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ヴィジョン クエスト 2

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「君、君は聖なる力が欲しいかい?」
蛙が尋ねた。
「僕が?聖なる力?もちろん!もらえるもんだったら」
「それじゃあ、かがめるだけ低くかがんで、跳べるだけ高く跳んでごらん。
君の聖なるものが見つかるよ」
小さいネズミは言われた通りにした。
かがめるだけかがんで、思いきり跳んだ。
跳び上がったとき、彼の目は聖なる山をとらえた。

~~ジャンピングマウスの物語より

その土地は、元々、スポカン族の聖地でした。
80年代に、一人のネイティブアメリカンのスピリチュアルリーダーが現れ、そこにコミューンを開きました。
リーダーの死後、コミューンは次第にバラバラになって行き、私達が、ヴィジョンクエストをしに、そこを訪れたときには、老婆が二人と、元森林警備隊の若い男性と、ドイツからそこへ移り住んだという若い女性の4人がそこに住んでました。

到着後、明日から、その二人の老婆~ベスとムーンディア~が、私達のヴィジョンクエストの世話役として色々教えてくれること、今日は、このあと夕飯を食べて、夜はネイティブアメリカンのお祭り「バウワウ」の見学に、若い女性~ペトラ~が、みんなを車に乗せて連れて行ってくれることを告げられました。

夜になり、ペトラの車に全員乗り込んで、バウワウに向けて出発すると、同行メンバーの一人の女性がペトラに質問しはじめました。

「ペトラもヴィジョンクエストをやったことがあるの?」
「もちろん!」
「どんな体験だったの?」
「とても一言では言えないけど、最終日の朝に空に7重の虹がかかったの。
それで、私に
『オーバー ザ スカイ スルー レインボー』
という名前が与えられたのよ!」

同行した翻訳家の人が通訳してくれた内容を聴いて、みんな、アメリカの大自然のスケールのデカさにビックリすると同時に、その、あまりにもミュージカルっぽい名前が、金髪に青い目の彼女にピッタリな感じがして、思わず笑い声が車内に溢れました。

そのとき、バックミラーごしにペトラと目が合って、彼女が私に向かって何かペラペラと喋りました。

翻訳家の人に、
「今、ペトラ、何て言ったの?」
と聞くと、
「『あなたは、何か怖れているように見えるけど、怖れることはないのよ』って」

怖れる?誰が?この俺が?
この機会を、どれ程楽しみに、はるばる日本からやって来たか!
今日、会ったばかりで何が分かる?

思いもかけぬ言葉に、湧いてくる怒りをグッと堪え黙っていると、ペトラがまた何か喋りました。

「『気にしないでね』って言ってるよ」

以来、ペトラとは何となく気まずい関係になりました。

翌朝から、ベスとムーンディアによる、ヴィジョンクエストを行うための様々な儀式や、サバイバルの実習、ネイティブアメリカンの智恵の学びが始まりました。

メディスンホイール~聖なる輪の教えから始まり、森の中での薬草の見分けかた、森の歩き方、ガラガラヘビや、熊に会ったときの対処方etc.

暗闇の中で、明かり無しで山に入り一晩過ごす実習のとき、私は、地元のネイティブアメリカンが古くから月の儀式をしていたという岩山で過ごしたのですが、初めて精霊(スピリット)に出会いました。

例えるなら、ムーミン谷のニョロニョロが、人の2倍くらい大きくなったような存在。
恐ろしくて、ガタガタ震えながら、
「早く帰ってください!」
と、ひたすら手を合わせて拝むと、いつの間にか消えてしまいました。

後で、ムーンディアとベスにその話をすると、
「実に惜しいことをした」
と嘆かれました。
もし、そのときに何か精霊に贈り物をすれば、精霊はお返しに、何かギフト~聖なる力(メディスン)を授けてくれたはずだ、と言うのです。
もう一度会ったとしても、恐ろしくて、とてもそんなことできそうにありませんが。。。

準備期間を終えて、いよいよヴィジョンクエストに出発する朝が来ました。

前の日の夜に、ムーンディアとベスから、こう告げられていました。

朝、目を覚ましたら、一言も口をきかず、石で作った聖なる輪の所まで来ること。
来たら、輪の中に入ると、ムーンディアとベスがセージの煙と鷲の羽で、念入りに清めてくれる。
清め終わって、輪の外に出れば、ヴィジョンクエストを終えて、再び輪の中に入るまで、
『見えない人』
となる。
貴方の姿は、誰の目にも見えないものとして扱われる。
輪の外に出て歩きだしたら、目的地に着くまで決して振り返ってはならない。

輪の外に出て、予め決めておいた、山の中の場所へ向かって歩き出しました。
絶対に、振り返らず、真っ直ぐ前だけを見て。。。

しばらく歩くと、山へ続く道の傍らの木の下に、ペトラが立ってました。
ニコニコしながら、こっちを見て。
そばを通りすぎるとき、小さく手を振って。。。

『俺は今、見えない人なんだけど。。。』

と心の中で思いながら、彼女には一瞥もくれてやらず、真っ直ぐ前を見て、歩き続けました。

~続く

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