まじ☆すと14かいめ Day2 Round3:エニィ(テーロス)vs.藤月かごめ(日本)

コントロールとアグロ、どちらが有利か。
デッキタイプによっても変わるが、かつては準備の整う前に攻め切れるアグロが有利と言われていたものだ。

現代マジックにおいて、コントロールはライフゲインのついた強力カードと軽量の妨害手段を手に入れ、アグロに対する防御力を急激に上げた。ウーロオムナス期はその極地と言えるだろう。

さて、ではそれを反省してデザインされた環境である機械兵団スタンダードではどうだろうか。その一つの結果を見てみよう。


藤月かごめ(色狂いゆかり)はニコニコ動画で活躍する投稿者だ。
自身でも色狂杯という大会を主催し、毎回変わったルールでリスナーと参加者を楽しませている。

対するエニィ・ターゲットも胡乱なフォーマットにはこだわりのあるプレイヤーだ。

胡乱フォーマットならではの悩みを語りつつ、対戦の準備を進めていく。

変わったフォーマットを好むからといって真っ当なフォーマットが弱いなんてことは全くない。
藤月も前回13かいめにて決勝進出を果たし、シードまで獲得した強豪だ。
エニィも藤月もまだ決勝権利獲得の芽は十分にある。
勝利を求めて、二人はプレイのボタンを押した。

ゲーム1

先攻を取ったのはエニィ。これはまさに天の助けと言えるだろう。
エニィのデッキは他のものより「少しばかり」先攻の恩恵が大きい。
藤月はそれをすぐに理解することになる。

エニィの1t目の動きは山、そして《僧院の速槍》!

この動きをするデッキで真っ先に浮かぶ候補は…。

環境最速のデッキ、赤単だ。

19。

1ダメージを喰らいつつ、ターンを受け取る藤月。
こちらは《ジェトミアの庭》タップインで終了。

2t目、エニィはさらに《血羽根のフェニックス》を追加してコンバット。
《速槍》の切先がまた1点を刻む。

18。

藤月はまだ静かだ。今度は《ラフィーンの塔》をタップイン。

いや待て。5色?

ここでエニィは確信を得る。
このデッキ、長期戦になっては勝ち目はない。
まだ形は特定できないが、何かしらのコントロールやコンボ、特に《アトラクサ》を使うものだろう、と。

ターンをもらい、さらに《フェニックスの雛》を2体追加してコンバットへ向かう。
土地は止まっている、だがこのデッキは2マナもあれば動けるデッキだ。
今は迷っている暇はない。少しでもダメージを与え、速やかに焼き切る。それだけだ。

だがここで初めて藤月が動く。
白1マナから放たれるのは6マナのエンチャント!《力線の束縛》!

版図能力で場にある基本土地タイプの分コストが減るこのカード。
藤月の場にはトライオームが二種。
たったその2枚で、5つの基本土地タイプを網羅していた。
一番打点の高い《血羽根のフェニックス》を封じ込め、ダメージを3点に抑える。

17、16、15。

ここでエニィは相手が5色版図コントロールであることを確定させる。


藤月のデッキは版図コントロール。
いわゆるタップアウトコントロールに近い動きをし、自ターンで強力なカードを叩きつけることで勝利をもぎ取る。
打ち消しをメインデッキに採用しないケースが多く、軽い除去も《力線の束縛》と少数の除去呪文。序盤の妨害は薄い。
しかし、ひとたび自分の動きがスタートすると、圧倒的アドバンテージで敵を押し潰す。
序盤にいかに削り取れるかが勝負の鍵となるだろう。


返しのターン、藤月は森をセット。
タップイン土地の多い版図でアンタップインを優先したということは何かを構えたということだろうか。
静かな緊張感が漂う。

続いてエニィ。この環境の赤を代表するカードと言ってもいいだろう、《鏡割りの寓話》をキャスト。
高速を突き詰めた赤単にはメインから入るものではない。
ただ、エニィのデッキにはマスターピースとなるカードだ。


ここでエニィのデッキにも触れておこう。
エニィのデッキは《タルキールへの侵攻》をフィーチャーした赤単。
バトルを裏返しやすいように大量の飛行戦力を擁している。
先に出てきたフェニックスたちのほか、《シヴの壊乱者》も限界まで取られており、人間や兵士で埋め尽くされた地上を無視して空からの奇襲を仕掛けることが可能だ。
《鏡割りの寓話》は、フェニックスを墓地に送ることでルーティングを有効活用し、宝物によるマナは《シヴの壊乱者》のXマナに充てられ、《キキジキ》になれば《タルキールへの侵攻》の裏面、《果敢な雷口》をコピーして壊滅的なダメージを与える。
全ての章がこのデッキにマッチしているのだ。


ここで藤月、一つ賭けに出る。
《鏡割りの寓話》にスタックで《影の予言》をキャスト。
2点を失いながら何かを探しに行く。

Shadow Prophecy / 影の予言 (2)(黒)
インスタント

版図 ― あなたのライブラリーの一番上にあるカードX枚を見る。Xは、あなたがコントロールしている土地の中の基本土地タイプの種類数に等しい。そのうち最大2枚をあなたの手札に加え、残りをあなたの墓地に置く。あなたは2点のライフを失う。

14、13。

全体除去か、勝負を決めるフィニッシャーか。
しかし、マナは立っていない。
果敢の乗った《速槍》とフェニックスたちの攻撃が通る。

12、11、10、9

ついにライフは一桁となった。
ここで返さないともはや次はない。
藤月、ここに来て必勝の1枚を繰り出す。
《怒りの大天使》。優秀なスタッツに絆魂と飛行を備えたクリーチャー。

キッカーを払うことで絆魂付きの火力を放つことも可能だが、小粒クリーチャーを止めるにはただ立っているだけで十分だ。

エニィの盤面はこれで完璧に止まった形となる。
ただ殴ったところでクリーチャーを失い、むしろ回復される。
藤月はこの状況をしばらく続ければ体勢を立て直し、赤単の小さきものたちにはとても敵わない切り札を繰り出すだろう。
手札に解決策はない。
今度はこちらが探しに行く番だ。

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神にも判官贔屓はあるのかもしれない。

先ほどは藤月に《怒りの大天使》という使者を送った神は、一転して窮地に立ったエニィにも恵みを与えた。

ドローした1枚は、《ナヒリの戦争術》。

神の如き旧世代PWのタクティクスは、天使の怒りを上回ったようだ。

道を塞ぐ天使は焼き払われ、そこをクリーチャーが走る。

8、7、6、5、4...3。

藤月に、これを覆す1手はなかった。
再びエニィが攻撃の号令をかけると同時に、ライフカウントはストップした。

エニィ・ターゲット 1-0 藤月かごめ

ゲーム2

ゲーム2、後攻となったエニィは悲しきダブルマリガンスタート。
しかし、その分ハンドはいい。相手の妨害の数にもよるが、十分焼き切れそうだ。

藤月も7枚のハンドをキープし、順調にトライオームを並べていく。

エニィは《火遊び》の占術効果でなんとか土地を確保し、キーカードに向けて準備する。

そして、2t目に藤月がトライオームをタップインした隙をつき、自身のデッキの旗となるカードを高らかに掲げる。

《タルキールへの侵攻》!

場に出た際に見せたドラゴンの数+2ダメージを一つの対象に与えるバトルカード。
これだけでは大抵の場合《ショック》の下位互換だろう。ソーサリータイミングで、ドラゴンが都合よく見せられるとも限らない。

しかし、その実力は裏面に変身することで開花する。

裏面は4/4飛行、ドラゴンが攻撃するたび一つの対象に2点のブレスを放つ。一度ひっくり返れば次の《タルキールへの侵攻》も簡単に裏返り、連鎖的にダメージが増えていく。

ターンをもらった藤月はいったん《強迫》で《稲妻の一撃》を落として様子を見る。
その際に見えたもう一枚の手札は《焼炉の懲罰者》。
基本土地を2枚以上コントロールしていない相手に毎ターン2点を飛ばす、多色環境に待ったをかける番人だ。

当然次のターンにエニィはこれをキャスト。
《稲妻の一撃》とアタックを組み合わせてバトルを即座に裏返すことは阻止されたものの、これが生き残ればそれだけでも5色デッキの藤月は毎ターン2点の代償を支払うことになるだろうと確信していた。

しかし藤月、ここで《群れの渡り》を起動する。

足りない基本土地のサーチにライフゲインで序盤を支え、終盤は呪文として唱えることでフィニッシャーを担う、《力線の束縛》とともに版図デッキを成り立たせている一枚だ。

さらにはサーチした土地を置いて唱えるは《黄昏の享楽》。

Sunset Revelry / 黄昏の享楽 (1)(白)
ソーサリー

対戦相手1人のライフがあなたより多いなら、あなたは4点のライフを得る。
対戦相手1人があなたより多くのクリーチャーをコントロールしているなら、あなたは白の1/1の人間(Human)クリーチャー・トークン2体を生成する。
対戦相手1人の手札にあるカードがあなたより多いなら、あなたはカード1枚を引く。

このターンだけで7点のライフを回復した藤月。
減っていたライフは初期値を超え21まで増える。

生き残った《懲罰者》で《タルキール》へアタックを仕掛け、守備値を下げるエニィ。
《懲罰者》の威迫はクリーチャーの少ない版図が止めるには難しい。
あと一撃。

続くターンも《群れの渡り》を起動し、平地をサーチする。
基本土地が2枚。これで藤月は《懲罰者》とはなかよしだ。
しかし、それ以上の展開はできず、ターンを回す。

エニィは今が好機と《タルキール》を攻撃し、遂に《果敢な雷口》が目を覚ます。
威迫の《懲罰者》と飛行の《雷口》。さらに《血羽根のフェニックス》まで追加して、ドラゴンたちは飛び立つときを今か今かと待っていた。

が、その矢先。

《底への引き込み》。

Drag to the Bottom / 底への引き込み (2)(黒)(黒)
ソーサリー

版図 ― ターン終了時まで、すべてのクリーチャーは-X/-Xの修整を受ける。Xは、あなたがコントロールしている土地の中の基本土地タイプの種類数に1を足した数に等しい。

藤月の唱えた呪文は、すべてを大地へと帰した。

トップから引いた《シヴの壊乱者》をX=4で唱え、攻撃を継続するエニィだが、そこに先程の試合のうっぷんを晴らすかのように《怒りの大天使》が激情を放つ。
ちょうど4点のダメージを食らった《壊乱者》は塵と消えた。

その後は藤月の独壇場だ。
引いてきたフェニックス軍団を並べても、《大天使》の絆魂の前に全ては無駄となる。

大地の癒やしの力に、ドラゴンたちは見事に受け流されてしまった。

エニィ・ターゲット 1-1 藤月かごめ

ゲーム3

序盤から《フェニックスの雛》によりアタックを仕掛けていくエニィ。
土地が止まった瞬間もあったが、なかなか順調だ。

…今思えばこの土地が置けなかった1ターンが勝負を決めていたかもしれない。

こちらのアタックを《黄昏の享楽》、《放浪皇》でいなす藤月。
もちろん順調に土地は伸びている。
結局大したライフも減らせないまま《底への引き込み》でリセットがかかる。

だが、クリーチャーの攻め手が消えたときのためにエニィは《レジスタンスの火、コス》をサイドインしていた。

《コスの奥義》は山を置くだけで好きに4点飛ばせるというもの。
土地のプレイという邪魔されない条件での火力はコントロールには致命傷となるだろう。

《コス》の忠誠度は着々と上がっていく。
藤月はライフゲインと一瞬の隙を見逃さないアタックにより《コス》の忠誠度を減らし時間を稼いでいくが、遂に奥義が起動してしまう。

藤月の場には《未認可霊柩車》が出ており、墓地を追放しながらパワーを上げていたが、エニィは比較的楽観視していた。
版図に《霊柩車》を乗りこなすサイズのクリーチャーは少ない。
急に走られる可能性は低いだろう。

エニィは忘れていた。
2戦目の勝負を決めたあのカードを。

《怒りの大天使》。

彼女は残っていたコスを焼き払い、《霊柩車》に乗り込んで大ダメージを与える。
なんとか《コス》の奥義によるダメージでこれを対処するエニィだったが…。

藤月の手にはもう一枚の《大天使》が握られていた。

エニィ・ターゲット 1-2 藤月かごめ

終わりに

今回の試合はなんとしてでもダメージを与える赤単と、それを回復し、抑え込む版図の対決となった。

1試合目のように回復が間に合わない速度で焼き尽くすこともあれば、2試合目のようにすべてを治癒し、封じ込めることもできる。

マジックに絶対はない。
細かなデッキのチューン、引き、プレイングによってデッキごとの差は変動する。

少なくとも今は、あらゆるデッキにチャンスがある良環境であると言えるだろう。
スタン落ちまであと数ヶ月。最後までこの環境を楽しみつくそう。

なんだったらスタン落ちしてもまたこのプールで対戦してもいいさ。
我々胡乱フォーマット研究会はいつでも君の好きな環境が作れるように努力している。

藤月かごめさんについて

動画投稿者、配信者。
ニコニコ動画にて「色狂いゆかりのMTGA動画」を投稿。
また、定期的に様々なルールで行われるニコニコ投稿者向け大会、「色狂杯」を主催。
次は5/13に機械兵団のタッグ統率者に限定したスタンダードブロールを開催予定。
ルールやカードの強さ、えっちなゆかりさんなど、様々なことに興味を持って行動するスタイルが魅力。

Twitter
https://twitter.com/C2Yukari

ニコニコ動画
https://www.nicovideo.jp/user/1301614

今回取り上げた配信アーカイブ

まじ☆すとについて

MTG Arena Streamer Tournament 通称『まじ☆すと』。
MTGAに関する配信者、動画投稿者、記事執筆者によるスタンダードBO3トーナメント。
14回目になる今回は42名が予選を争った。

二日目総合配信(眞白井エイドさんのチャンネル)
https://www.youtube.com/watch?v=qm9_p7gCS6U

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