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ヴィジョン クエスト 4

~この地上に住む二人の人間に、何か共通するものがあるとしたら、それは孤独にほかならない。
孤独はわれわれの成長の糧にもなれば、争いの種にもなる。愛も憎しみも、むさぼりも寛容も、すべてわれわれの、必要とされ愛されたい思う孤独な心の中にあるのだ。
われわれがその孤独から抜け出せる唯一の方法が、ふれることだ。
~ヘェメヨースツ・ストーム『セブン・アローズ 聖なる輪の教え』

4回の夜を越え、朝が来ました。
確かに4回越えた事を、1つ夜を越す度に1本づつ毛糸を結んだ、手元にある木の枝が示していました。

。。。帰らなくっちゃ。

結界を作っていた小石の輪を、一つずつ、丁寧にお礼を言いながら、その石が行きたい(のではないかと思う)場所へ置いてバラバラにしました。

期待していたような事は、何も起こりませんでした。
予想もしなかった事が起こりました。
ヴィジョンのようなものも見ました。

けど、私にとって一番大きな出来事は自分の
『怖れ』
に直面した事でした。

4回目の朝日に照らされたときに、ようやく分かったんです。

私は『名前がもらえない事』が怖かった。

ペトラは、それを最初に会ったときに見抜いてたんです。

最後までやり抜いて、ようやく、
「もういいや」
と思えました。

もういいや、名前なんかもらえなくても。

聖なる山と、目の前に広がる憧れのアメリカの風景と、空と森とに、
そして、(その朝は、姿を見せなかったけど)ずっと支えてくれた、例の2匹のハエに、
「ありがとう」
と告げて、山を降りました。

山を降りて、二人の老婆の元へ向かいました。
この旅に同行した翻訳家の人が通訳をしてくれて、二人は、ニコニコしながら私の話を聞いてくれました。

4日の間に何が起こったか、私が逐一話終えると、しばらくの間を置いて、ベスがいつもの、ゆっくりとした口調で、
ハエは強力なメディスンであること。
最初の日からそんな友達ができたなんて、お前は本当にラッキーだね、と言ってくれました。

それだけ?

僕も、ニコニコしました。

やっぱりね。

「ありがとう」

と言って、老婆の元を去りました。

これでいいんだ!これでいいんだ!
何か楽になっちゃたな俺。

そんなことを思いながら、外を歩いてると、大きな木の下で、ペトラがビーズ刺繍の革細工を作っていました。彼女は、町の土産物屋でそれを売って生計を立てていて、午前中はいつもその場所で、作業するのが日課でした。

彼女は僕を見て手を振ってくれました。

僕も彼女に手を振りました。

彼女を見て、どうしてもお礼が言いたくなったので、急いで自分の荷物を置いてあるテントまで行って、リュックの中から、何故か荷物の中に放りこんで持って来ていた綺麗な藍染めの布を持って戻りました。
その頃、今よりももっと英語の出来なかった僕ですが、片言の英語と身振り手振りで、懸命に考えて伝えました。

「あなたが、バウワウへ行く車の中で私に言った事は、間違ってなかったです。
ナイス アドバイスでした。
ありがとう
これは、あなたへのお礼の品です
今まで、避けててゴメン」

と言って、彼女にその布を渡しました。

彼女は、
「サンキュー!」
と言って、その布を受け取ってくれました。
気は心、いや、ずっと俳優やってきたんだし、伝えようと思えばボディランゲージで何だって伝えられるんだ。
彼女は何か言いかけましたが、少し考えて、身振り手振りで
「ちょっと待ってて」
と言って、走っていくと、例の翻訳家の人を連れて戻って来ました。

そして、私の目を真っ直ぐ見て話始めました。

「私も、あなたに贈り物が有ります」

「私は、あなたの名付け親になるよう言われました。
あなたが、山へ行ってからずっと、あなたの名前を考えていたのよ。
あなたに名前をあげるのは私の役目なの」

ハンマーでぶん殴られたような衝撃でした!
名前!名前?
まさか?!ペトラが!?君が!!俺に!!

「あなたの名前は、アース ウォーリァ
~大地の戦士~です」

衝撃、覚めやらず、口をぽかーんと開けたままの私の胸に手を当てて、ペトラは続けて言いました。

「忘れないでね。戦士の戦う相手は常に自分の内に居るのよ」

。。。あの時から、もう25年以上の歳月がたちました。
それから何日か後に、日本から来た僕ら一行は、コミューンの地を去りました。
ペトラとは、それ以来会ってません。
コミューンの森も山も今どうなっているか分かりません。
別れ際に彼女がくれたターコイズストーンは、今でも一番大切な宝物として大事にしています。

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