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10 本名

2014年11月22日

土曜日。

いよいよ彩乃とのLINEは、休日にも及んでいた。
妻の目を盗み、LINEを送る直哉には、後ろめたさはあるものの、もうこの恋心は止められないという、ある種の開き直りがあった。妻の前ではスマホゲームにハマっている体で、四六時中スマホから手を離さず、素早いアプリ切り替えでLINEを操っていた。

「おはよう(^-^) もう起きてる…笑。エッチなぱるお君だ…❤︎ お口が小さいので、丸ごとは無理です\(//∇//)\笑」

「おはよ☆ 彩乃さんも起きてるじゃん(^-^) 朝からシモ系スミマセン… あの部分がフックになったもので… じゃあペロペロだけでイイです。笑」

昨夜、男性を口で愛撫する内容のアダルト動画を鑑賞し、官能日記を書いたことに、土曜日の朝にも関わらず、彩乃が反応してきた。

「寝不足で、ぱるお君が壊れてる。。。(-_-)笑。あの部分は舐められると気持ちいいの?」

「えーっと実はそんなに感覚ないです。笑。つねられても、痛くないぐらい?休日も、LINEしてても大丈夫なの?迷惑になってない?そもそも平日から迷惑になってない(/_<。)?」

一応、彩乃の家庭や、彩乃と彩乃の好きな人の時間を気遣う配慮は見せたものの、平日だけでなく休日にも直哉に対して時間を割いてもらえることに、彩乃を独占している喜びを感じていた。

「エッチ\(//∇//)\❤︎ 大丈夫だけど…やめとこか?ぱるお君、育児手伝わないとね(^-^)」

「オレは大丈夫だけどさ… ちょっと前、今日はLINE控えめにしとこっかなーって決めた日、、ツラかった(つA`) うちの子たち、そんな手かからないから放任です。笑。今日は、プチ大そうじでも、しよっかなぁ〜って思ってます(^-^)/」

「日記の続き楽しみにしています(((o(*゚▽゚*)o)))」
「日記のつづき。。必要?笑。ちょっと虚しくなってきた。笑」

以前、彩乃に頼まれた直哉と彩乃を主人公とした妄想恋愛日記のことだ。書き始めたは良いものの、現実に付き合うわけでもない二人のことを、願望込めて書いていると、バカバカしく感じる瞬間もあった。

「今日はお昼に水泳部の先輩のお別れ会で子供と一緒に参加です^_^; 帰ったら勉強しなきゃ(・・ 大掃除頑張ってね(^-^) 日記。。。必要だよ〜❤︎ 名前は、なつみに変えといてください(=^x^=)笑」

「なつみ❤︎❤︎❤︎ なつみは本名?いいの?教えちゃって(*ノ∀ノ) ぱるおの本名も知りたい?えっ?不要?Σ(゚Д゚;) もう一度、腱鞘炎になりながらゲームをクリアすると、分かるかも♪」

突然、本名を明かして出掛けた彩乃… いや、なつみに対する驚きと戸惑いと嬉しさが入り混じった、よく分からない感情に襲われた。なぜ急に本名を明かしたのか?実は、LINE上の表示で「彩乃=なつみ」であることに、薄々感づいていた。ただ、たった今それが確信となった。その喜びで、直哉も一気に真実を語りたい気持ちに駆り立てられた。

なつみには嘘を語りたくない… 真実で相対したい。

本名を明かすという行為は、以前にも感じた「騙されてもよい」という感覚と、本気の恋に発展する可能性を天秤にかけた大きな潮目だと、直哉は感じていた。自身が手がけたスーパージャンプマンというゲームを、以前、なつみは必死になって遊んだと、日記に書いていた。そのエンドロールに直哉の名前が刻まれていることを、遠回しに伝えてみた。

「お腹いっぱい(=^x^=)笑。私がNatsumi って知ってるでしょ❤︎?笑。ゲーム?スーパージャンプマン???」

「うん、スーパージャンプマン♪なつみちゃん❤︎ かなぁーとは思ってたけど、聞いてなかったから。。それで日記書いたら、また何で名前変わってんのーみたくなるじゃん(-ω-)」

「"ジャンプマン" って名前なの(・・;)?初めて聞いた(O_O)!!! "春美" にする?笑。レッズが負けた❤︎笑笑笑」

「違うしっ!笑。もう一度ジャンプマンをクリアすれば、出てくるかもね、って言ったのヾ(_ _。) なんでレッズ負けて笑ってんの。。笑。春子と直哉には、ちょっとだけ意味があったんだよ(^-^)」

 「カルビンて名前(O_O)?!!!レッズ好きじゃないから〜笑。ぱるお君の元彼女が春子なの…❤︎?もう腱鞘炎になりたくないし、あの時間が本当に無駄だったと思うから、ジャンプマンはやりたくない>_<!」

「ヒドい言われようだゎ。涙。クリアすると、制作者のお名前が映画の最後みたいに流れてくるからさ…」

「ジャンプマンって、ぱるお君が作ったの???わかんない(・・;)」

「こないだ日記に食いついたとき、作ったんだよ、って言ったじゃん(。-`ω-) さては、彩乃ッピ… 好きな人以外の話は適当に聞いてるなぁ〜(つД`)・゚・

NAOYA ❤︎ HARUKO… PARUKO?

文字ったら、AYANO ❤︎ PARUO になるかな、、ぐらいの仕込みです… お粗末さまでしたヾ(_ _。)」

「え〜〜本当だったの?スゴイ!!!冗談だと思っていたから(^^;; 野球少年だと思っていた〜〜❤︎ ゲーム出来そうもないもん( ̄▽ ̄)笑」

彩乃はなつみ。
本名が分かっただけで、一気に親密度が上がった気がした。サイトのエッチしたいだけな奴らを出し抜いた気がした。ただ、どうして急に本名を教えてきたのだろうか。その女心が分からない。

直哉は、自分に置き換えて考えてみた。
自分が相手に本名を教えるときは、素性がバレてもいい良いときだ。バレることにより、そのステータスで相手を惹きつけられるとき、もしくは本気で相手を好きになったとき、それを恥じずに言えるときだ。

なつみも、そうなのだろうか。
(つづく)


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