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名刺版写真 カルトドヴィジット -フランス19世紀の流行-

パリではないフランスで古物パトロールするのがライフワークとなっている、銀色アンティークの蚤の市日記です。

毎週毎週蚤の市で素敵アイテムを探しておりますが、そんな私が最近心惹かれてやまないのが、100年以上前に流行したカルトドヴィジットと呼ばれる名刺版写真です。

名刺版写真 カルトドヴィジットってどんなもの?

名刺版写真 カルトドヴィジットとは、カード状の厚紙の台紙に張り付けられた肖像写真で、サイズは6.2cm×10.3cmくらいです。
形状のイメージとしては、百人一首やかるたなどのカードをイメージしていただければ近いかもしれません。
その台紙に、当時のファッションで着飾った貴婦人や軍人や赤ちゃんや子供たちや時にはペットまで、そしてご夫婦やご家族一緒のものなど…ポートレート写真が張り付けられているのです。

肖像写真の下部に撮影したフォトグラファーの名前が記載されていることが多く、当時の人気フォトグラファーは予約殺到で大忙しだったとか。
裏面はフォトスタジオの広告が印刷されているのですが、この裏面のデザインが何とも優美で素敵なものが多いのもカルトドヴィジットの魅力の一つです。


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※carte de visiteと書きますが、この語句は現代でも「名刺」という意味でつかわれるため「carte de visiteください」と言うとビジネス用の名刺を欲しがってるのだと思われますので要注意

いつ流行したの?

カルトヴィジットが登場したのは1850年頃。
この時代の写真技術はフランスが最先端だったと言われています。
フランスのアンティーク用語でたびたび使われる「ナポレオンⅢ」はちょうどこの時代です。
日本では明治時代の前半くらいでしょうか。

1954年、Disdéri(フランス語読みで”ディデリ”)が複数枚同時撮影の技術を使ったことから写真の価格がお手頃になり、ブルジョワジーたちの間で一気に流行が広まったそうです。

お手頃になったと言われているカルトドヴィジットの価格は、25枚のフォトが30フラン。
当時の1フランってどのくらいの価値があるのか?とググってみたら所論ありますが大体¥1000くらいだったみたいです。
つまり25枚で約¥30000という計算です。
確かに手が届かないほどの高額ではないものの、その時代の物価と相対して考えるとそこそこのぜいたく品だったと想像できます。
現存しているカルトヴィジットを見ても優美な衣服で着飾った姿がほとんどですので、やはり裕福な層の人々が撮るものだったと思われます。

誰がどんなふうに使っていたの?

フランスのブルジョワ階級の間で大流行したカルトヴィジットですが、当時のブルジョワ家庭ではカルトヴィジットを収納する専用のアルバムが大抵一つくらいは持っており、来客者に見せたり写真の交換をしたりしていたそうです。
また訪問先の相手が不在だった場合にカルトヴィジットを使用人に預け残して行く、というような使い方がされていたりもしたそうです。

さらに多く印刷されたのは、芸術家や王室の人々、俳優などの有名人の肖像です。これらは現代のブロマイド写真のようにファンたちに販売されました。好きな著名人のカルトヴィジットを集めるのも当時の人々の楽しみだったみたいです。

すぐに、カルトドヴィジットの流行はヨーロッパ中に広がりイギリスやアメリカでも人々を魅了しました。

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カルトドヴィジットは美しい専用アルバムに収められていました。

蚤の市での市場価値は?

カルトドヴィジットは19世紀の半ばから20世紀に入ってすぐの初頭までと短い期間の流行だったので、作られた数は限られたものだと推測できます。
現在の蚤の市の市場では、ポストカードほどの枚数は入手できませんが根気よく探すと時折目に飛び込んでくるアイテムです。
またフランスでも人気が高く収集家の間でレアカードは高値で売買されており、特に有名人のものはオークションサイトなどでも競争率の高い品です。

そしてカルトドヴィジット用のアルバムはどれも装飾の美しいものばかりで、これも人気があります。中身がテーマ性を持ってコンプリートされたものや、状態の良いものは高額が付くことも珍しくありません。
またこのアルバムは表紙はベルベット地や皮風装丁で重厚な造りなのですが、中身の台紙と枠に使われている紙が、古いせいもありとても繊細なのです。写真を出し入れする時は細心の注意が必要です。

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ただ、カルトドヴィジットは厚みのあるしっかりとした台紙に貼り付けられたカードですので、消耗にはやや強い印象があります。
雑に保管されていたため汚れや湿気でダメージがある場合ももちろんありますが、このようにしっかりとしたアルバムに大切に保存されていたものは100年以上経過したとは思えないほど状態良く現存していたりもします。

私はこんな風に使ってます

集めて並べて眺めるだけでも十分に楽しいカルトドヴィジットですが、他にも楽しめる要素がたくさんあります。

まずポートレートの人物観察。
大抵は一般ブルジョワジーのフォトですので、いわゆる普通の人が写っています。19世紀の流行の髪形やジュエリー、ドレスなどは当時の雑誌などで見ることができるのですが、そういうのは美しいモデルに最先端のファッションが中心となります。
普通の人たちがどんな風にお洒落を楽しんでいたのかを写真で見られるのは意外と貴重かもしれません。
女性のドレスはもちろんの事、男性のひげの形や軍服の勲章なども個人的には注目度が高いです。
ポストカードなどは若い女性や子供の姿を映したものに人気が集中しますが、このカルトドヴィジットでは渋いおじさまたちの装いや佇まいも、惹かれるポイントです。
意外とイケてるおじさま多いですw

そしてフォトグラファーにも注目すると面白いかもです。
この時代のカルトヴィジット界での有名フォトグラファーと言えば、立役者のDisdéri(ディデリ)や風刺画家としても有名だったNadar(ナダール)の名前があがります。
こんな有名どころのフォトグラファーが撮ったカルトヴィジットをコレクションするのも楽しいかもしれません。

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ディデリ撮影のしるし

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ナダールはこんなサイン

そしてやはり裏面のデザインにも注目したいところです。
最初裏面は無地やスタンプが押されただけのシンプルなものが多かったのですが、年々装飾性が高く優美なデザインに完成度が高まってきました。
カルトドヴィジットの裏面はフォトスタジオにとって大切な広告の場所でもあったため気合の入ったデザインが多いのも納得です。
美しい文字装飾にも注目すればカリグラフィーの世界でも参考になる点が多いかと思います。

このように、19世紀フランスのブルジョワジーたちが夢中になったカルトドヴィジットは一枚でたくさんの楽しみどころがあるアイテムなのです。
そういう意味ではコスパ良いと言えるかもしれません。

とはいえ、収集家が増えると価格高騰がお約束のアンティーク業界ですので、今のうちに注目しておいて損はないかと思います。

※この度オンラインショップで名刺版写真 カルトドヴィジット の取り扱いを始めました。
ご興味のある方はぜひ一度のぞいて見てくださいませ。


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