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”BUFFALO TOM"の事。

不動のメンバーで何年も活動するのは容易な事では無くて、こと音楽に関しては特にそうだと思います。音楽性の違いだったり、お金の問題だったり、心の問題だったり、色々とあるのでしょうが、夫婦や兄弟の仲までも引き裂いてしまう、創作するということの恐ろしさを感じます。でも、長く活動しているにも関わらず、あまり陽の目を見ないバンドも星の数ほどいます。マイナーでも熱心なファンがいてくれるとは思いますが、一度でもブレイクしないと過小評価されてしまう世知辛い音楽業界。マーケティングの間違いか、時代に合わないのか、妙なレッテルを貼られたせいか...。そう、例えば、このBuffalo Tomなんてどうでしょう。

Buffalo Tomは、アメリカはボストン出身の3ピース・バンドです。結成は1986年、 ギタリストのBill Janovitz、ベーシストのChris Colbourn、ドラマーのTom Maginnisの3人は、地元マサチューセッツの大学時からの仲の良い友人で、自然な流れで意気投合してバンドとして活動を始めます。バンド名の由来は、メンバーが敬愛する”Buffalo Springfield”にドラマーTomの名前を混ぜたものだそうです。

[Crawl] (1989)

1989年にデビュー・シングル"Sunflower Suit"をオランダのインディ・レーベル「Megadisc」からリリースしています。何故オランダ?と思いますが、このレーベルは、以降のBuffalo Tomの作品を1998年までライセンスも含めてリリースしています。2枚目のシングル"Enemy"は、Saint EtienneのBob Stanleyの趣味的なファンジンと、限定500枚の7インチをリリースするレーベル「Caff Corporation」から。このレーベルは、The Field MiceやAnother Sunny DayのSARAH勢やClose Lobsters , Razorcuts , Manic Street Preachers、そして結成間もないGalaxie 500の作品などをリリースしており、そんなセンスの良いレーベルのラインナップに2枚目で加わっているのは非常に名誉では。3枚目のシングル"Crawl"もMegadiscから。このシングルは、交友関係のあるDinosaur Jr.のJ Mascisがプロデュースしています。このコラボレーションは、2枚目のアルバムまで続きました。これが、バンドの運命を良くも悪くも変えてしまう事になるのでした。

[Birdbrain] (1990)

同年にデビュー・アルバム"Buffalo Tom"をリリースして本格的にデビューしています。リリースは、Dinosaur Jr.も所属していたアメリカの大手インディ・レーベル「SST Records」からで、ヨーロッパでは「Megadisc」からリリースされています。次のシングル"Birdbrain"で、UKの大手インディ「Beggars Banquet」のサブ・レーベルであった「Situation Two」と契約しています。1980年代中盤~後半位の時期に、Dinosaur Jr. , Sonic Youth ,  Pixies , Throwing Musesといったアメリカのオルタナティヴ系のバンドが「Blast First」「4AD」「Rough Trade」などからUK向けのマーケットに次々と送り込まれ、本国のロックとは異なる粗削りでノイジーでヘヴィなサウンドがウケて人気を博した時代、彼らもそういったバンドと同様に売り出された感じか。1990年にはセカンド・アルバム”Birdbrain”をリリース。ここまでをJ Mascisがプロデュースしています。そのため「Dinosaur Jr.の弟分」という有り難くないレッテルを貼られてしまった。彼らのルーツであろうメロディアスなフォークは控えめで、ノイジーなサウンドが全体を支配していました。しかし、突き抜けている感には乏しく、「Dinosaur Jr.の弟分」を期待するレーベルやファンには、中途半端な印象を与えてしまったのかも知れません。本人達も本意では無かったのか、今作を最後にJ Mascisとのコラボレーションを終了しています。メンバーは、Jに感謝の意を語っていますので、友好的なものだったと思われます。

[Let Me Come Over] (1992)

1992年には3作目のアルバム”Let Me Come Over”をリリースしています。ルーツ・ミュージックを取り入れた泥臭くも活き活きとしたサウンドで、ノイジーなサウンドが若干ですが後退し、バンドが自身のサウンドに自覚的になった記念碑的な作品です。1993年には4作目のアルバム”Big Red Letter Day”をリリースしています。前年に閉鎖となった所属レーベルSituation Twoの親会社である「Beggars Banquet」からのリリースでした。今作も、前作同様に泥臭いフォーク・タッチとノイズギターが絡み合う好アルバムでした。今作収録のシングル”Sodajerk"は、TVドラマ「アンジェラ 15歳の日々」で使用されてバンド最大のヒットとなりますが、アルバム自体は全米チャートの185位止まりでした。

[Sleepy Eyed] (1995)

1995年には5作目のアルバム"Sleepy Eyed"をリリースしています。今作で、以前からのバンドへの過度な期待を払拭するかのように、ノイジーなオルタナ・バンド然としたサウンドを控え、ルーツ・ライクな雰囲気を前面に出し、どこかノスタルジックでアーシーで懐が広く、いい意味でコンパクトなサウンドを核に、親しみやすいメロディ・ラインが絶妙に絡み合う、彼らの目指すサウンドが頂点に達したかの様な傑作アルバムとなっています。が、やはりチャート・アクション的には奮いませんでした。何故かオーストラリアではヒットした様で、そう言えば、3作目のアルバム”Let Me Come Over"のジャケットには、オーストラリアのアボリジニのストックマン(カウボーイと同じ様な意味)がフィーチャーされていますので、彼らのルーツ・ミュージックがアメリカではなくオーストラリアにあり、その辺りを証明したのかなあ、と妙に腑に落ちた感じがしました。

[Fire and Skill: The Songs of the Jam / V.A.] (2000)

2000年には、The Jamのトリビュート・アルバム"Fire and Skill: The Songs of the Jam"に参加、彼らのヴァージョンの”Going Underground”は、アルバムの中でも出色の出来である素晴らしいカヴァーでした。この曲は、シングル・カットされて英国チャートの6位にランクされています。このシングルは、Liam Gallagher(Oasis)とSteve Cradock(Ocean Colour Scene)のコラボレーションによる"Carnation"のカヴァーとの両A面シングルだったので、これがヒットの要因だと思うんですが、Buffalo Tom自体と、素晴らしいカヴァー・ヴァージョンも注目されたので、これはこれで喜ぶべきかなとは思います。本人たちの真意は分かりませんが...。

[Smitten] (1998)

ヴォーカリストのBill Janovitzは、1997年にソロ名義でのアルバム" Lonesome Billy"をリリースしています。アルバムには、Calexico / Giant SandのJoey BurnsとJohn Convertinoが参加しています。1998年には6枚目のアルバム"Smitten"をリリース。このアルバムを最後に「Beggars Banquet」との契約を失った彼らは、活動休止状態になります。その間、Bill Janovitzは、再びソロ活動を行い、2001年に"Up Here"、2004年に別ユニット"Crown Victoria"名義でアルバム”Fireworks on TV!”をリリースしています。

[Three Easy Pieces] (2007)

もうダメかも...と思われた2007年に、バンドは不動の3人で活動を再開し、完全復活作となる7枚目のアルバム"Three Easy Pieces"を同年にリリースしました。アメリカはナッシュヴィルのルーツ系が中心のレーベル「New West Records」からのリリースでした。その後、South by Southwest Music Festivalへの出演を皮切りに、ワールド・ツアーも行いました。

[Skins} (2010)

2010年には8枚目のアルバム”Skins”を自身のレーベルである「Scrawny Records」からリリースしています。ゲスト・ミュージシャンによるヴァイオリンやマンドリンをフィーチャーしたこの作品は、彼らのルーツ・ミュージックへの傾倒が顕著で、遂に自身の目指す作品を作り上げたと思える傑作アルバムです。元Throwing MusesのTanya Donellyがヴォーカルでゲスト参加しています。その後、何も動きが無く、再び音信不通状態に入のでは、と心配しましたが、2年の歳月をレコーディングに費やしていたみたいで、通算9枚目となる意欲作、アルバム”Quiet and Peace”を2018年にリリース、現在も活動しています。

レコード会社やリスナーの過度で勝手な期待を、常に裏切ってきたバンドというレッテルを貼られてしまったバンドですが、自主リリースとなって初めて到達点と言える場所に辿り着いた感のある彼ら、これからもマイペースに活動して欲しいものです。今回は、1995年の5作目のアルバム"Sleepy Eyed"収録、オルタナティヴ系に寄せざるを得なかった彼らが、自身のルーツ・ミュージック志向との狭間で揺れ動いた時期に生まれた、珠玉のメロディと小気味良いギター・サウンドが魅力的なこの曲を。

"Summer" / Buffalo Tom

#忘れられちゃったっぽい名曲


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