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大きいグループで育つと「賢く」なる?

人づきあいって疲れますよね。根回しや配慮が必要だったりして、頭を使わないといけません。構成するメンバーの数が多い大きな集団で生活していると、「認知能力」が必要になると考えられています。実際に、異なる生物種のあいだで比較すると、生物種の間で、さまざまな「認知能力」や脳の発達と、集団の大きさに関連があることが報告されています(※1)。その関連性を生み出している要因は色々提示されています。具体例を挙げると、フレキシブルな行動が必要とされる、多くの関係性を記憶しなければいけない、などです。

しかしこれまで、同じ生物種のなかで比較した場合にも、集団を構成するメンバーの数が多いほど「認知能力」が高い、という関係があるのかどうかは、よくわかっていませんでした。

種内でも、大きいグループほど「賢い」か?

Ashton博士らは、オーストラリアのカササギフエガラスを対象とした実験を行うことで、この課題に取り組みました(※2)。というのは、この鳥は、ひとつのグループを構成している個体の数にばらつきがあるからです。実際、博士たちは、14グループ56個体を対象にしましたが、各グループの個体数は、3から12でした。

著者らは、3年の調査期間にわたって、カササギフエガラスの各グループの個体数を調査し続けました。同時に、カササギフエガラスに、4種類の認知課題を行わせました。認知課題は、特定の色と餌を関連付けるものだったり、餌のある場所を覚えるものだったりします。

こうして得られた認知課題の成績を統計処理し、「認知能力」を表す変数を作りました。そして、こうして得られた「認知能力」と、所属しているグループの個体数のあいだの関係を調べました。

大きいグループほど「賢い」

解析の結果、大きいグループほど、認知課題のパフォーマンスが高い傾向がありました。つまり、種内でも、大きいグループで暮らしているほど「認知能力」が高いという関係がみられたのです。

さらに、発達過程での認知課題の成績を調べたところ、孵化後200日以降には、大きなグループで暮らす個体ほど、認知課題の成績が良い傾向がみられました(※3)。著者らは、これらの結果から、発達過程の比較的初期で、大きな群れにいることが、認知能力の発達を促すと考えました。

さらに興味深いことに、認知課題の成績が高い個体ほど、多くのひなを育てていました。つまり、「賢い」ことが、生態学的に(そして潜在的には進化的に)有利であることを示唆しています。

おわりに

まだまだ具体的なメカニズムについてわからないことがありますが、長期のフィールドワークを通して、興味深い結果を示した研究だといえると思います。一点、今回の研究の結果を、単純にヒトの発達に当てはめることはできない、というところは、注意しておくべきでしょう。

(執筆者:tiancun)

※1 もちろん、「認知能力」にはいろいろな種類がありますし、集団の大きさの他にも、認知能力の種間差に影響を与える要因が多数提示されています。

※2 Ashton BJ, Ridley AR, Edwards EK, Thornton A (2018) Cognitive performance is linked to group size and affects fitness in Australian magpies. Nature 554, 364–367.

※3 孵化後200日は、まだ成熟前で、カササギフエガラスの繁殖開始年齢は3〜5歳ほど、寿命は25歳ほどだと考えられています。

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