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ドイツ版移動式遊び活動 "Spielmobile" を探る

ドイツではシュピールモビール(Spielmobile)と呼ばれる、遊具を広場に運搬して子どもの遊び活動を展開する取組が始動してから50年近くが経過している。現在この取組はドイツ全土に広がっており、活動に用いられる遊具や乗り物、運営主体、運営方法についても多様な形態に発展している。一方では、日本においても1980年代にこの考え方が導入された活動があったが、本格的な動きとなることなく終わってしまった。他方、日本における移動式の取組は元来、紙芝居をはじめ玩具図書館や移動児童館等、多様な形式によって運営されていた。ドイツをはじめ、欧米諸国で広く取り組まれる一連の移動式の遊び活動である『モバイルプレイ』は、今日の日本においてどの様に可能だろうか。本稿では、それを考えるヒントとして、2015年の3月から8月にかけて実施した調査を基に、ドイツ諸都市におけるモバイルプレイの事例をまとめた。

ドイツのモバイルプレイ概要

ドイツにおけるモバイルプレイには、搭載される遊具や、それを運ぶ乗り物だけでも複数の種類があり、また運搬の頻度や場所についても多様な形態がある。そこで、事例を見ていくにあたって、まずはモバイルプレイの前提を整理する必要がある。そのため、最初にモバイルプレイの歴史を簡潔に遡ってみたい。

モバイルプレイの歴史

最初のモバイルプレイの活動は、1970年の旧西ベルリンにおいて展開されたと言われている。9名の子どもを巻き込んだ深刻な交通事故に対する反省から、子どもたちに安全なあそび場を提供するための「実践教育」に関する組織が設立され、活動が始まった。なお、旧東ベルリンにおいては、1979年に近隣の子どもたちに外遊びの機会を提供することを目的に始まった取組が「シュピールヴァーゲン」(Spielwagen)と呼ばれる活動として旧東ドイツ諸都市に拡大していった。その他にドイツのモバイルプレイの起源として挙げられるのが、1972年にケルン市が運営を開始したユピ(Juppi)と呼ばれるモバイルプレイと、同年にミュンヘン市において芸術教育の活動家らによって開始されたプロジェクトである。1968年に世界各地で発生したデモや学生運動は、その主張も種々あったが、ミュンヘン市においては芸術教育や屋外環境の改善を訴える運動があり、その流れからミュンヘン市におけるモバイルプレイの活動が開始されたと言われている。

モバイルプレイの構成要素

次に、モバイルプレイを構成する要素について考えたい。多様な形態に発展したモバイルプレイにおいて、なおも一貫して共通していることとは何か。Zacharias [ⅰ]によれば、少なくとも次の特徴が共通している必要があると考えられる。

運営者(プレイワーカーなど)、乗り物(トラック、バス、乗用車など)、遊具が一体となって移動すること
準備地(倉庫など)と活動地を移動することで展開される「遊び空間」の継続的な更新と活性化の活動であること
そこで、以上の共通する特徴から、本稿においてモバイルプレイは「継続的な準備、運搬、実践のプロセスの繰り返しによって為される活動である」と定義づけ、以下においてはこの「継続性」、「準備(場)」、「移動」、「実践(場)」を主なモバイルプレイの要因として着目していく。

ドイツ諸都市の取組

この調査では、調査時点におけるモバイルプレイの状況を把握するため、2015年の3月から8月にかけてドイツ国内の16都市25団体11行政へのヒアリングを実施した。本稿では、以上に整理してきた着眼点に基づきながら、諸都市におけるモバイルプレイの取組について見ていく。

継続性に関する特徴のある活動

モバイルプレイ活動の継続のために重大な課題の1つとなるのは、継続的な活動資金の確保である。当調査においてヒアリングを実施した25団体の内、20団体が非営利活動の法人、3団体が有限会社、2団体が市の担当課であった。その内、24団体において行政予算から支出される資金が最も重要な活動資金となっており(なお、残る1団体はグループ企業内部において予算が賄われている)、行政のニーズに応えていくことが、継続的な活動資金の確保のための課題の一つとなる。

ドイツの連邦法では、青少年の福祉における規定として行政や支援団体による子どもの成育に必要な支援を定めており、その範疇に子どもの遊びに関する支援活動が含まれている[ⅱ]。したがって、行政は子どもの遊びに対する支援を充分に為すために予算を継続的に計上する必要があり、モバイルプレイの活動主体が行政との密な協議によって連携を図ることや、地域課題に対して継続的に取り組むことは当然のごとく必要となり、また社会課題に対する活動の成果を評価することも活動の継続に重要なファクターとなる。その他、活動の継続に向けた特徴的な取組を以下に紹介する。

ミュンヘン:シュピールランドシャフトシュタッド
ミュンヘン市において活動を展開するシュピールランドシャフトシュタッド (Spiellandschaft Stadt)は、モバイルプレイ組織のネットワークを運営する役割を担っている。遊具の作成・使用方法等の実践的、理論的な情報の他、ファンディングに関する情報等を、様々な情報誌の発刊や会議を開催することで他のモバイルプレイ活動団体と共有している。また、ネットワークの運営を行う他にも団体自らモバイルプレイの活動やシュピールハウス(Soielhaus)という施設の運営、地域の子どもマップ作り等のプロジェクトも運営している。

フランクフルト:アベントイヤーシュピールプラッツギーダーヴァルド
フランクフルト市において活動を展開するアベントイヤーシュピールプラッツギーダーヴァルド(Abenteuerspielplatz Riederwald)は、冒険あそび場を運営する他に、数々の規模の大きな遊具を搭載したモバイルプレイを運営している。当団体は非営利活動の法人であるが、代表を務めるパリス氏は政治家でもあるため、積極的な市政への働きかけから青少年支援の取組には行政予算から安定的に確保されている。行政からの委託を主とする活動形態において、この様な政治的な取組を並走させることは活動の継続に極めて効果的であると考えられる。

ライプツィヒ:カオス
ライプツィヒ市において活動を展開するカオス(KAOS)は、元々一つの団体として運営されていたが、行政支援が充分ではなかったために、より大きな団体の傘下に入ることでプロジェクトとして活動を継続している。行政の支援は必ずしも十分なものではないため、時として活動休止や他活動との統合を図らざるを得ないケースもある。

準備(地)に関する特徴のある活動

次に、準備(地)の特徴について紹介する。モバイルプレイの活動準備の多くは、郊外地にある倉庫において為される。倉庫の規模は様々で、プロジェクトの数や搭載する遊具によっても違いがある。

フライブルグ:シュピールモビールフライブルグ
フライブルグ市で活動を展開するシュピールモビールフライブルグ(Spielmobile Freiburg)は、積極的に他都市の活動団体とも連携を図る団体の一つであり、様々な情報を取り入れて活動に活かしている。そのため、多くの遊具を所有しており、それらはオフィスに併設された大規模な倉庫の中に保管されている。また、遊具には手作りのものも多いため倉庫には修理場が設けられており、遊具の修理も手作業で行われている。

移動に関する特徴のある活動

移動に関する特徴として遊具を搭載する乗り物に着目すると、ヒアリングを実施した内の多くがバンを活用してモバイルプレイの活動を展開していたが、中には特徴を持った乗り物を活用する団体もあることが分かる。

ハノーファー:ユキモブ
ハノーファー市において活動を展開するユキモブ(JuKiMob)は、かつて消防車として使われていた乗り物を活用している。消防用の器材に代わって遊具が搭載され、ヒアリング結果によれば、目立った外観を見つけると子どもたちが駆け出してくる様子も見られる様である。

デュッセルドルフ:クニープス
一方、デュッセルドルフ市でBDKJデュッセルドルフ(BDKJ Düsseldorf)という団体が運営しているモバイルプレイプロジェクトであるクニープス(KNIRPS)においては、米国で利用されていたスクールバスが遊具の運搬に活用されている。

以上の様に、遊具の運搬をするための乗り物自体の視覚的な要素を際立たせることで、活動が認知されやすくなり、地域における交流拠点として活動が育っていくことも考えられる。

実践(場)に関する特徴のある活動

最後に、実践(場)に関する特徴として、活動頻度、活動場所、及び活動内容について、着目していく。

まず、活動頻度について、ヒアリング結果から概ね次の2つのカテゴリに分けられた。すなわち、年間通して1か所につき2,3日滞在して市内の無数の場所を巡回していく「不定期滞在型」と、週に1度あるいは隔週に1度程度の頻度で特定の場所において活動を展開する「定期訪問型」である。その他、年に1回から数回、特別なイベントを開催する場合もあり、頻度について地域ごとに特徴が異なっている。

モバイルプレイの活動は、その柔軟な移動性からニーズに応じた場所で活動を展開することが出来るが、一方では活動主体の数や運営能力が限られていれば当然活動が可能なエリアは制限せざるをえず、社会的なニーズや対象範囲の広さ等の条件と相関させた頻度の設定が有効であると考えらる。

次に、活動場所について見ていく。モバイルプレイの活動は元来社会課題を解決するための方法という性格が強く、例えば子どもの外遊びの環境が劣悪であると判断された地域にある公園等、基本的にはその地域の社会課題に対応した場所が選定される。

ハンブルグ:シュピールティガー
ハンブルグ市においては、モバイルプレイ活動を主導する3団体が市内において活動を展開している。団体はそれぞれ担当する地理的エリアを持ち、その範囲内において活動をしている。中東地域の戦火を逃れてドイツに流入してきた多くの難民を受け入れてきたハンブルク市には、難民キャンプが複数点在しており、市は1990年初頭からモバイルプレイを駆使した難民の地域社会への統合を図っている。3団体の内の1つであるシュピールティガー(Spiel Tiger)は、1991年以来、他都市の活動と比較しても規模の大きいトラックを用いて遊具を運搬し、市北部の難民キャンプを定期的に巡回して子どもたちに遊びを届けている。また、3団体は年に一度、1週間をかけて5会場を巡る「モバイルプレイキャラバン」を合同開催している。難民と地元社会の統合という地域課題の解決に向け、難民が地域社会に入り込むきっかけとしてモバイルプレイが活用されている。

最後に活動内容について、既述の通りモバイルプレイ活動団体のネットワークを通した情報の共有もあり、搭載される遊具や運営されるプログラムは似通っている場合もあるが、各団体が独自の考え方に基づいて準備する活動のコンテンツも多く見られる。

ベルリン:シュピールヴァーゲン1035
ベルリン市において活動を展開するシュピールヴァーゲン1035(Spielwagen 1035)は、1979年以降ベルリン市フリードリヒスハイン=クロイツベルク区においてモバイルプレイの活動を展開してきた。当活動団体は、独自に編み出した「テーマ遊び」のコンテンツを複数準備し、毎週定期的に訪れる公園で実施される遊び活動の際に、次の週の活動で遊ぶテーマを子どもたちが投票した結果を参考にして決定する。人気テーマの1つである「海賊遊び」では、公園の芝生を海に見立て、海賊船のやぐらを組み立てて準備をする。子どもたちは海賊や海兵に扮して遊びに参加し、時より芝生に敷かれたブルーシートが強烈な高波として船に襲い掛かる等の一連のストーリーに沿って各々が遊びを楽しむことが出来る。

ストーリー性を持たせたテーマ遊びは子どもたち同士の交流を促進する契機ともなると考えられる。

ミュンヘン:シュピールクルトゥア
ミュンヘン市において1972年よりモバイルプレイの活動を開始したペダゴーギッシュ・アクツィオン・シュピールクルトゥア(Pädagogische Aktion/SPIELkultur)は、芸術教育運動の流れを汲んで開始された活動でもあり、現在でもアートや音楽に関するコンテンツを盛り込んだプログラムを実施している他、近年においては特にメディア媒体を活用した遊びコンテンツが顕著だ。他都市の事例には多く見られる屋外遊びに限ることなく、屋内における活動の為のモバイルプレイが展開されている。

ブレーメン:シュピールランドシャフトシュタッドブレーメン
ブレーメン市において活動を展開するシュピールランドシャフトシュタッドブレーメン(Spiellandschaft Stadt Bremen)のモバイルプレイは、従来のモバイルプレイ活動において用いられる遊具ではなく、穴の開いた木箱や、板、タイヤ、木柱、梯子等を搭載しており、活動に参加する子どもたちはそれらを自由に組み合わせてオリジナルの遊具を組み立てる。これは「場づくり行動」が児童の創造力を養うとする教育理論に基づいており[ⅲ]、2015年よりノルトライン=ヴェストファーレン州においてモバイルプレイ活動を開始したアー・バー・アー・ファッハーバンド(ABA Fachverband)においても導入されている。その他にも、バター作りや味を見極める味覚テスト等の食育プログラムを盛り込んだモバイルプレイ活動も展開されている。

ドレスデン:シュピールモビールヴィアベルヴィンド
最後に、ドレスデン市におけるシュピールモビールヴィアベルヴィンド(Spielmobile Wirbelwind)の活動を紹介したい。当団体のモバイルプレイ活動の1つに「遊び場調査人」という特別プログラムがある。このプログラムでは、子どもたちは市内の公園の過ごしやすさや遊具の使いやすさを独自の視点で調査・評価し、調査・評価を行った公園をより良くするための考えを、公園調査時に採集した枝やビール瓶の栓等を用いて作成したモデルにして表現する。作成し終わった後に行う発表会においては、ランドスケープ・アーキテクトが参加し、発表を聞いた後に子どもたちの提案を実現するためのアイデアをアドバイスし、提案はより洗練されるのである。プログラムにおいてまとめられた提案は、最終的に行政に提出される。

当プログラムの様に、遊び要素を盛り込んだプログラムによって得られた子供たちの提案を遊び環境の改善のために形にすることは、子どもの地域参画に向けた取り組みとしても有効であると考えられる。

まとめ

以上をまとめると、ドイツ諸都市の事例において、より効果的な活動は、従来型の典型を単純に取り込むのではなく、地元地域における社会課題を解決する術として展開されていることが分かる。したがって、モバイルプレイにおける従来型の形態(活動のスタイル)や既存の素材(遊びプログラムの内容や遊具)に固執するのではなく、柔軟な態度で取組を改善していく態度が活動を継続するための基礎となるだろう。

これに加えて、活動の安定的な継続性を確保していく取組として、いくつかの事例においては行政への更なる積極的な働きかけが為されていた。すなわち、フランクフルト市における活動主体の政治的な動きや、ドレスデン市における子どもたちによる公園デザインの提案は、活動の社会的意義に対する理解を広く得ていくことにも有効だ。また、ミュンヘン市におけるネットワークを形成する取組は、活動主体がより密な連携を図りながらこの働きかけを強化していくことにも繋がる。

ドイツにおいて、モバイルプレイ活動は50年を経て海外の諸都市と連携を図るほどに成長した。日本で1980年代に実験的に導入されたモバイルプレイは2011年の震災以降に特に盛り上がり始めているが、その体制が充分に整備されているとは言い難い。その一方で、移動式の取組が古くからあった日本社会の土壌には馴染みやすいようにも思える。日本におけるモバイルプレイの活動がいかなる展開を遂げるか、その動向に注視したい。



参考文献

[ⅰ] Zacharias, W. 1990. Spielmobil: mobile Spielräume, oder: die Freiheiten des Spiels. Das Spielmobilbuch, pp. 55-68. 及びGerhard Knecht, Bernhard Lusch (Hrsg.): Spielen Leben Lernen. Bildungschancen durch Spielmobile.内のWolfgangによる議論を参照。

[ⅱ] Sozialgesetzbuch (SGB VIII) Achtes Buch, Kinder- und Jugendhilfeを参照。

[ⅲ] Miedzinski, K. & Fischer, K. (2009). Die Neue Bewegungsbaustelle: Lernen mit Kopf, Herz, Hand und Fuss - Modell bewegungsorientierter Entwicklungsförderung. Borgmann Media. を参照。

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