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"GLASS EYE"の事。

ミュージシャン同士の交流というのは、音楽志向やジャンルやレコード・レーベルの垣根を越えて意外な所で接点が生まれ、単なるお友達関係や飲み仲間っていうのも多いんだろうけど、お互いに触発されて素晴らしいサウンドを生み出したり、著名なアーティスト同士だと夢の競演なんてのもあるでしょう。あまり有名ではなくても、才能のある人物同士が結びついて共同作業を行い、結果として素晴らしいものが出来上がる事は頻繁にあると思う。2019年に58歳で急逝したDaniel Johnstonの楽曲を理解し、彼の作品を理解して認め、音楽活動をサポートし、何とか世間に知ってもらおうと尽力したバンドがいた。そっちの方で少しは知られてると思いたいけど、バンドとしては、地元オースティン以外ではあまり知られていないというのはちょっと寂しいよねえ...そのバンドの名前はGlass Eyeと言います。

[Marlo] (1984)

アメリカはテキサス州オースティン出身のバンド Glass Eye。最近では、ロサンゼルスにも同名のバンドがいるんで分かりづらいですが、こちらは1980年代のオースティンの方々です。地元のパンク・バンドでの演奏をいくつか経験したBrian BeattieとKathy McCartyは親しい友人で、Scott MarcusはBrianの友人という地元の人たちの集まりでした。BrianとScottが新しいバンドを結成しようとしていたところ、Kathyは自分も仲間に入れるよう頼みますが、ハッパの吸いすぎだと許可されませんでした。Kathyは地元の女性ばかりのパンク・バンドBuffalo Galsにいて知名度があったため、彼らに一時的なサポートを頼み込みます。そこにStella Weirlassが合流して、結果的にバンドになっています。整理すると、リード・ヴォーカルとギターがKathy McCarty、ヴォーカルとベースがBrian Beattie、ドラムスがScott Marcus、キーボードがStella Weirlassという4人組バンドGlass Eyeが結成されました。1983年の感謝祭の夜の事でした。結成後間もなく、地元の大学や小さなクラブでライヴ・サーキットを始め、活動の範囲は全米に広がり、フィラデルフィアの大きなフェスティバル「Pilam's Human BBQ」などに出演しています。このフェスティバルは、R.E.Mや10,000 Maniacsなども出演する大きなもので、バンドは知名度を上げます。デビュー盤は、自主リリースされたミニ・アルバム”Marlo”でした。ポスト・パンクの先鋭さと、テキサスっぽいアメリカン・ルーツ・ミュージックの人懐っこくて泥臭いスタイルと、一筋縄ではいかないサウンド構成と魅力的なメロディ・ラインとのミックスは新鮮なもので、不協和音を盛り込んだ前衛的なサウンド・スタイルは、オースティン産アート・ロックの旗手として注目されました。

[Huge] (1986)

1984年のオースティンでのギグで、Daniel Johnstonが彼のカセット・テープ"Hi, How Are You"を渡し、それを聴いたKathyは彼の才能を認め、メンバーに聴かせて納得させ、晴れてツアー・サポートに起用します。新しいサウンドを模索していた当時の音楽シーンに於いて、彼らの様なバンドは貴重で、当時盛り上がっていたポスト・モダンのアイロニカルな思想を誇張したニュー・シンシリティ運動の渦中に入れられます。ムーヴメントの主なバンドは、The Reivers , True Believers, Wild Seeds, Timbuk 3などで、MTVで特集が組まれるなどメディアによって祭り上げられました。その時にGlass EyeのサポートでTV出演したDaniel Johnstonは、これをきっかけに各レコード会社に注目される事に。1986年にはGlass Eyeのデビュー・アルバム”Huge”がハリウッドのインディー・レーベル Wrestler Recordsからリリースされています。アメリカン・ルーツ・ミュージックをベースとしながら、独特の音色を紡ぎ出す複雑なギター・サウンド、強靭でヘヴィなベース・ライン、目まぐるしく変わるビート、強靭でテンションの高いクールなヴォーカルで歌われるポップなメロディが印象的な作品です。Cab Callowayの"Minnie The Moocher"の異色のカヴァーを収録しています。このアルバムを最後に、Scott MarcusとStella Weirlassが脱退しています。

[Bent By Nature] (1988)

1988年には、2作目のアルバム”Bent By Nature”をホーボーケンのインディ・レーベル Bar/None Recordsに移籍してリリースしています。Dave CameronとSheri Laneを加えた新ラインナップでレコーディングされたアルバムで、アメリカン・ルーツ・ミュージックをベースとしながら、巧みな演奏と画期的なアイディアが盛り込まれた、実験的なサウンド・メイキングが為された意欲的な作品です。独特でヘヴィなベース・ライン、時にノイジーに時に軽快に複雑なリフを紡ぎ出すギター、ファンキーで変幻自在でフリー・フォームなドラムス、フォーキィでも一筋縄ではいかないクールでエモーショナルな男女ヴォーカルなど、テクニカルで難解ながら、カラフルでポップなサウンドは、他に類を見ないものでした。

[Hello Young Lovers] (1989)

1989年には、早くもScott MarcusとStella Weirがバンドに復帰しています。再びオリジナル・メンバーの4人になったバンドは、新しいアルバム"Hello Young Lovers"をBar/None Recordsからリリースしています。カントリー、ブルース、ジャズ、ファンクをミックスした独特なサウンド構成による実験的なサウンドの完成度が頂点に達した作品です。ヘヴィにうねって歪みまくるベース・ラインの緊張感と存在感が著しく増量され、ヘヴィに軽快に自由に刻まれるギター・サウンド、強靭でテクニカルで独特なタイミングで繰り出されるビート、哀愁味溢れるメロディを歌うフリー・フォームで強靭な男女ヴォーカルと、テンションの高いバンド・サウンドがスリリングな作品です。リチャード・リンクレイター監督の映画『スラッカー』にカメオ出演して今作収録の"White Walls"を劇中で演奏、サウンドトラックにも収録されています。

[Every Woman's Fantasy] (2006)

1992年~1993年の間、バンドは新しいアルバム"Every Woman's Fantasy"をレコーディングしています。が、メジャー・レーベルとの契約に伴うトラブルに見舞われ、アルバムのリリースを待たずに1993年に解散してしまいます。バンド解散後、Kathy McCartyはソロ活動を行い、以前からBar/NoneにオファーしていたDaniel Johnstonのカヴァー・アルバムを"Dead Dog's Eyeball (Songs Of Daniel Johnston)"というタイトルで1994年にリリース、Brian Beattieがプロデュースを手掛け、Scott Marcusや地元のミュージシャンが多数参加しています。今作収録の"Rocketship"は、テレビ番組のシットコム・アニメ『フューチュラマ』と、リチャード・リンクレイター監督のアニメ映画『Apollo 10 1⁄2: A Space Age Childhood』にフィーチャーされています。Brian Beattieは音楽プロデューサーとなり、The Dead Milkmen, Ed Hall, Daniel Johnston、Kathyのソロ作品などを手掛け、ソロ活動も行っています。Stella WeirとScott Marcusは、新バンドとして Prohibitionを結成しています。

"Dead Dog's Eyeball (Songs Of Daniel Johnston)"/ K. McCarty(1994)

Glass EyeとDaniel Johnstonとの友情は、バンドの活動中から続いていて、彼を世に送り出したと言っていいKathy McCartyは、1989年のBar/Noneのコンピレーション”Time For A Change: Bar/None Sampler # Two”にDaniel Johnstonの"Living Life"のカヴァーを提供し、精神病院に入院していてレコーディングに支障を来したDanielに協力し、Brian Beattieはプロデューサーとして活動を支えました。先のカヴァー・アルバム"Dead Dog's Eyeball (Songs Of Daniel Johnston)"は、Danielの才能をもっと分かりやすい形で多くの人に届けたいという思いから制作されました。ミュージシャン同士の友情が、こんな形で実を結ぶ事は稀かも知れません。Danielはドキュメンタリー映画が作られるなど評価されていますが、是非Glass Eyeという優れたバンドが存在した事も忘れないでほしいものです。今回は、3作目のアルバム"Hello Young Lovers"に収録されていたこの曲を。

”Get Lost" / Glass Eye

#忘れられちゃったっぽい名曲


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