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わからなくってもできるんです?

今までに何度か、人類の文化の「蓄積性」に関する研究を紹介してきました(たとえば「大は小を兼ねない?」「ハイリスク・ハイリターンでいこう」)。われわれのまわりには、車や、飛行機や、コンピューターといった、ひとりではどうあがいても発明できないようなものが溢れています。しかし考えてみると、ちょっとひっかかるところがあるかもしれません。わたしたちは車や飛行機やコンピューターを使うことができていますが、しかしその原理を理解できているわけではありません。今日は、理解していなくても、文化や技術を蓄積していけることを示唆した研究を紹介します。

車輪を速く転がそう
デレックス博士ら(※)が実験のために用意したのは、車輪とレールです。実験室には、金属製のレールが滑り台のように斜めにかかっており、被験者は、そこに車輪を転がすことを求められます。実際の様子は下の動画をみてみてください。

https://twitter.com/MaximeDerex/status/1036613148017680387

この車輪には、四本のスポークが付いており、十字架のようなかたちをつくっています。このスポークにはおもりがついており、車輪の中心に近いところから、遠いところまで、位置を変えることができます。被験者たちがおこなうのは、おもりの位置を変えることです。そうすることで、できるだけ速く車輪にレールを走らせることを目指します。各被験者は、それぞれ5回ずつおもりの位置を調節することができます。

この実験は、5人からなるグループでおこないますが、同じグループの人が2人以上同時に実験をおこなうことはありません。そのかわりに、最後の2回のおもりの位置と、レールを走り切る時間の情報が、次の被験者に知らされます。つまり、2人目以降の被験者は、どのようなおもりの設定が速そうかの情報を得て、実験をスタートさせることができます。車輪を使った伝言ゲームといえばイメージしやすいかもしれません。

この実験のには、もうひとつ重要なポイントがあります。実験終了後、各被験者に、次のような理解度テストをおこないました。被験者はおもりの設定の違う2枚の車輪の画像を、順番に10ペア見せられ、それぞれどちらが速いか質問されます。つまり、実際に速い車輪をつくれたかどうかだけでなく、なぜ速いか理解しているかどうかを試されるのです。

理由がわからなくても速くなる
さて、結果です。後のほうの被験者になるほど、車輪は速い傾向がありました。しかし、理解度は、先に実験をしようが、後に実験をしようが、変わりませんでした。つまり、後半の被験者は、車輪は速いにもかかわらず、なぜ速いかという因果関係については、前半の被験者と同じくらいしか理解していなかったのです。このことは、車輪が速く動くメカニズムについて理解していなくても、車輪を速くできることを示唆しています。

考古学者らは、(数多くの部品を組み合わせるなどの)道具の複雑化を、推論や計画といった、高度な認知能力の証拠としてとりあげることがあります。しかし、著者らは、こうした結果を受けて、そうしたデータの取扱に警鐘を鳴らしています。そうした能力がなくても、複雑な道具が作れてしまうかもしれないからです。もちろん、今回の研究で、過去の道具がどのように複雑になっていったのかはわからないことには注意が必要ですが、過去のひとびとがどうやって道具を改良していったのか、想像するきっかけになるのではないでしょうか。

(執筆者:tiancun)

※ Derex, M., Bonnefon, J. F., Boyd, R., Mesoudi, A. (In press) Causal understanding is not necessary for the improvement of culturally evolving technology. Nature Human Behaviour. doi: 10.1038/s41562-019-0567-9


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