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"MEDICINE"の事。

バンドの形態というのは色々あって、兄弟や幼馴染、同級生といった近しい関係から、別々のバンドで活動していたメンバーが意気投合したり、掛け持ちしたり、メンバーが入れ替わるプロジェクトなんてのもある。縁もゆかりも無いメンバーが集められた寄せ集め感のあるバンドもあって、これは大手レコード会社の常套手段な訳で、意外と上手くいったり、すぐに不協和音が出て解散したりもする。メンバー募集広告で集まった場合、志向が近いメンバーの集合体もいいが、全く違った個性の場合、ぶつかり合いが却ってスリリングだったりする。さて、このMedicineはどうだったでしょうか。

Medicineは、1990年にロサンゼルスで結成されたバンドでした。中心人物のBrad Lanerは、地元で15歳の頃からDebt of NatureやSteaming Coilsといったローカル・バンドで活動した後、地元のポスト・パンク・バンド、Savage Republicの後期メンバーとして加入し、2枚のアルバムに参加してドラムとパーカッションを担当しました。1990年にSavage Republicが解散し、一人になったBrad Lanerは、自宅の4トラック・レコーダーでデモ曲を作り始めます。このデモ・トラックを音楽関係者に聴かせたところ、デモの内容を気に入った彼は、バンドを集めればデビューできると太鼓判を押しました。Brad Lanerは、演奏出来そうな地元のミュージシャンからメンバーを集めます。初期のメンバーは、ドラマーのJim Goodall 、ギタリストのJim Putnam、ベーシストのEddie Ruscha、そして女性ヴォーカリストのAnnette Zilinskasでした。Annette Zilinskasは、ロサンゼルスのペイズリー・アンダーグラウンド・ムーヴメントの渦中にあったThe Banglesの初期メンバーでしたが、デビュー・アルバムのリリース前に脱退したというキャリアの持ち主でした。しかし、正式な音源をレコーディングする前にMedicineも脱退してしまい、女性ヴォーカリストのBeth Thompsonが加入しています。そして、Brad Lanerの作り出す世界をバンド・スタイルにするための寄せ集めバンドMedicineが結成されました。

[Aruca] (1992)

本国アメリカでは、Rick RubinのレーベルAmerican Recordingsとのビッグな契約を実現させ、UKではCreation Recordsとの契約をモノにしています。彼らは、Creationが契約した初めてのアメリカのバンドとなるみたいです。1992年にCreationからシングル"Aruca"をリリース、そのサウンド・スタイルから、しばしばシューゲーザー・ムーヴメントのアメリカからの返答と称されましたが、バンド結成前のデモから使用している4トラック・レコーダーをエフェクターとして使用した、ザラッとした質感と、高音を極端に強調した、キンキンした鋭角のギター・ノイズのアンサンブルは、他に類を見ない個性的なモノでした。

[Shot Forth Self Living] (1992)

1992年に、デビュー・アルバム"Shot Forth Self Living"がリリースされました。いきなり9分超のヘヴィ・ノイズの音塊”One More”で度肝を抜かれるこの作品は、全編に渡って鋭角な高音ノイズ・ギターが蹂躙する凄まじい世界が展開、男女のツイン・ヴォーカルや、他の楽器も歪みまくってノイズと化し、決して耳触りの良いサウンドではありませんでしたが、UKシューゲイザー系のバンドとは一線を画するヒリヒリする様な殺伐としたサウンド世界と、ダウナーで甘美なメロディの対比に圧倒される唯一無二の個性を持った作品です。My Bloody Valentineへのアメリカからの回答という評価は、あながち間違ってはいないかもと思わせる凄いアルバムでした。ヘタすれば、My Bloody Valentineを超えることだって可能じゃないかと思わせました。

[The Buried Life] (1993)

1993年には、"Shot Forth Self Living"収録曲“5ive“のシングルをCreationからリリースして契約を終了させ、次のシングル"Never Click"を、かつて存在したAmerican RecordingsとBeggars Banquetとの提携レーベル、Beggars Banquet Primaryからリリースした後、セカンド・フル・アルバム”The Buried Life”をリリースしています。今作も、前作以上に高音を強調したフィードバック・ギター・ノイズが冴える作品ですが、女性ヴォーカルを前面に出し、メロディが格段に進化し、抒情的な部分もあり、加えてデジタル・サウンドと様々な楽器を導入した多彩なアレンジが顕著で、既にシューゲイザー云々よりも、インダストリアル・ノイズとギター・ポップが奇跡的融合を果たしたって感じです。ラストを飾る壮大なアレンジが凄まじい曲”Live It Down”では、ピアノ・アレンジでVan Dyke Parksが参加しています。

[Sounds Of Medicine] (1994)

1994年には、”The Buried Life”収録曲“She Knows Everything“をSmashing PumpkinsのBilly Corganがリミックスしたヴァージョンや、EP“5ive“収録曲"Time Baby II"をCocteau TwinsのRobin GuthrieとElizabeth Fraserがリミックスした“Time Baby III“を含む6曲を収録したミニ・アルバム"Sounds Of Medicine"をリリース。“Time Baby III“は、映画「The Crow」のサウンドトラックに収録され、本人達は映画にカメオ出演しています。この頃になると、サウンド志向は、完全にデジタルな方向へとシフトしていきます。

[Her Highness] (1995)

1995年に3枚目のアルバム”Her Highness”をリリース。女性ヴォーカルルがメインの方向性を確立し、ギター・バンド然とした部分はあまり感じられない、ダウン・テンポなビートのエレクロトニック・ポップが展開される作品で、高音鋭角ギターはあまり聴かれません。この路線も良いのですが、初期のインパクトと比べてしまうと...。やはり音楽性の変化に対応できなかったメンバー間の軋轢が生まれ、そのままバンドは解散しています。Brad Lanerは、バンド後期のサウンドに顕著だったデジタル系のソロ・ユニット"Electric Company"をはじめ、The Sugarplasticを脱退したJosh Lanerとの兄弟ユニットAMNESIAや、元TOOLのPaul D'Amourと結成したバンドLUSKなどでの活動にシフトしています。2003年に突如として、ブルース・リーの娘であるShannon LeeとのデュオとしてMedicineを再スタートさせますが、間もなく活動を終了。この頃になると、既にバンド時代の面影は消えてしまっていて、インダストリアル・ユニットと化しています。2013年にはオリジナルに近いメンバーで再結成し現在も活動中です。現在のサイケデリックなインダストリアル・サウンドも悪くは無いですが、やはり全盛期の様な冴えは無かったかな...。

寄せ集めバンドが悪い訳では無いのだろうけど、あまりにも独裁的だと、バンドの方向性を見誤ってしまう。現在でも評価され続けている初期2作の輝きが失われたのは勿体ない気がしますが、こうやって音源として残っているのだから幸せなものです。今回は、彼らのデビュー・アルバムに収録された、鋭角ノイズギターの変幻自在な絡みと、女性ヴォーカルによる親しみやすいメロディが同居した、バンドの可能性を感じさせたこの曲を。

"Sweet Explosion" / Medicine

#忘れられちゃったっぽい名曲


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