬様式が複数見られることがあるそうです。2歳以下などの小さな子供たちのうち、一部の個体は教会の建物を取り囲むようにまとまって子供だけで埋葬され、一部の個体は建物から離れた墓域に成人と混在して埋葬されるのです。このように一部の子供たちを異なる場所に埋葬する習慣は、当時の人びとの死生観や、その子供たちが生前どのような人生を送っていたかに影響されていると考えられてきましたが、詳しいことはよくわかっていませんでした。

研究者たちが、こうした異なる埋葬様式の見られる中世イングランドの4つの墓地から86個体の子供の骨を集め、乳歯を連続的に分析して、その子供たちの生前の授乳状況を復元しました*1。乳歯は胎児期から出産後まで連続的に成長していくため、成長線を追うように細かい切片にしてそれぞれ分析すると、生後数年間の母乳の摂取状況を推定できます。炭素や窒素の安定同位体比を分析すると、母乳をどれだけ摂取していたかがわかるのです。

分析の結果、教会の建物の周りにまとまって埋葬された子供たちは、成人の区画に散らばって埋葬された子供たちに比べて、まったく、あるいはほとんど授乳されていなかったケースが多かったということがわかりました。また、統計検定を適用したところ、子供たちの年齢構成の違いが結果に影響を与えているわけではないこともわかりました。この議論が本当に正しいかどうかはわかりませんが、論文の著者たちは、出産時に母親が亡くなり、きちんと授乳されることのなかった子供たちが教会の世話になり、幼くして亡くなった場合には建物の近くに埋められたのではないか、と議論しています。


おわりに

墓地から発掘された個体の生前の人生の状況を復元することで、どうしてその個体がその場所に埋められたのか、説明がつく場合があるかもしれません。現代とは違って、子供の命がひときわ儚かった時代、親や社会は子供をどのように見ていたのでしょうか……生物考古学の研究が、その一端を明らかにするかもしれませんね。
(執筆者: ぬかづき)


*1 Craig-Atkins E, Towers J, Beaumont J. 2018. The role of infant life histories in the construction of identities in death: An incremental isotope study of dietary and physiological status among children afforded differential burial. Am J Phys Anthropol 167:644–655.


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