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"MIRACLE LEGION"の事。

自分たちのやっている活動やアートが理解されないというのは、あまりにもツライのだろうと思う。こと音楽に関しては様々なスタイルやジャンルがあり、その中でもバンドの個性、方法、センスによって様々な表現の方法があり、千差万別。多くの人に認められて愛されるアーティストがいれば、あまりパッとしないアーティストもいる。でも、有名じゃなくっても、セールスもパッとしなくても、音楽業界にうんざりして解散しても、同期や後発のミュージシャン達にリスペクトされ、愛され続けているバンドだっている。このMiracle Legionなんて、正にそれでした。

[The Backyard] (1984)

Miracle Legionは、ヴォーカル/ギターのMark Mulcahy、ギターのRay Neal、ドラマーのJeff Wiederschall、ベースのJoel Potocskyからなる4人組でした。結成は1983年、アメリカはコネチカット州ニューヘヴンでの大学生の集まりからスタートしました。SaucersというバンドをやっていたMark Mulcahyと、Dumptruckの前身バンドにいたRay Nealが出会い、QueenとGunclubが好きというところで意気投合し、何かやろうか?というノリで、4トラック・レコーダーで作ったデモ・テープ”A Simple Thing”が大学のラジオで評判になります。公式のデビュー・シングルである"The Backyard"をDumptruckも在籍する地元のローカル・インディ・レーベル、Incas Recordsからリリースすると益々評判が上がり、メンバーを集めてバンド形態となってライヴ・サーキットを行います。当時のアメリカのカレッジ・ラジオ・ネットワークの影響は絶大で、地方の大学のバンドであっても、大学ラジオでオンエアされればアメリカ全土の知名度が上がって、各所にツアーが可能だった。CBGBを含む過酷なツアーでギグを重ねるた彼らは、ライヴ会場にRough TradeのJeff Travisが直接コンタクトに来て契約していったそうです。契約を熱望したJeff Travisは、The Smithsのファンだった二人のためにリリース前の"Strangeways, Here We Come"の音源を手土産に持ってきたという逸話が残っています。

[Surprise Surprise Surprise] (1987)

1987年にRough Tradeからデビュー・アルバム"Surprise Surprise Surprise"をリリースしています。同時期に活動していて共演もしているR.E.M.と、どうしても比較されてしまう彼らのサウンドですが、アメリカン・フォークの埃っぽいギター・サウンドには共通項を見出すことは可能ですが、彼らの場合は外に出ていくというよりは中に籠るような感覚の、どこか哀愁を感じさせる内省的なサウンドが、英国音楽に憧れたアメリカの若者が出す音だなという感じで、あまりクッキリとさせないメロディ・ラインが特徴です。1988年にはミニ・アルバム”Glad”をリリースしています。A面に新録を3曲、B面にニューヨークのRitz Ballroomでのライヴ・レコーディングを収録、Pere Ubuがゲスト参加したテイクを1曲含みます。この頃、バンドメンバーが相次いで脱退し、再びMark MulcahyとRay Nealのデュオとなります。この頃、アメリカをツアーしていたThe Sugarcubesのツアーに同行しており、彼らとのツアー体験はスリリングで素晴らしかったと、後に語っています。

[Me and Mr. Ray] (1989)

1989年にはアルバム"Me and Mr. Ray"をリリースしています。PrinceのPaisley Park Studioでレコーディングされたこの作品は、基本的にMark MulcahyとRay Nealのふたりで演奏され、殆どがギター、ハーモニカ、ヴォーカルとアコースティックで音数を絞った叙情的なサウンドが特徴で、以前は、あまり前面に出ていなかったメロディ・ラインとコーラスの良さが際立つ味わい深い作品となっています。同年に新メンバーとして加入したドラマーのDavid McCaffreyとベーシストのScott Boutierも一部で参加している様です。同作収録で、彼らの代表曲となる"You're the One Lee"をシングル・カットすると、PVが作られてMTVでローテーションされました。このシングルでは、先のThe Sugarcubesのメンバーがサポートしています。

[Drenched] (1992)

再びバンド編成となった彼らは、映画制作会社Morgan Creek Productionの音楽部門レーベルMorgan Creek Musicと契約します。これがケチのつき始めになろうとは...。同レーベルから、Bryan Ferryや、憧れのThe Smithsを手掛けたJohn Porterがプロデュースしたアルバム”Drenched”を1992年にリリースしています。再びバンド・サウンドを得て、ヴォーカルやギターも含めてカラフルでポップなサウンドが炸裂する作品です。いきなりの変化には驚かされますが、アップ・テンポな曲から、テンポを落としたアコースティック・チューンまで緩急のあるヴァラエティに富んだサウンドが素晴らしく、今作でも流れるようなメロディ・ラインが印象的で、前作での最少編成でのレコーディングの経験が活きているのかと思われます。自身のルーツであるアメリカへの回帰を感じさせた作品でもあります。

[Music From The Adventures of Pete & Pete / Polaris] (1999)

元々映画配給会社が親会社のSadle Creekが、映画とサウンドトラックのみの運営へと変わっていく中で、Miracle Legionとの契約が問題になってきます。彼らと音楽志向が近いR.E.Mの様な大ヒットを期待していたSaddle Creekとの軋轢と契約トラブルが発生し、バンド活動が出来ない状況に陥ってしまう事態に。そんな頃、「ニコロデオン」の人気TV番組"The Adventures of Pete & Pete"を製作したWill McRobbとChris ViscardiがMiracle Legionのファンだったため、バンドにオリジナル・シリーズの音楽を依頼します。レコード会社とのトラブルにうんざりしていたRay Nealを除くメンバー、Mark Mulcahy、Dave McCaffrey、Scott Boutierがプロジェクトに参加し、バンド名は使えないために別ユニットとしてPolarisを名乗り、"The Adventures of Pete & Pete"の音楽を3シーズンに渡って担当しました。TV番組の音楽といってもヴォーカルをフィーチャー、バンドとしてのMiracle Legionのカラフルなサウンドと、キャッチーなメロディが次から次へと飛び出す楽しい内容です。これらの曲は、アルバム"Music From The Adventures of Pete & Pete"としてMarkが設立したMezzotintレーベルからリリースされています。

[Portrait Of A Damaged Family] (1996)

レーベルとの問題が解決した1996年にアルバム”Portrait Of A Damaged Family”を、同じくMarkのレーベルMezzotintからリリースします。レコード会社やマネジメントの束縛から解放され、小さな倉庫をレコーディング・スタジオとして録音した今作を制作していた時、非常に有意義で幸せな時間だったとメンバーは語っていますが、今作をバンドとしてのラスト・アルバムとしています。ほぼ自主で制作したとは思えない、カラフルでヴィヴィッドなバンド・サウンドと、TV番組の音楽を手掛けた事で培った様々な楽器によるユニークでポップな音の実験、そして魅力的なメロディとヴォーカルとコーラス・ハーモニーが素晴らしい作品です。これで最後なんて勿体ない!バンド解散後、Mark Mulcahyはソロ名義と映画やミュージカルのサウンドトラックなど多数の良質な作品を作り出し、Ray Nealはスコットランドに渡ってソロ名義で活動、Dave McCaffreyとScott Boutierは、Frank Black And The Catholicsのメンバーとなりました。

[Annulment] (2016)

バンドは2016年に”Portrait Of A Damaged Family”がレコードストア・ディに再リリースされたのを記念するツアーのために再結成し、ライヴ・アルバム"Annulment"をMezzotintからリリースしました。Mark Mulcahy、Ray Neal、Dave McCaffrey、Scott Boutierという後期メンバーによる、久々とは思えない軽快でダイナミックでカラフルで緩急のあるバンド・サウンドと、活発なヴォーカルとコーラス・ハーモニーの応酬が繰り広げられる楽しいライヴで、2枚組CDに全25曲のヴォリュームながら、馴染み深い曲が並んでいて飽きさせない作品です。

[Ciao My Shining Star: The Songs of Mark Mulcahy] V.A. (2009)

Miracle LegionとソングライターのMark Mulcahyが作り出した楽曲は、数々のミュージシャンから愛されていました。2008年に、妻Melissaに先立たれてシングル・ファーザーとなり、子育てと音楽活動を両立させねばならないMark Mulcahyを支援するために、2009年にトリビュート・アルバム"Ciao My Shining Star: The Songs of Mark Mulcahy"がリリースされています。今作には、Michael Stipeがソロで、Frank Black、Thom Yorke、Dinosaur Jr.、The National、Mercury Rev、過去に彼らと共演したPere UbuのDavid Thomas率いるRocket from the Tombsといった錚々たる面々が参加して彼の楽曲をカヴァー、Mark Mulcahy自身も作品の出来を絶賛しています。どの曲も愛に溢れた素晴らしいもので、制作された経緯も去ることながら、いかに愛されていたバンドかという証明でもありました。

初期の作品もいいんですが、今回は、彼らが紆余曲折や危機を乗り越えて息を吹き返した3作目のフル・アルバム”Drenched”に収録されたカラフルなサウンドと良質なメロディが冴えるこの名曲を。

”So Good" / Miracle Legion

#忘れられちゃったっぽい名曲


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